異常性癖者たちー三人で交わる愛のカタチー

フジトサクラ

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相応しい人ー松本sideー

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「はじめまして、楠木真琴と申します。今日はお時間頂いてありがとうございます。」
「こちらこそ、ありがとうございます。」
「その…お会いできるのを、楽しみにしておりました。こんな素敵な方とご縁があって、嬉しいです。」
「ありがとうございます…」

頭の先から爪の先まで完璧に整えられた美しい女が顔を赤らめて微笑む。
楠木グループのご令嬢とだけあって気品に溢れているが、そんな美女を前にしても、頭の中は凛のことでいっぱいだった。

凛から距離をとってもう一か月が経つ。
何かに集中しようとしても思い浮かぶのは凛のことばかりで、想像以上に自分の中に占める彼女の割合が大きくなっていたことに今更ながら気づく。

出張先での一件があってから、吉岡に呼び出されて話す機会があった。

ーーーー
「…先日はご迷惑をおかけしました。堂坂には直接謝りました。」

オフィスのビルの屋上で吉岡は頭を下げる。

「そうか。他に何か言いたいことでも?」
「…あのあと、部屋に社長が入っていくのを見ました。」
「うん、それで?」
「堂坂の声がして、、…あなたたち、2人して堂坂を…」

ーーー聞いていたのか。

「…仮に君の考えている通りだとして、何か君に問題ある?」
「俺は堂坂を心配しているんです。あなたたちのしていることは、堂坂を幸せにする行動なんですか?」
「…………」
「遊びなら今すぐ堂坂から離れて下さい。万が一遊びじゃないんだとしても、堂坂が幸せになる未来がないなら、付き合い方を考え直すべきだと思います。」

凛の未来という言葉に、反論できない自分がいて言葉に詰まる。
三人の奇妙な関係に溺れながらも、頭のどこかで常に考えていた、愛おしい人の未来。
大事な時間を奪っているのではないかという懸念。

「堂坂を悲しませたくはないので、松本さんや社長が困るようなことはしません。でも…自信を持って堂坂を幸せにできると言えないなら、この先も考えが変わらないとは言えません。」

権力に怯まずに立ち向かう吉岡は立派だ。
凛のことを考えて本気で心配しているのも伝わる。
俺は…俺はどうだろうか。本当に凛のためになることをしてやれているのだろうか。

「……凛のことは、俺も、何より大事に思ってるよ。…忠告どうもありがとう。」

一緒に過ごす時間が長くなるほど、凛への愛情と、自分のものにしたいという独占欲が増していき、永遠には続かないであろうこの関係性に見て見ぬふりをしてきた。

現実を突きつけられたようで、一言言い返すのもやっとの思いで逃げるようにその場を後にする。
ーーーー

それからは、高まりすぎた自分の感情を冷ますためにも凛と距離を置いてきた。
そしてそうするうちにだんだんと、自分が身をひくことで全てが丸く収まるのではないかと思うように至った。

東條は性癖を除けばこれ以上ないいい男だ。財力だって十分にあるし、社会的信用もある。

ーーーそれに比べて俺は…

「っっ……………………」

幼い頃の記憶がフラッシュバックし、耳鳴りがしだす。

身体中の鈍痛。
手に感じる重い衝撃。
足裏に感じる生暖かさ。
サイレンの音。

全てを振り払うように首を振りため息をつく。

ーーー東條は、何者にもなれない俺を救ってくれた恩人だ。そんな恩人と大事な人を取り合いたくはない。

そう思いながらも、会えない日が続くほどに、自分でも驚くほど生気が薄れていくようで、不甲斐なさを感じていた。

そんな時に父親から出た見合い話。
正確にはずっと前から言われていてのらりくらりとかわしていたのだが…
会社を継がないならせめて見合いで取引先の令嬢と結婚して役に立てと、半ば強引に決められてしまったのだ。

前なら絶対に断っていたところだが、凛への想いを断ち切るにはこれが一番いいかもしれないと思い至り、この場に臨んでいる。

「隼輝さん?聞いてますか?」
「あ、、すみません。寝不足のようで…」
「あら、そうだったんですね。…今日はもう帰ってお休みになられますか?」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「本当?ならよかった!このワインも飲んでみたくて!」

こちらにお構いなしに楽しげに話す姿を眺めながらも、内容はまったく入ってこなかった。
適当に微笑んで相槌をうつだけで嬉しそうに話し続けているこの女は、一体俺の何を見ているのだろうか。
それでも俺は…こうでもしないと、きっとまた彼女に縋ってしまう。
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