7 / 30
解れる心ー松本sideー
しおりを挟む
車を走らせながら、何度も時計を気にする。
こんなに気持ちが急ぐのは久しぶりだ。
信号待ちをしながら昨晩のことを思い出す。
ーーーー
すやすやと眠ったままの彼女を寝室に運んだ後にリビングに向かうと、社長がバスローブ姿でワイングラスを掲げる。
「おぉ、ようやくヤッたか?」
「っ、お叱りなら、甘んじて受けます…」
「は?何言ってんだ?毎回気ぃ遣ってやってるのに、なかなか前に進みやしないんだから。」
「それ、、どういう意味ですか、、」
「…お前、昔からこういうことだけは本当に鈍いな。だから女ができないんだよ。」
「……………」
鉄仮面のくせにわかりやすくむっとする松本に思わず笑ってしまう。
「むっとするな、可愛いやつめ。前も言っただろ?俺に遠慮はしなくて良いと。別にお前と凛がどうなろうと俺は気にしない。」
「そうは言っても、凛さんはあなたを慕っているんですから…」
「はぁ~~っ、、、やれやれだ。ま、いい。そのうちなるようになるさ。お前が思ってる以上に、凛はいい女だからな。」
楽しげに笑う東條にイラっとしつつも、凛に手を出したことを咎められずにホッとする。
どうやら凛を想うことは許されているようだが…彼女の気持ちを無視して自分の気持ちを押し付けるわけにはいかない。
悶々とした気持ちを抱きながら立ち尽くしていると、
「あ、明日明後日の出張、俺が行くから。」
「え?いや、社長が行くほどの案件では」
「黙って言うこと聞いてろ。その代わり凛を頼むな。体調が大丈夫そうなら、土曜はどっか連れ出してあげて。」
「わ、わかりました…」
突然の命令に戸惑いつつも、凛と二人きりで過ごせることに喜びを隠せない。
「くく、嬉しい時の顔だな。」
ポーカーフェイスの松本はどんな時も冷静で周りからは冷たく見られがちだが、東條との付き合いは長く、ちょっとした表情の変化でも心を見通されてしまう。
東條は松本にとって数少ない心を許せる相手だ。恋心とは少し違うにせよ、ただ尊敬する上司や先輩としての好き、とは違った好き、という感情を抱いている。
性タイプはストレートであると自覚しているが、不思議と東條に体を求められることを不快と思ったことはなかった。
この説明しようのない感情と関係性が嫌いではないし、壊したくないと思っている。
ーーー
駐車場に車を停めると、足速に部屋へと向かう。
中に凛がいるのを知っているため一瞬呼び鈴を鳴らすべきか迷うが、それも変かといつも通りスペアキーでドアを開けた。
「あ、松本さんっ、、お帰りなさいっ」
凛がパタパタと玄関の方まで小走りでやってきて、少し気まずそうに挨拶する。
「凛さん、昨日は、」
「昨日はすみませんでしたっ、私っ、とってもはしたなかったうえに、一人で勝手に寝てしまうなんてっ………それに、体も綺麗にして頂いて、、お部屋まで運んでくださって、ありがとうございますっ…!重かったですよねっ、、」
恥ずかしそうに顔を赤らめて、早口で謝罪とお礼を述べる彼女に面食らう。
謝らなきゃいけないのはこちらなのに、そんなふうに先に言わせてしまったことが更に申し訳ない。
「凛さんは何も悪くないですよ。僕が酷いことをして……本当にすみませんでした。もう、あんなことしませんから、、だから、心配しないでください…」
凛の顔を見ながら誠意を込めて謝罪する。
黙り込む彼女に申し訳なさと少しの切なさを感じながら、もう一度謝ろうとすると、そっと手を取りきゅっと握られる。
「ぁの、、、そのっ、、、もうしないなんて、、言わないで下さい、、、」
「え、、?」
「私が、シて欲しかったんです…!だから松本さんも、もう謝らないで?」
「凛さん…」
恥ずかしそうに俯きながらも、ちらりと不安げにこちらを見つめてそんな可愛いことを言うから堪らない。
「ふふっ、恥ずかしいから、もうこの話終わりですっ。松本さん、それよりこっちきて、はやくっ」
ーこういう飾らない素直なところに惹かれたんだったな。
照れ隠しするようにぐいぐいと手を引く凛を愛おしく感じ、明るく振る舞ってくれる健気さに感謝する。
リビングに連れられると、ダイニングテーブルには美味しそうな和食料理が並んでいた。
「わ、凄い!これ全部凛さんが作ったの?」
「社長が下にスーパーあるって教えてくれて。お腹、空いてますか?お礼の気持ちを込めて作ったんです」
肩をすくめて、ふふ、と笑う表情が眩しい。
「凄く嬉しいです、ありがとう。とっても美味しそうだね。お昼抜いたから、お腹空いてたんだ。」
「えぇっ、また珈琲だけだったんですか?おにぎりだけでも食べた方がいいって前から言ってるのに…。すぐお味噌汁温めますから、着替えてきてください!」
もうっ、と小言を言う姿も可愛らしい。
彼女と過ごすことで心が解れていくこの感覚が、くすぐったくも心地よくて…
自分も、もう少し素直になろうと思えるのだった。
こんなに気持ちが急ぐのは久しぶりだ。
信号待ちをしながら昨晩のことを思い出す。
ーーーー
すやすやと眠ったままの彼女を寝室に運んだ後にリビングに向かうと、社長がバスローブ姿でワイングラスを掲げる。
「おぉ、ようやくヤッたか?」
「っ、お叱りなら、甘んじて受けます…」
「は?何言ってんだ?毎回気ぃ遣ってやってるのに、なかなか前に進みやしないんだから。」
「それ、、どういう意味ですか、、」
「…お前、昔からこういうことだけは本当に鈍いな。だから女ができないんだよ。」
「……………」
鉄仮面のくせにわかりやすくむっとする松本に思わず笑ってしまう。
「むっとするな、可愛いやつめ。前も言っただろ?俺に遠慮はしなくて良いと。別にお前と凛がどうなろうと俺は気にしない。」
「そうは言っても、凛さんはあなたを慕っているんですから…」
「はぁ~~っ、、、やれやれだ。ま、いい。そのうちなるようになるさ。お前が思ってる以上に、凛はいい女だからな。」
楽しげに笑う東條にイラっとしつつも、凛に手を出したことを咎められずにホッとする。
どうやら凛を想うことは許されているようだが…彼女の気持ちを無視して自分の気持ちを押し付けるわけにはいかない。
悶々とした気持ちを抱きながら立ち尽くしていると、
「あ、明日明後日の出張、俺が行くから。」
「え?いや、社長が行くほどの案件では」
「黙って言うこと聞いてろ。その代わり凛を頼むな。体調が大丈夫そうなら、土曜はどっか連れ出してあげて。」
「わ、わかりました…」
突然の命令に戸惑いつつも、凛と二人きりで過ごせることに喜びを隠せない。
「くく、嬉しい時の顔だな。」
ポーカーフェイスの松本はどんな時も冷静で周りからは冷たく見られがちだが、東條との付き合いは長く、ちょっとした表情の変化でも心を見通されてしまう。
東條は松本にとって数少ない心を許せる相手だ。恋心とは少し違うにせよ、ただ尊敬する上司や先輩としての好き、とは違った好き、という感情を抱いている。
性タイプはストレートであると自覚しているが、不思議と東條に体を求められることを不快と思ったことはなかった。
この説明しようのない感情と関係性が嫌いではないし、壊したくないと思っている。
ーーー
駐車場に車を停めると、足速に部屋へと向かう。
中に凛がいるのを知っているため一瞬呼び鈴を鳴らすべきか迷うが、それも変かといつも通りスペアキーでドアを開けた。
「あ、松本さんっ、、お帰りなさいっ」
凛がパタパタと玄関の方まで小走りでやってきて、少し気まずそうに挨拶する。
「凛さん、昨日は、」
「昨日はすみませんでしたっ、私っ、とってもはしたなかったうえに、一人で勝手に寝てしまうなんてっ………それに、体も綺麗にして頂いて、、お部屋まで運んでくださって、ありがとうございますっ…!重かったですよねっ、、」
恥ずかしそうに顔を赤らめて、早口で謝罪とお礼を述べる彼女に面食らう。
謝らなきゃいけないのはこちらなのに、そんなふうに先に言わせてしまったことが更に申し訳ない。
「凛さんは何も悪くないですよ。僕が酷いことをして……本当にすみませんでした。もう、あんなことしませんから、、だから、心配しないでください…」
凛の顔を見ながら誠意を込めて謝罪する。
黙り込む彼女に申し訳なさと少しの切なさを感じながら、もう一度謝ろうとすると、そっと手を取りきゅっと握られる。
「ぁの、、、そのっ、、、もうしないなんて、、言わないで下さい、、、」
「え、、?」
「私が、シて欲しかったんです…!だから松本さんも、もう謝らないで?」
「凛さん…」
恥ずかしそうに俯きながらも、ちらりと不安げにこちらを見つめてそんな可愛いことを言うから堪らない。
「ふふっ、恥ずかしいから、もうこの話終わりですっ。松本さん、それよりこっちきて、はやくっ」
ーこういう飾らない素直なところに惹かれたんだったな。
照れ隠しするようにぐいぐいと手を引く凛を愛おしく感じ、明るく振る舞ってくれる健気さに感謝する。
リビングに連れられると、ダイニングテーブルには美味しそうな和食料理が並んでいた。
「わ、凄い!これ全部凛さんが作ったの?」
「社長が下にスーパーあるって教えてくれて。お腹、空いてますか?お礼の気持ちを込めて作ったんです」
肩をすくめて、ふふ、と笑う表情が眩しい。
「凄く嬉しいです、ありがとう。とっても美味しそうだね。お昼抜いたから、お腹空いてたんだ。」
「えぇっ、また珈琲だけだったんですか?おにぎりだけでも食べた方がいいって前から言ってるのに…。すぐお味噌汁温めますから、着替えてきてください!」
もうっ、と小言を言う姿も可愛らしい。
彼女と過ごすことで心が解れていくこの感覚が、くすぐったくも心地よくて…
自分も、もう少し素直になろうと思えるのだった。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる