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【5章】二度目の恋
甘い時間1
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「一人で食べられます」
「俺の機嫌がいいときは素直に甘えておけ」
冗談なのか本気で言っているのか、分からない。
横暴な言い草に反論しようと口を開けると、すかさず林檎が押し込まれる。噛むと甘酸っぱい果汁が溢れて、渇いた喉を流れていった。林檎にも黄色の蜜が含まれているが、さらに蜂蜜もかかっている。ほとんど甘さしか感じない果物を、千歳はゆっくりと飲み込んだ。
「食い方が下手だな」
「あ……」
レグルシュの親指が、唇をなぞる。拭った黄金色の蜂蜜を、千歳の舌に触れさせた。粘膜に触れられると、昨夜の記憶が否応なく呼び起こされる。指を舌で押し返すようにすると、レグルシュが笑みを浮かべる。千歳の顎を掬い取り、深い口付けの音を部屋中に響かせた。
「はぁ……や、あ……」
押し倒され、無我夢中で唇を貪られる。苦しさで涙の膜が張った瞳で見上げれば、口付けはより激しさを増した。
「レグルシュさん……あっ、あぁ、ん」
首筋、鎖骨へと時折肌を吸い上げて、レグルシュは鬱血の痕を残していく。淡い色の胸を指でぐりぐりと摘まれると、抵抗する意思が溶けていく。昨夜のような性急さは微塵もなく、蕩けるような愛撫を重ね、強張る千歳の身体を開いていった。
「……今まで、何人のアルファに抱かれた?」
「あっ、あ……」
唇を引き結び、千歳は他所を向いた。レグルシュは小さく舌打ちをし、やや乱暴に乳首を捻った。痛みのほうを強く感じてしまい、生理的な涙で視界が滲む。痛みに耐えかねて、千歳は唇を開いた。
「い……言いたく、ない」
「それはそれで嫉妬するな」
「あ、んん……!」
甘い言葉を吐くのは、オメガのフェロモンのせいだろうか。レグルシュに触れられる場所が全て気持ちよくて、肌がざわつく。曖昧な返事で怒らせてしまったのだと心配したが、レグルシュはその後も優しく千歳に触れてくる。昨日、レグルシュを受け入れたところは、まだ柔らかい。
「覚えてるか? 昨日はここで何度も達していたな」
「あぁっ、や、あ、ん……! だ、だめ……そこは……」
ここ、と言いながら、レグルシュは埋めた二本の指でとんとんと内側を軽く叩く。要領を掴んだレグルシュが、一際感じる場所をぐっと押し上げた。
「あ……ああぁ、ん……っ! い、く……! イっちゃ、う……ああっ、あ、あ……」
視界の隅で白い光が飛んだ。埋まっている彼の指から逃れるように背中を逸らしたが、それを分かっていて千歳の動きを追いかけてくる。一度も触れられていない前は、切なそうに震え、精を放っていた。
尾を引く快感に身悶えている間に、レグルシュはボトムを下ろし、硬くなったものを千歳の太腿に擦りつけていた。
「ま、待って……」
「……っ。何だ?」
「その、えっと……つけて、ください」
消え入りそうな声で、千歳は「コンドームを」と口にした。一度目は頭の中にその危機感はあったものの、あまりに突発的で言い出せるような雰囲気ではなかった。ベッドサイドの引き出しからスキンを持ってくると、千歳に見せつけるように封を破った。
「何故真剣に見つめるんだ」
「別に、深い意味は」
「そんなに心配か?」
口の端を上げたのを、千歳は見逃さなかった。熱の集まる場所へ、手首を引かれる。千歳のものよりも一回り以上大きいそれが、生々しい感触を手のひらに伝えてくる。
「千歳がつけてくれ」
「あっ……」
向かい合い、悪戯っぽくそう囁かれた。嫌だと言えば、レグルシュはきっと無理強いはしないと思うが、彼が望んでいることをしてやりたいとも思う。しかし、勝手が分からず、千歳はジェルで濡れたスキンを持って呆然としていた。
レグルシュは薄い笑みを溢すと、千歳にその手解きをする。恥ずかしくてじっと見ていられない。アルファにしか存在しない、根元の膨らみまで下げてしまうと、千歳の手を離した。
「使い方が分からなかったのか? その年で」
いまだくつくつと笑う男に、千歳はむっとする。
「……あなたの大きさが普通ではないので、戸惑っていただけです」
「わざと言っているのか。それは」
正直に告白したのに、わざとなどと決めつけられたように言われ、千歳はまたも引っかかった。柔らかなマットへと雪崩れるように倒され、足の間にレグルシュの身体が割り込んでくる。髪をかき上げられ、汗ばんだ蟀谷へとレグルシュはそっとキスを落とす。そうされるのなら唇のほうがいい。率直なことを、心の底で思ってしまった。
「ん、あっ、あぁ……あ」
レグルシュのものが埋まる度に、淫らな水音が響く。
「できるだけ力を解け。入るものも入らない」
「な……そんな、こと。できな……」
今、力を抜いてしまったら、一気に押し入ってきそうで怖い。レグルシュは苦しげに息を吐き、掠れた声で千歳を甘く誘う。
「できたなら、もっとよくしてやる」
「ん、んん……っ! あ、あぁ……」
そんな。卑怯だ。千歳が不服そうに唇を尖らせると、レグルシュはぐっと体重をかけてきた。
「俺の機嫌がいいときは素直に甘えておけ」
冗談なのか本気で言っているのか、分からない。
横暴な言い草に反論しようと口を開けると、すかさず林檎が押し込まれる。噛むと甘酸っぱい果汁が溢れて、渇いた喉を流れていった。林檎にも黄色の蜜が含まれているが、さらに蜂蜜もかかっている。ほとんど甘さしか感じない果物を、千歳はゆっくりと飲み込んだ。
「食い方が下手だな」
「あ……」
レグルシュの親指が、唇をなぞる。拭った黄金色の蜂蜜を、千歳の舌に触れさせた。粘膜に触れられると、昨夜の記憶が否応なく呼び起こされる。指を舌で押し返すようにすると、レグルシュが笑みを浮かべる。千歳の顎を掬い取り、深い口付けの音を部屋中に響かせた。
「はぁ……や、あ……」
押し倒され、無我夢中で唇を貪られる。苦しさで涙の膜が張った瞳で見上げれば、口付けはより激しさを増した。
「レグルシュさん……あっ、あぁ、ん」
首筋、鎖骨へと時折肌を吸い上げて、レグルシュは鬱血の痕を残していく。淡い色の胸を指でぐりぐりと摘まれると、抵抗する意思が溶けていく。昨夜のような性急さは微塵もなく、蕩けるような愛撫を重ね、強張る千歳の身体を開いていった。
「……今まで、何人のアルファに抱かれた?」
「あっ、あ……」
唇を引き結び、千歳は他所を向いた。レグルシュは小さく舌打ちをし、やや乱暴に乳首を捻った。痛みのほうを強く感じてしまい、生理的な涙で視界が滲む。痛みに耐えかねて、千歳は唇を開いた。
「い……言いたく、ない」
「それはそれで嫉妬するな」
「あ、んん……!」
甘い言葉を吐くのは、オメガのフェロモンのせいだろうか。レグルシュに触れられる場所が全て気持ちよくて、肌がざわつく。曖昧な返事で怒らせてしまったのだと心配したが、レグルシュはその後も優しく千歳に触れてくる。昨日、レグルシュを受け入れたところは、まだ柔らかい。
「覚えてるか? 昨日はここで何度も達していたな」
「あぁっ、や、あ、ん……! だ、だめ……そこは……」
ここ、と言いながら、レグルシュは埋めた二本の指でとんとんと内側を軽く叩く。要領を掴んだレグルシュが、一際感じる場所をぐっと押し上げた。
「あ……ああぁ、ん……っ! い、く……! イっちゃ、う……ああっ、あ、あ……」
視界の隅で白い光が飛んだ。埋まっている彼の指から逃れるように背中を逸らしたが、それを分かっていて千歳の動きを追いかけてくる。一度も触れられていない前は、切なそうに震え、精を放っていた。
尾を引く快感に身悶えている間に、レグルシュはボトムを下ろし、硬くなったものを千歳の太腿に擦りつけていた。
「ま、待って……」
「……っ。何だ?」
「その、えっと……つけて、ください」
消え入りそうな声で、千歳は「コンドームを」と口にした。一度目は頭の中にその危機感はあったものの、あまりに突発的で言い出せるような雰囲気ではなかった。ベッドサイドの引き出しからスキンを持ってくると、千歳に見せつけるように封を破った。
「何故真剣に見つめるんだ」
「別に、深い意味は」
「そんなに心配か?」
口の端を上げたのを、千歳は見逃さなかった。熱の集まる場所へ、手首を引かれる。千歳のものよりも一回り以上大きいそれが、生々しい感触を手のひらに伝えてくる。
「千歳がつけてくれ」
「あっ……」
向かい合い、悪戯っぽくそう囁かれた。嫌だと言えば、レグルシュはきっと無理強いはしないと思うが、彼が望んでいることをしてやりたいとも思う。しかし、勝手が分からず、千歳はジェルで濡れたスキンを持って呆然としていた。
レグルシュは薄い笑みを溢すと、千歳にその手解きをする。恥ずかしくてじっと見ていられない。アルファにしか存在しない、根元の膨らみまで下げてしまうと、千歳の手を離した。
「使い方が分からなかったのか? その年で」
いまだくつくつと笑う男に、千歳はむっとする。
「……あなたの大きさが普通ではないので、戸惑っていただけです」
「わざと言っているのか。それは」
正直に告白したのに、わざとなどと決めつけられたように言われ、千歳はまたも引っかかった。柔らかなマットへと雪崩れるように倒され、足の間にレグルシュの身体が割り込んでくる。髪をかき上げられ、汗ばんだ蟀谷へとレグルシュはそっとキスを落とす。そうされるのなら唇のほうがいい。率直なことを、心の底で思ってしまった。
「ん、あっ、あぁ……あ」
レグルシュのものが埋まる度に、淫らな水音が響く。
「できるだけ力を解け。入るものも入らない」
「な……そんな、こと。できな……」
今、力を抜いてしまったら、一気に押し入ってきそうで怖い。レグルシュは苦しげに息を吐き、掠れた声で千歳を甘く誘う。
「できたなら、もっとよくしてやる」
「ん、んん……っ! あ、あぁ……」
そんな。卑怯だ。千歳が不服そうに唇を尖らせると、レグルシュはぐっと体重をかけてきた。
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