上 下
34 / 49
【5章】二度目の恋

甘い時間1

しおりを挟む
「一人で食べられます」
「俺の機嫌がいいときは素直に甘えておけ」

冗談なのか本気で言っているのか、分からない。
横暴な言い草に反論しようと口を開けると、すかさず林檎が押し込まれる。噛むと甘酸っぱい果汁が溢れて、渇いた喉を流れていった。林檎にも黄色の蜜が含まれているが、さらに蜂蜜もかかっている。ほとんど甘さしか感じない果物を、千歳はゆっくりと飲み込んだ。

「食い方が下手だな」
「あ……」

レグルシュの親指が、唇をなぞる。拭った黄金色の蜂蜜を、千歳の舌に触れさせた。粘膜に触れられると、昨夜の記憶が否応なく呼び起こされる。指を舌で押し返すようにすると、レグルシュが笑みを浮かべる。千歳の顎を掬い取り、深い口付けの音を部屋中に響かせた。

「はぁ……や、あ……」

押し倒され、無我夢中で唇を貪られる。苦しさで涙の膜が張った瞳で見上げれば、口付けはより激しさを増した。

「レグルシュさん……あっ、あぁ、ん」

首筋、鎖骨へと時折肌を吸い上げて、レグルシュは鬱血の痕を残していく。淡い色の胸を指でぐりぐりと摘まれると、抵抗する意思が溶けていく。昨夜のような性急さは微塵もなく、蕩けるような愛撫を重ね、強張る千歳の身体を開いていった。

「……今まで、何人のアルファに抱かれた?」
「あっ、あ……」

唇を引き結び、千歳は他所を向いた。レグルシュは小さく舌打ちをし、やや乱暴に乳首を捻った。痛みのほうを強く感じてしまい、生理的な涙で視界が滲む。痛みに耐えかねて、千歳は唇を開いた。

「い……言いたく、ない」
「それはそれで嫉妬するな」
「あ、んん……!」

甘い言葉を吐くのは、オメガのフェロモンのせいだろうか。レグルシュに触れられる場所が全て気持ちよくて、肌がざわつく。曖昧な返事で怒らせてしまったのだと心配したが、レグルシュはその後も優しく千歳に触れてくる。昨日、レグルシュを受け入れたところは、まだ柔らかい。

「覚えてるか? 昨日はここで何度も達していたな」
「あぁっ、や、あ、ん……! だ、だめ……そこは……」

ここ、と言いながら、レグルシュは埋めた二本の指でとんとんと内側を軽く叩く。要領を掴んだレグルシュが、一際感じる場所をぐっと押し上げた。

「あ……ああぁ、ん……っ! い、く……! イっちゃ、う……ああっ、あ、あ……」

視界の隅で白い光が飛んだ。埋まっている彼の指から逃れるように背中を逸らしたが、それを分かっていて千歳の動きを追いかけてくる。一度も触れられていない前は、切なそうに震え、精を放っていた。

尾を引く快感に身悶えている間に、レグルシュはボトムを下ろし、硬くなったものを千歳の太腿に擦りつけていた。

「ま、待って……」
「……っ。何だ?」
「その、えっと……つけて、ください」

消え入りそうな声で、千歳は「コンドームを」と口にした。一度目は頭の中にその危機感はあったものの、あまりに突発的で言い出せるような雰囲気ではなかった。ベッドサイドの引き出しからスキンを持ってくると、千歳に見せつけるように封を破った。

「何故真剣に見つめるんだ」
「別に、深い意味は」
「そんなに心配か?」

口の端を上げたのを、千歳は見逃さなかった。熱の集まる場所へ、手首を引かれる。千歳のものよりも一回り以上大きいそれが、生々しい感触を手のひらに伝えてくる。

「千歳がつけてくれ」
「あっ……」

向かい合い、悪戯っぽくそう囁かれた。嫌だと言えば、レグルシュはきっと無理強いはしないと思うが、彼が望んでいることをしてやりたいとも思う。しかし、勝手が分からず、千歳はジェルで濡れたスキンを持って呆然としていた。

レグルシュは薄い笑みを溢すと、千歳にその手解きをする。恥ずかしくてじっと見ていられない。アルファにしか存在しない、根元の膨らみまで下げてしまうと、千歳の手を離した。

「使い方が分からなかったのか? その年で」

いまだくつくつと笑う男に、千歳はむっとする。

「……あなたの大きさが普通ではないので、戸惑っていただけです」
「わざと言っているのか。それは」

正直に告白したのに、わざとなどと決めつけられたように言われ、千歳はまたも引っかかった。柔らかなマットへと雪崩れるように倒され、足の間にレグルシュの身体が割り込んでくる。髪をかき上げられ、汗ばんだ蟀谷へとレグルシュはそっとキスを落とす。そうされるのなら唇のほうがいい。率直なことを、心の底で思ってしまった。

「ん、あっ、あぁ……あ」

レグルシュのものが埋まる度に、淫らな水音が響く。

「できるだけ力を解け。入るものも入らない」
「な……そんな、こと。できな……」

今、力を抜いてしまったら、一気に押し入ってきそうで怖い。レグルシュは苦しげに息を吐き、掠れた声で千歳を甘く誘う。

「できたなら、もっとよくしてやる」
「ん、んん……っ! あ、あぁ……」

そんな。卑怯だ。千歳が不服そうに唇を尖らせると、レグルシュはぐっと体重をかけてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

春風のように君を包もう ~氷のアルファと健気なオメガ 二人の間に春風が吹いた~

大波小波
BL
 竜造寺 貴士(りゅうぞうじ たかし)は、名家の嫡男であるアルファ男性だ。  優秀な彼は、竜造寺グループのブライダルジュエリーを扱う企業を任されている。  申し分のないルックスと、品の良い立ち居振る舞いは彼を紳士に見せている。  しかし、冷静を過ぎた観察眼と、感情を表に出さない冷めた心に、社交界では『氷の貴公子』と呼ばれていた。  そんな貴士は、ある日父に見合いの席に座らされる。  相手は、九曜貴金属の子息・九曜 悠希(くよう ゆうき)だ。  しかしこの悠希、聞けば兄の代わりにここに来たと言う。  元々の見合い相手である兄は、貴士を恐れて恋人と駆け落ちしたのだ。  プライドを傷つけられた貴士だったが、その弟・悠希はこの縁談に乗り気だ。  傾きかけた御家を救うために、貴士との見合いを決意したためだった。  無邪気で無鉄砲な悠希を試す気もあり、貴士は彼を屋敷へ連れ帰る……。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

with you

あんにん
BL
事故で番を失ったΩが1人のα青年と出会い再び恋をするお話です

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...