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【5章】二度目の恋
誤算2
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「レグ、ルシュさ……」
声はもう彼には届いていない。首筋にレグルシュの顔が近付いてきて、千歳は咄嗟に項を庇った。
「はあ……くそっ!」
名前を呼びかけたことで、レグルシュはかろうじて理性を取り戻す。千歳の顔のすぐ横に、拳を振り下ろした。
「どうして発情期のことを言わなかった?」
「ちが……まだ、二週間、先で」
千歳は息を切らしながら説明する。裏切られたような表情をするレグルシュに、喉の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚える。大きな身体が覆いかぶさってきて、その温もりと重みに千歳の胸は期待でざわついた。
──アルファが……ほしい。
オメガの本能が、この状況を嬉々として受け入れている。知らず知らずのうちに、千歳は媚びるような目でレグルシュを見上げていた。
「……項を噛むか、ここで抱くか。どちらかだ」
ヒートを起こしたレグルシュが、苦し紛れに呟いた。
──どっちも、ほしい。
オメガとしてなのか、千歳自身の願いなのか、判断すらできない。原因をつくったのは発情期をコントロールできなかった自分で、レグルシュは不幸にも巻き込まれただけだ。「噛んでほしい」などと、口が裂けても言えない。
自分が自分でなくなる前に、千歳はもう一つの願いを口にした。
「だい、て……入れて、みたして、ほしい……」
千歳が乞うと、レグルシュは膝頭を割り、濡れそぼった花芯へ触れた。甘い電流が走るような強烈な感覚が、発情でうなされた身体を煽る。
「ひっ、あぁっ……あ、あぁ!」
大きく節のある手指で、すでにとろとろになっているものを搦め取られる。溢れた蜜を掬い、アルファの種を求める後孔へと、それを塗りつけた。
「……いいのか?」
「あ……ん。いい……きもち、いい。あっ、あぁ、あ……!」
中の具合を確かめるような、緩慢な動きでは満足できなくて、もどかしさでどうにかなりそうだった。千歳は啜り泣きながら、足りない刺激を求め自ら腰を振った。
「濡れるんだな。オメガだと。男でもこんなに」
興奮を孕んだレグルシュの台詞に、心は昂ぶった。レグルシュが下着を取り払うところを、まじまじと見つめてしまう。顕になった性器はすでに天を仰いでいる。重たげに揺れる様子が視界に入り、喉がぎゅっと引き締まった。
「ひっ……」
サイズを目の当たりにして、千歳は思わず腰を退いてしまう。無論、レグルシュはそれを許さない。
「そん、な……はいらな……」
怯える千歳の腰を引き寄せると、レグルシュは耳殻を柔く噛んだ。吹き込まれた言葉は、オメガの本能をかき乱す。
「お前が思う以上に、ここは柔らかくなってる」
「あ、あ……っ」
「俺が欲しいと言え……千歳」
誘惑に、千歳は一秒も迷わなかった。レグルシュの下でこくこくと首を振った。下肢を左右に開かれて、狂おしいほどの熱が千歳の中に押し入ってこようとする。受け入れる痛みと苦しさは、後からやってくる快感に攫われて跡形もなくなる。
「ああぁっ、あ……あ、んん……! いい……きもち、いい……っ」
間違った形でも、好きな人に抱かれているのが幸福で、気付けば涙を流していた。浅いところで行われていた抽送は、甘い声を出す度に激しくなる。
「んっ、ん……あ、や……」
口を塞がれながら、揺さぶられるのが堪らなく気持ちいい。絶頂感に身を震わせ、千歳は吐精した。少し遅れてレグルシュも、中へと熱いものを注ぐ。一度の性交では身体の火照りを静められず、自らレグルシュの腰へ足を絡ませた。
……────。
その後のことは曖昧にしか覚えていない。汗や体液だらけになった身体は清潔にされていて、昨夜の行為は夢なのかとも思った。しかし、千歳が今いるのは、レグルシュの寝室だ。発情期の最中であることと昨日の行為が、身体を重怠くさせている。自分の服が見当たらないため、千歳はベッドの中へ籠もるしかなかった。
──どうしよう……追い出されるのかも。
オメガが嫌いなことを知っていて、わざと誘ったのだと思われているかもしれない。怒られるのだとしても……最低限の罵倒で済むように、千歳は回らない頭で、陳腐な言い訳を考えていた。ノックが響き、千歳は反射的にシーツの中へ隠れた。
「起きてるか?」
レグルシュの声が、千歳の耳に届く。完全に気付かないふりをすることができず、千歳は身体を揺らしてしまった。レグルシュはほっとしたように笑い、「起きてるんだな」と言った。ベッドの端が少し沈む。
観念した千歳はシーツから這い出ると、レグルシュに頭を下げた。
「……すみません。レグルシュさんを巻き込むつもりではなかったんです」
「それはいい。俺のほうこそ無理をさせた」
シーツを身体に巻きつけた千歳の身体を、レグルシュは隣へと引き寄せた。
「えっ、な、なに……?」
「朝から何も食ってないだろう。何でもいいから腹に入れろ」
レグルシュが持ってきたのは、クロワッサンと一口サイズに切った林檎だった。食欲があまり沸かず、千歳は林檎のほうだけを食べると言った。レグルシュは頷くと、フォークを突き刺し千歳の口元まで持ってくる。
声はもう彼には届いていない。首筋にレグルシュの顔が近付いてきて、千歳は咄嗟に項を庇った。
「はあ……くそっ!」
名前を呼びかけたことで、レグルシュはかろうじて理性を取り戻す。千歳の顔のすぐ横に、拳を振り下ろした。
「どうして発情期のことを言わなかった?」
「ちが……まだ、二週間、先で」
千歳は息を切らしながら説明する。裏切られたような表情をするレグルシュに、喉の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚える。大きな身体が覆いかぶさってきて、その温もりと重みに千歳の胸は期待でざわついた。
──アルファが……ほしい。
オメガの本能が、この状況を嬉々として受け入れている。知らず知らずのうちに、千歳は媚びるような目でレグルシュを見上げていた。
「……項を噛むか、ここで抱くか。どちらかだ」
ヒートを起こしたレグルシュが、苦し紛れに呟いた。
──どっちも、ほしい。
オメガとしてなのか、千歳自身の願いなのか、判断すらできない。原因をつくったのは発情期をコントロールできなかった自分で、レグルシュは不幸にも巻き込まれただけだ。「噛んでほしい」などと、口が裂けても言えない。
自分が自分でなくなる前に、千歳はもう一つの願いを口にした。
「だい、て……入れて、みたして、ほしい……」
千歳が乞うと、レグルシュは膝頭を割り、濡れそぼった花芯へ触れた。甘い電流が走るような強烈な感覚が、発情でうなされた身体を煽る。
「ひっ、あぁっ……あ、あぁ!」
大きく節のある手指で、すでにとろとろになっているものを搦め取られる。溢れた蜜を掬い、アルファの種を求める後孔へと、それを塗りつけた。
「……いいのか?」
「あ……ん。いい……きもち、いい。あっ、あぁ、あ……!」
中の具合を確かめるような、緩慢な動きでは満足できなくて、もどかしさでどうにかなりそうだった。千歳は啜り泣きながら、足りない刺激を求め自ら腰を振った。
「濡れるんだな。オメガだと。男でもこんなに」
興奮を孕んだレグルシュの台詞に、心は昂ぶった。レグルシュが下着を取り払うところを、まじまじと見つめてしまう。顕になった性器はすでに天を仰いでいる。重たげに揺れる様子が視界に入り、喉がぎゅっと引き締まった。
「ひっ……」
サイズを目の当たりにして、千歳は思わず腰を退いてしまう。無論、レグルシュはそれを許さない。
「そん、な……はいらな……」
怯える千歳の腰を引き寄せると、レグルシュは耳殻を柔く噛んだ。吹き込まれた言葉は、オメガの本能をかき乱す。
「お前が思う以上に、ここは柔らかくなってる」
「あ、あ……っ」
「俺が欲しいと言え……千歳」
誘惑に、千歳は一秒も迷わなかった。レグルシュの下でこくこくと首を振った。下肢を左右に開かれて、狂おしいほどの熱が千歳の中に押し入ってこようとする。受け入れる痛みと苦しさは、後からやってくる快感に攫われて跡形もなくなる。
「ああぁっ、あ……あ、んん……! いい……きもち、いい……っ」
間違った形でも、好きな人に抱かれているのが幸福で、気付けば涙を流していた。浅いところで行われていた抽送は、甘い声を出す度に激しくなる。
「んっ、ん……あ、や……」
口を塞がれながら、揺さぶられるのが堪らなく気持ちいい。絶頂感に身を震わせ、千歳は吐精した。少し遅れてレグルシュも、中へと熱いものを注ぐ。一度の性交では身体の火照りを静められず、自らレグルシュの腰へ足を絡ませた。
……────。
その後のことは曖昧にしか覚えていない。汗や体液だらけになった身体は清潔にされていて、昨夜の行為は夢なのかとも思った。しかし、千歳が今いるのは、レグルシュの寝室だ。発情期の最中であることと昨日の行為が、身体を重怠くさせている。自分の服が見当たらないため、千歳はベッドの中へ籠もるしかなかった。
──どうしよう……追い出されるのかも。
オメガが嫌いなことを知っていて、わざと誘ったのだと思われているかもしれない。怒られるのだとしても……最低限の罵倒で済むように、千歳は回らない頭で、陳腐な言い訳を考えていた。ノックが響き、千歳は反射的にシーツの中へ隠れた。
「起きてるか?」
レグルシュの声が、千歳の耳に届く。完全に気付かないふりをすることができず、千歳は身体を揺らしてしまった。レグルシュはほっとしたように笑い、「起きてるんだな」と言った。ベッドの端が少し沈む。
観念した千歳はシーツから這い出ると、レグルシュに頭を下げた。
「……すみません。レグルシュさんを巻き込むつもりではなかったんです」
「それはいい。俺のほうこそ無理をさせた」
シーツを身体に巻きつけた千歳の身体を、レグルシュは隣へと引き寄せた。
「えっ、な、なに……?」
「朝から何も食ってないだろう。何でもいいから腹に入れろ」
レグルシュが持ってきたのは、クロワッサンと一口サイズに切った林檎だった。食欲があまり沸かず、千歳は林檎のほうだけを食べると言った。レグルシュは頷くと、フォークを突き刺し千歳の口元まで持ってくる。
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