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【4章】ユキ
お出かけ
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「レグルシュさん。今日はユキくんを公園に連れて行ってあげてもいいですか?」
「別に構わないが。……お前、我儘を言ったのか」
レグルシュが剣呑な表情をユキに向ける。昨日の件をまだ引き摺っているのか、レグルシュは特段ユキに厳しい。
「違いますよ。僕の思いつきです」
勘違いで文句をつけられたユキは、レグルシュのことを「ドラゴン」とは言わないものの、代わりに頬を大きく膨らませた。千歳の言いつけを守っているのが律儀でいて健気だ。
「家で暴れる元気もなくなるくらい、外で暴れさせて来ればいい」
「ありがとうございます。たくさん遊んで来ますね」
「お外行っていいの!? レグありがとー!」
レグルシュの足に抱きつこうとしたユキをかわし、早く行け、と素っ気なく言う。分かりやすい照れ隠しだな、と、千歳は微笑んだ。ユキに汚れてもいいような、アウトドア用の服を着せて二人は朝の公園へと出掛けた。
初夏の朝の空気は、昼間と比べてまだ少しひんやりとしている。午後からは晴天になるらしい。千歳もユキも、通気性のいいパーカーを着用している。
「ちーとユキおそろい!」
「そうだね。色も一緒だ」
「おっそろいだー!」と、ユキは上機嫌で歌いながら、ステップを踏む。千歳とユキは白のパーカーで、ユキのほうにだけフードに丸い耳がついている。シロクマの子供のようで、すごく可愛い。
徒歩圏内にある大きな公園には、レグルシュの住む住宅街の親子がたくさんいる。今日は平日なので、人は少ない方だ。すべり台やブランコ、シーソーなど、メジャーな遊具には小さな子供達が群がっている。ユキは人気のない砂場を指差すと、千歳の服の裾を引っ張った。
「ちーも行こ!」
周りの親子達は新顔である千歳とユキを、遠巻きに見ていた。広い敷地内では、ボール遊びやバドミントンをしている子もいる。何か遊べる遊具を持っていったほうがよかったかもしれない。ユキは少し湿った砂をせっせとかき集めて、大きな山をつくり始める。シロクマのパーカーとデニムは、すでに泥だらけだ。頬についた泥を、千歳は指で拭う。そうすると、ユキの白い肌にもっと広がってしまった。自分の指も知らないうちに汚れていたようだ。
「大きいお山ができたね」
「うんっ!」
できたての山に影が落ちてきて、千歳とユキは天を見上げた。ユキと同い年くらいの女の子が、様子を窺っている。
「こんにちはっ」
ツインテールをした女の子は元気よく、二人に挨拶をする。千歳はにこっと笑いながら、「こんにちは」と返した。対してユキはさっと背中に隠れてしまった。女の子はユキの態度にそわそわしている。
「ユキくん。お友達が挨拶してくれてるよ」
ユキはふるふると首を振るだけだ。幼稚園での出来事が、今のユキの性格を形成しているのだろう。それでも、千歳が全て手助けするわけにはいかない。
「ユキくん、頑張って」
ユキはすーはーと深呼吸をした後、千歳の後ろから出てきた。
「こんにちは。すおう……こゆきです。五歳です」
囁くような声で、ユキは自分の名前を言った。
「大橋 花梨です! 五歳です! こゆきちゃん、可愛いお名前ねー!」
性別を間違えられたことに、ユキはぷくっと頬を膨らませて抗議する。
「ちゃんじゃない」
「え……? こゆきくんなの? 間違えてごめんね」
「……いいよ」
──ちゃんとコミュニケーション取れてる。
千歳は二人の邪魔をしないように、そっと離れた。花梨はユキよりもお姉さんのようで、いろいろと話しかけてくれている。花梨の友達も、それぞれユキに自己紹介していた。
「ユキくんって呼んでもいい?」
「うん。いいよ」
「ユキくんの髪の毛と目、キラキラして綺麗! 外国の人なの?」
「えっと、パパが日本で、ママがハーフ」
「えぇーすごい! 英語話せるの?」
「ちょっとだけ」
矢継ぎ早に質問されては褒められて、ユキの顔は赤くなっている。最初は物怖じしていたユキも、だんだんと友達の輪に入れて、まだ千歳相手のときと同じようにとはいかないが、お喋りができている。楽しそうに遊ぶユキを見て、千歳は安堵の溜め息を吐いた。
──お出かけしてよかった。
正午前に花梨とその友達は母親に呼ばれ、公園を去っていく。ばいばいと皆に手を振るユキに「そろそろ帰ろうか」と、千歳は声をかけた。
濡らしたハンカチで、ユキの汚れた頬を拭ってやる。
「お友達できてよかったね」
「うんっ! みんなユキのことキレイだねって言ってくれた! 優しいね」
ユキと手を繋ぎながら、家までの帰り道を歩く。その途中で、千歳のスマホに着信が入った。レグルシュからだ。
「はい。和泉です」
『今どこにいる?』
「公園から帰るところです」
『急な仕事が入ったから、ユキの昼飯をつくってくれ』
レグルシュは手短に用件を伝えてくる。関係はよりよい方向に深まったのだが、相変わらずのストレートさだ。
『つくるのが無理なら外でもデリバリーでもどっちでもいい』
「ええと……どんなものがいいでしょうか。アレルギーなどは」
『ない。腹が満たせれば何でも構わない』
切るぞ、と言われ、レグルシュとは本当に通話が切れてしまった。
「別に構わないが。……お前、我儘を言ったのか」
レグルシュが剣呑な表情をユキに向ける。昨日の件をまだ引き摺っているのか、レグルシュは特段ユキに厳しい。
「違いますよ。僕の思いつきです」
勘違いで文句をつけられたユキは、レグルシュのことを「ドラゴン」とは言わないものの、代わりに頬を大きく膨らませた。千歳の言いつけを守っているのが律儀でいて健気だ。
「家で暴れる元気もなくなるくらい、外で暴れさせて来ればいい」
「ありがとうございます。たくさん遊んで来ますね」
「お外行っていいの!? レグありがとー!」
レグルシュの足に抱きつこうとしたユキをかわし、早く行け、と素っ気なく言う。分かりやすい照れ隠しだな、と、千歳は微笑んだ。ユキに汚れてもいいような、アウトドア用の服を着せて二人は朝の公園へと出掛けた。
初夏の朝の空気は、昼間と比べてまだ少しひんやりとしている。午後からは晴天になるらしい。千歳もユキも、通気性のいいパーカーを着用している。
「ちーとユキおそろい!」
「そうだね。色も一緒だ」
「おっそろいだー!」と、ユキは上機嫌で歌いながら、ステップを踏む。千歳とユキは白のパーカーで、ユキのほうにだけフードに丸い耳がついている。シロクマの子供のようで、すごく可愛い。
徒歩圏内にある大きな公園には、レグルシュの住む住宅街の親子がたくさんいる。今日は平日なので、人は少ない方だ。すべり台やブランコ、シーソーなど、メジャーな遊具には小さな子供達が群がっている。ユキは人気のない砂場を指差すと、千歳の服の裾を引っ張った。
「ちーも行こ!」
周りの親子達は新顔である千歳とユキを、遠巻きに見ていた。広い敷地内では、ボール遊びやバドミントンをしている子もいる。何か遊べる遊具を持っていったほうがよかったかもしれない。ユキは少し湿った砂をせっせとかき集めて、大きな山をつくり始める。シロクマのパーカーとデニムは、すでに泥だらけだ。頬についた泥を、千歳は指で拭う。そうすると、ユキの白い肌にもっと広がってしまった。自分の指も知らないうちに汚れていたようだ。
「大きいお山ができたね」
「うんっ!」
できたての山に影が落ちてきて、千歳とユキは天を見上げた。ユキと同い年くらいの女の子が、様子を窺っている。
「こんにちはっ」
ツインテールをした女の子は元気よく、二人に挨拶をする。千歳はにこっと笑いながら、「こんにちは」と返した。対してユキはさっと背中に隠れてしまった。女の子はユキの態度にそわそわしている。
「ユキくん。お友達が挨拶してくれてるよ」
ユキはふるふると首を振るだけだ。幼稚園での出来事が、今のユキの性格を形成しているのだろう。それでも、千歳が全て手助けするわけにはいかない。
「ユキくん、頑張って」
ユキはすーはーと深呼吸をした後、千歳の後ろから出てきた。
「こんにちは。すおう……こゆきです。五歳です」
囁くような声で、ユキは自分の名前を言った。
「大橋 花梨です! 五歳です! こゆきちゃん、可愛いお名前ねー!」
性別を間違えられたことに、ユキはぷくっと頬を膨らませて抗議する。
「ちゃんじゃない」
「え……? こゆきくんなの? 間違えてごめんね」
「……いいよ」
──ちゃんとコミュニケーション取れてる。
千歳は二人の邪魔をしないように、そっと離れた。花梨はユキよりもお姉さんのようで、いろいろと話しかけてくれている。花梨の友達も、それぞれユキに自己紹介していた。
「ユキくんって呼んでもいい?」
「うん。いいよ」
「ユキくんの髪の毛と目、キラキラして綺麗! 外国の人なの?」
「えっと、パパが日本で、ママがハーフ」
「えぇーすごい! 英語話せるの?」
「ちょっとだけ」
矢継ぎ早に質問されては褒められて、ユキの顔は赤くなっている。最初は物怖じしていたユキも、だんだんと友達の輪に入れて、まだ千歳相手のときと同じようにとはいかないが、お喋りができている。楽しそうに遊ぶユキを見て、千歳は安堵の溜め息を吐いた。
──お出かけしてよかった。
正午前に花梨とその友達は母親に呼ばれ、公園を去っていく。ばいばいと皆に手を振るユキに「そろそろ帰ろうか」と、千歳は声をかけた。
濡らしたハンカチで、ユキの汚れた頬を拭ってやる。
「お友達できてよかったね」
「うんっ! みんなユキのことキレイだねって言ってくれた! 優しいね」
ユキと手を繋ぎながら、家までの帰り道を歩く。その途中で、千歳のスマホに着信が入った。レグルシュからだ。
「はい。和泉です」
『今どこにいる?』
「公園から帰るところです」
『急な仕事が入ったから、ユキの昼飯をつくってくれ』
レグルシュは手短に用件を伝えてくる。関係はよりよい方向に深まったのだが、相変わらずのストレートさだ。
『つくるのが無理なら外でもデリバリーでもどっちでもいい』
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