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【3章】La・Ruche

レグルシュとユキの関係2

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レグルシュは肩をすくめて答える。

「さあな。連絡もつかないらしい。姉貴は仕事で旦那は専業主夫だったから、ユキの世話は俺が見ることになった」

それも半ば押しつけるような形だったと、レグルシュは消化できない怒りとともに吐露した。

「シッターさん……は、ダメだったんですよね。保育園や幼稚園には通っていなかったのでしょうか?」
「外見のせいで虐められて、幼稚園にはそれ以来登園していない」
「そんな。ひどい……」

あんなに優しくて思いやりのある子が。オメガとからかわれた過去の自分との境遇を重ねてしまい、胸が張り裂けそうなほど痛かった。友達ができず、会いに来られない母親に嫌われたと泣いていたユキ。そんなユキが千歳と出会う前、唯一頼れるのはレグルシュだけだったのだ。計り知れない深い寂しさと悲しみに、千歳は涙を流す。

「ユキのために、泣いているんだな。お前は。俺はオメガが心底嫌いだが……お前が側にいてくれて、よかったと思う。そうでなければ……俺だけでは、ユキの心は壊れていたかもしれない」

レグルシュはワインを煽ると、深く椅子にかけた。千歳だけではない。レグルシュもユキを深く愛しているのだ。愛情を持っているからこそ、激しくぶつかり合うこともあったのだと、今になって分かる。

「……ユキくんが幸せになるには、どうしたらいいんでしょうか」
「姉貴が旦那を連れ戻すしかない……が、そうできる可能性はほぼゼロに近いだろうな。かと言って、俺がずっと預かる訳にもいかない」

レグルシュさえも答えに迷っているようだった。血のように濃い真紅の液体が入ったグラスを、千歳は波立たせるように揺らす。

「……ユキには、俺のような思いをして欲しくない」
「レグルシュさん?」

千歳の心を映したようなレグルシュの発言に、心臓がおかしな音を立てる。シンプルでいて複雑に絡み合っているような、重い響きの言葉の訳を知りたい。千歳が問いかけようとする前に、レグルシュは牽制するように「もう寝る」と言い残した。

「暗い話をして、悪かった。さっきよりも疲れた顔をしているな。こんな話をするつもりじゃなかったんだ。俺は、ただお前を──」

触れる、と思った。しかし、千歳は近付いてくるレグルシュの手のひらから、逃れようとはしなかった。テーブルの上で組まれた千歳の手に、レグルシュのものが重なろうとしていた。

「明日も、ここにいてくれ。……ユキのために」

触れなかった。空を切るような素振りを残し、レグルシュは自分の部屋へと消えた。千歳を厄介者として追い出そうとするレグルシュは、もういない。ユキの側にいていいのだと認められたことで、千歳の中の迷いは吹っ切れた。

──僕も、レグルシュさんと同じように、ユキくんの幸せを願っている。

レグルシュの言葉に、行き場所をなくしていた千歳の心は救われた。去る背中を思い出し、千歳は一人きりになったリビングに、「ありがとうございます」と溢した。
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