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【7章】新しい未来
バーベキュー2
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「斗和くん、結婚するとき苦労しそう。レグがなかなか首を縦に振らないでしょうね」
「ど……どうでしょう」
千歳達の会話が聞こえていたのか、レグルシュは遠い目をして自分と瓜二つの息子をじっと見据える。
的場との詳細は省いたが、幼稚園になかなか馴染めなかったことを千歳は手短に話す。エレナや樹からの、遊びの誘いを何度か断ってしまったからだ。
「ご心配をおかけしてすみません」
二人は「大丈夫」と謝る千歳を、優しく労ってくれた。
その後、園の母親とは良好な関係を築けている。レグルシュが送迎や幼稚園の会などに、積極的に参加したおかげだと千歳は思っている。……ただ、明らかにレグルシュに熱のこもった視線を向けられると感じることも増えて、パートナーとしては複雑な気持ちだ。
──まあ……皆さん既婚者だけれど。
きらぼし幼稚園では、親同士の交流として自宅でホームパーティーを開くことがある。パーティーといっても堅苦しいものではなく、各家庭が食材を持ち寄って調理をし、その場でいただく手軽なものだ。手料理がプロ級のレグルシュには毎回声がかかり、母親達からの評判も上々だ。
「レグには助けてもらってばかりです」
「そうかしら? レグは千歳くんと斗和くんのおかげで生まれ変わったのよ。自分から人の集まりに行くなんて、信じられないわ。あの子人嫌いだもの」
レグルシュが顔を出すのと出さないのとでは、他の親御さんの出席率もかなり違うらしい。レグルシュも集まりの場を利用して、自身の事業をさりげなくアピールしている。経営する輸入雑貨屋──La・Rucheに、実際に訪れて家具を購入する人も口コミで増えていった。
育児で穴を開けた分、増えた売り上げは社員のボーナスに還元する予定だと、レグルシュは嬉しそうに話している。
「打算的な男ね。ちょっといやらしくない? それ」
「別に押し売りにはしてないぞ。職業を聞かれたから答えただけだ」
レグルシュは澄ました顔で返事をする。ふっくらと炊きあがったパエリアを、集まってきた子供達に取り分けていた。
「そんなことよりも姉貴とユキのことで、こっちは大変だったんだ。もう少し穏便にだな……」
「私はやさしーく注意したわよ」
「全く想像ができない。誰が頭を下げたと」
レグルシュは誤解を解いて回るためにも、送迎やパーティーにできるだけ顔を出していた。
「うわあぁっ! レグのご飯おいしそー!」
「パパのご飯はめちゃくちゃおいしいんだよ!」
レグルシュは海老と貝の殻を綺麗に取り、ふうふうと冷ましてから息子の口に入れている。斗和は何度でも「おいしー!」と一口ずつ含む度に感動している。汚れた口の周りを拭いてやったりと、愛息子には至れり尽くせりだ。
パエリアをもらったユキは、千歳とエレナの間に座り、こちらもぱくぱくと休みなく食べている。
「シメはちーの炒飯がよかったなぁ……」
シメという言葉がユキの口から飛び出して、千歳達は笑った。
「そんなに美味しいの? 千歳くんの炒飯」
「うん! つぶつぶのピーマンが入っててね、苦くないから好きなんだぁ。レグのピーマンは苦いのにね。せーかくの問題かもしれない……」
ユキの推理に、一同は笑いを堪えきれなかった。
可愛い発言に唯一噛みついたのは、遠くにいるレグルシュだ。息子に向ける甘い視線とはうってかわり、二十歳以上下の甥をきっと睨みつける。
「俺の飯に文句があるなら、無理して食わなくていいぞ」
「ご飯は美味しいから食べる! ご飯だけつくって!」
二人の会話は、いつも売り喧嘩に買い喧嘩だ。
あれほどたくさんあったバーベキューの具材は、時間とともになくなり、ユキは膨らんだお腹をぽんぽんと叩き、ご馳走を食べられて満足アピールをする。
「それとレグ。ちょっとこっちに座りなさい」
「な、なんだ」
有無を言わせない強い口調で迫られ、レグルシュは珍しく萎縮している。何か粗相をしてしまったのかと、千歳も緊張で背筋を伸ばした。
「ユキ。斗和くんに目隠し!」
「はい!」
上官に命じられた衛兵のように、ユキは溌剌に返事をする。この場の状況が飲み込めず、千歳はおろおろとするばかりだった。
レグルシュに近付いたエレナは、平手で無防備な頬を突然打った。何かが破裂したような激しい音が響く。
「本っ当にあんたは! どうしようもない弟ね! 言っておくけど、千歳くんの痛みはこんなものじゃないわ。グーであと一〇〇発殴ってもお釣りがくる」
──えっ? えっ!?
レグルシュが的場のフェロモンにあてられ、荒れていたことは、エレナや樹の耳には入れていない。ユキは「そうだそうだ」と言わんばかりに、腕組みをして首を縦に振る。
続けてエレナに頭を下げられ、千歳は酷く狼狽した。
「ど……どうでしょう」
千歳達の会話が聞こえていたのか、レグルシュは遠い目をして自分と瓜二つの息子をじっと見据える。
的場との詳細は省いたが、幼稚園になかなか馴染めなかったことを千歳は手短に話す。エレナや樹からの、遊びの誘いを何度か断ってしまったからだ。
「ご心配をおかけしてすみません」
二人は「大丈夫」と謝る千歳を、優しく労ってくれた。
その後、園の母親とは良好な関係を築けている。レグルシュが送迎や幼稚園の会などに、積極的に参加したおかげだと千歳は思っている。……ただ、明らかにレグルシュに熱のこもった視線を向けられると感じることも増えて、パートナーとしては複雑な気持ちだ。
──まあ……皆さん既婚者だけれど。
きらぼし幼稚園では、親同士の交流として自宅でホームパーティーを開くことがある。パーティーといっても堅苦しいものではなく、各家庭が食材を持ち寄って調理をし、その場でいただく手軽なものだ。手料理がプロ級のレグルシュには毎回声がかかり、母親達からの評判も上々だ。
「レグには助けてもらってばかりです」
「そうかしら? レグは千歳くんと斗和くんのおかげで生まれ変わったのよ。自分から人の集まりに行くなんて、信じられないわ。あの子人嫌いだもの」
レグルシュが顔を出すのと出さないのとでは、他の親御さんの出席率もかなり違うらしい。レグルシュも集まりの場を利用して、自身の事業をさりげなくアピールしている。経営する輸入雑貨屋──La・Rucheに、実際に訪れて家具を購入する人も口コミで増えていった。
育児で穴を開けた分、増えた売り上げは社員のボーナスに還元する予定だと、レグルシュは嬉しそうに話している。
「打算的な男ね。ちょっといやらしくない? それ」
「別に押し売りにはしてないぞ。職業を聞かれたから答えただけだ」
レグルシュは澄ました顔で返事をする。ふっくらと炊きあがったパエリアを、集まってきた子供達に取り分けていた。
「そんなことよりも姉貴とユキのことで、こっちは大変だったんだ。もう少し穏便にだな……」
「私はやさしーく注意したわよ」
「全く想像ができない。誰が頭を下げたと」
レグルシュは誤解を解いて回るためにも、送迎やパーティーにできるだけ顔を出していた。
「うわあぁっ! レグのご飯おいしそー!」
「パパのご飯はめちゃくちゃおいしいんだよ!」
レグルシュは海老と貝の殻を綺麗に取り、ふうふうと冷ましてから息子の口に入れている。斗和は何度でも「おいしー!」と一口ずつ含む度に感動している。汚れた口の周りを拭いてやったりと、愛息子には至れり尽くせりだ。
パエリアをもらったユキは、千歳とエレナの間に座り、こちらもぱくぱくと休みなく食べている。
「シメはちーの炒飯がよかったなぁ……」
シメという言葉がユキの口から飛び出して、千歳達は笑った。
「そんなに美味しいの? 千歳くんの炒飯」
「うん! つぶつぶのピーマンが入っててね、苦くないから好きなんだぁ。レグのピーマンは苦いのにね。せーかくの問題かもしれない……」
ユキの推理に、一同は笑いを堪えきれなかった。
可愛い発言に唯一噛みついたのは、遠くにいるレグルシュだ。息子に向ける甘い視線とはうってかわり、二十歳以上下の甥をきっと睨みつける。
「俺の飯に文句があるなら、無理して食わなくていいぞ」
「ご飯は美味しいから食べる! ご飯だけつくって!」
二人の会話は、いつも売り喧嘩に買い喧嘩だ。
あれほどたくさんあったバーベキューの具材は、時間とともになくなり、ユキは膨らんだお腹をぽんぽんと叩き、ご馳走を食べられて満足アピールをする。
「それとレグ。ちょっとこっちに座りなさい」
「な、なんだ」
有無を言わせない強い口調で迫られ、レグルシュは珍しく萎縮している。何か粗相をしてしまったのかと、千歳も緊張で背筋を伸ばした。
「ユキ。斗和くんに目隠し!」
「はい!」
上官に命じられた衛兵のように、ユキは溌剌に返事をする。この場の状況が飲み込めず、千歳はおろおろとするばかりだった。
レグルシュに近付いたエレナは、平手で無防備な頬を突然打った。何かが破裂したような激しい音が響く。
「本っ当にあんたは! どうしようもない弟ね! 言っておくけど、千歳くんの痛みはこんなものじゃないわ。グーであと一〇〇発殴ってもお釣りがくる」
──えっ? えっ!?
レグルシュが的場のフェロモンにあてられ、荒れていたことは、エレナや樹の耳には入れていない。ユキは「そうだそうだ」と言わんばかりに、腕組みをして首を縦に振る。
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