愛されSubは尽くしたい

リミル

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愛されSubは尽くしたい(最終章)

Color2

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「天使君は……さっきの人と、付き合っているんだよね。知らなかったとはいえ、あたし……茶化すようなこと言って」
「言ったっけ?」
「うん……。あの人と付き合ってるのに、島長君と付き合ってるの? って。無神経過ぎた。あたしだって彼氏いるのに、男友達と歩いてるだけで彼氏とか聞かれるの嫌だもん」
「あー、それ……。誠吾さんと付き合い始めたのはその後だし、別に。だからいいよ。泣かなくても」

しゃがんで泣いている石井に、突っ立っている汐。周りは汐を穿った目で見ていることだろう。いたたまれなくなって、汐は石井の手首を引っ張り無理矢理立たせた。石井の涙はもう止まっていた。

「そ、そうだったんだ。めちゃくちゃ格好よかったね。天使君の彼氏さん。あたし、ここら辺のショップでバイトしてるんだけど、同性のカップルの人、よく見かけるよ。実際対応したこともあったし。前から歩いてきた二人、モデルかと思っちゃった。あ、みたいじゃなくて、ほんとの芸能人だったり……」
「違うよ。でも、そんなのよりも素敵な人だから」

汐の否定の早さに面食らっていたが、石井はすぐに笑みを浮かべた。

「引き止めてごめんね。あたしはもうちょっと離れたところの店なんだけど、ここの通り、ハイブランドばっかりなんだ。……いいなぁ。プレゼントしてもらえるの」

ご機嫌を取るためではなくて、本当に羨ましそうに言うものだから、汐は思わずはにかんでしまう。こんな日に出会って最悪とさえ思っていたが、蟠りが解けたようで今は晴れ晴れとした気分だ。

「ここら辺でバイトって言ってたけど、今日なんじゃないの? 時間は大丈夫?」
「うん……ちょっと遅刻かも。やばい」
「も、もう行きなよ。僕に構わないでいいから!」

石井は高いヒールをカツカツと鳴らして、走っていく。汐のいる後ろをちょこちょこ気にしているようで、転ばないか心配になる。道を曲がるまで見送った後、深見の待っている場所へ戻った。格好いい深見が誰かに口説かれていないかと、内心ハラハラしていた。けれど、集めているのは視線だけだった。それにも深見への好意が孕んでいる気がして、汐は「誠吾さんっ」と呼びかけながら走り寄った。

「あっ!」
「危ない!」

歩道の段差を見過ごしていて、汐は前へ突っかかってしまった。手のひらと膝が地面に着く前に、深見の胸へ抱き留められていた。

「待ちくたびれてないから、ゆっくり来てくれ」
「ごめんなさい……」

素直に謝る汐の頭を一撫でし、深見は汐の手を取った。ついさっき、石井の走る姿に「転ぶなよ」と念を飛ばしていただけに、汐を襲う恥ずかしさはとてつもない。今度は躓いても大丈夫なように、がっつりと恋人繋ぎにされてしまった。

「深刻そうな顔してたけど、大丈夫だったか? 彼女」
「うん。泣かれちゃったけど。僕は気にしてないことでも、向こうはかなり落ち込んでたみたい。でも、ちゃんと仲直りはしたよ」
「それならよかった」

彼女の態度を怪しむばかりで最初、汐は冷たく当たってしまったことが気がかりだった。

「……でも、もっと他にいい言い方があったかもしれない。ちょっと……じゃなくて、かなり素っ気ない態度になっちゃった」
「汐君が自分の気持ちを率直に出せるところ、僕は好きだけどな。偽善じゃなくて衝突するくらいがいいと思う。まだ若いんだし。同じ学校なんだろう? 時間を置いてまた話してみるのもいいかもな」
「うん……そうしてみる。えっと。僕、そんなに率直……っていうか、本音ばっかりで話してるかな?」
「話してるな。最初から僕に対してもそうだっただろう」

うぐ、と汐は言葉を詰まらせる。深見は熱っぽい視線を汐に向けてくるが、つい逸らしてしまった。Dom嫌いゆえの挑発的な態度は、黒歴史としてがっつりと刻まれている。にやりと深見が狙い澄ましたような顔をしたので、汐は苦い表情で返すしかなかった。少し歩いた先で、深見と共に入ったのは、Dom/Sub専門の店だった。周りの店がガラス張りの壁で明るいイメージなのに対し、汐達が立ち入った場所は、逆にモノトーンで統一されている。外から中にいる客が認識出来ないようになっており、早速店員に個室へと案内された。

ホテルのティーラウンジのような場所で、汐はベルベット地のソファへ、こわごわと腰掛けた。店員と話し終えた深見が、汐の隣へと座る。ほどなくして、アクセサリー用のトレーを手に持った女性が汐の元へやって来た。

──わ、すごい……。

多様なデザインのColorが、汐の目に眩しく映る。

「手に取ってごらん。汐君に似合うものが多すぎて絞れなかった」

皮の素材でつくられた首輪に、どれも淡い色の宝石が嵌められている。中にはリードを繋げられるようになっているものもあり、想像してずくん、と腰が重くなった。

「僕もそれがいいと思ってた」

汐の身体の状態を見抜いているのだろう。腰に手を回し、深見が汐の耳元で囁いてきた。

「せ……誠吾さんっ」
「さすが僕のSubだな。考えていることが同じで嬉しい」

汐が手に取ったのは、中央にアクアマリンが埋め込まれているColorだった。ラテン語で「海水」という意味を持つ名前のアクアマリンは、汐の透き通るような髪の色に似ている。指先にも満たない小さな石の中に、まるで海を閉じ込めたような姿をしていた。他にも汐の淡い瞳の色と同じコーパルやトパーズが装飾されたColorも一通り見て、やっぱり最初に惹かれたColorに決めた。

他のColorは下げてもらい、部屋は汐と深見の二人だけになった。

「素敵なColorだな。汐君には敵わないが」
「も……やめてよ。恥ずかしいよ」

留め具を外したColorを、汐の細く白い首に宛てがう。柔らかく締めつけられる感触に、Subとしての至上の喜びを感じていた。

「愛してる。本当に……夢みたいだ。あのとき子供だった汐君を好きになるなんて」
「僕も……夢みたいって思う。ずっと、誠吾さんに振り向いて欲しくて。好きって言って欲しかった」
「今は僕のほうが汐君を好きだからな」

重ねるように深見が言った。目を細めて笑うと、涙の膜はあっけなく崩れて、まともに深見の顔を見られなかった。その言葉に偽りがないことを、強い抱擁を通じて知る。

「僕を──誠吾さんのパートナーにしてください」

震えた声で誓う忠誠の請いに、深見はゆったりと頷いた。
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