愛されSubは尽くしたい

リミル

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愛されSubは尽くしたい

あの夜を求めて2

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入り口のドアベルが清涼な音を立てて、来客を知らせる。諦め半分、期待半分で後方を振り返ると、待ち焦がれていた人がいた。

きょろきょろと辺りを探索する深見に気付かれる前に、汐は思いきり正面から抱きついた。

「誠吾さんっ。会いたかったぁ……」
「……今日は君以外の相手を探しに来たから」

汐の手を剥がしながら、深見は答える。

「嫌だ。ずっと、待ってたのに……。他の人じゃ……誠吾さんじゃなきゃ、満足出来ない」
「そんなことはない。Domを心から信頼すれば、君が望むプレイは出来る」

欲しいのは、そんな応援の言葉じゃない。深見の腕へぎゅう、としがみつき、離さない。

「じゃあ、僕とはただの遊びだったの!? 僕には……初めてのことばかりだったのに」

今でもあのプレイを思い出すと、腰の奥がじん……と疼く。深見以上に適切なCommandとGlareを与えてくれるDomは、どこを探してもいない。汐が叫ぶと、周りにいる人達は一様にこちらを振り向く。

誰も、深見のほうが悪いと言いたげな視線を送ってくる。汐はそれを味方につけながら、得意げに微笑んだ。

「分かった。少しだけ、話そう」

ちら、と袖の下の時計を確認しながら深見は言う。汐は悪い笑みを浮かべながら、島長のいるカウンター席へ向かった。

「誠吾さん連れてきたっ」
「こんばんはー。何飲みます?」
「じゃあ……モヒートで」

席についた直後でも、汐はずっと深見にくっついたままだ。

島長に同じものを注文し、汐は恋人のようにすりすりと頬を寄せた。

「酔ってる?」
「ぜーんぜん! あ、でも。誠吾さんには酔ってるかなぁ……」

最大級の口説き文句のつもりが、島長に苦笑を浮かべられる。それを嫉妬だと解釈し、さらに熱烈に絡んだ。

「何か、すみませんねー。カクテル一杯しか飲ませてないんですけど」
「いや。初対面のときと印象が全く違うから驚いてる」
「まあ……深見さんとは一週間くらい会えてないし。人肌恋しいみたいで。俺も危うくお持ち帰りされるところでした」

島長が冗談を言うと、深見も気を許して笑う。

──さっきから、全然こっちを振り向いてくれない……。

口にしたモヒートにアルコールが入っていないことすら、分からない。汐はすっかり拗ねてしまい、深見からぱっと離れる。

「二人は友達なのかな。ここで仲良くなったの?」

汐ではなくて、島長に顔を向けながら聞く。まるでこの場にいないみたいに扱われ、汐はますますへそを曲げた。

「高校からの友達なんですよー。お互いにゲイだって分かって、それからの付き合いって感じです」
「へぇ。それは素敵だな。僕は自覚するのも遅かったし、打ち明けられる友人がなかなかいなかった」

待て待て。何でお前が誠吾さんのいろんな情報を聞き出してるんだ。
深見の声も心なしか弾んでいる。すっかり不機嫌を顕にした汐は、ぷいっと拗ねてしまう。ガラスのマドラーで、底に敷かれている角砂糖をざりざりと砕いた。

「今は多様性の時代ですからね。パートナーもカップルも同性同士なんて今どき珍しくないですし。ヘテロしか認めない! みたいな考えのほうが叩かれますよ」
「そうだね。全く以て瑞希君の言う通りだ」
「み……瑞希君!?」

教科書にも載っている、模範的な回答を聞き流していた汐だが、何気のない一言にぴんと反応した。

「え、えぇっ!? 何で名前で呼んでるの? ねえねえ、誠吾さん。僕は誠吾さんって呼んでるんだから、誠吾さんも僕のこと、名前で呼んでくれるよね?」

思い返してみれば、サロンで通っているナギや君としか呼ばれていない。父親の姓が珍しく、テレビに出ていた時期もあったので、本名は隠していたが。

──まあ、下の名前だけだったらバレないだろうし。

サロン内での呼び名に特に縛りはない。だったら、好きな人にはちゃんと名前で呼んで欲しい。

「分かったよ。汐君、でいい?」
「うん……うん! たくさん呼んでもいいよ」

これで一歩前進。汐の恋愛目録には「引いてみる」という選択肢はなかった。

「誠吾さん最近全然来てなかったけどどうしたの?」
「仕事が忙しかったから」
「そっかぁ。じゃあ、今日は僕が癒してあげるね」
「あー……お客さん。ここはそういうお店じゃないので」

こほん、と咳払いをして島長が冗談を飛ばす。
カウンター席は笑いに包まれた。

「ねえ、誠吾さんって何のお仕事してるの?」

深見の反応は薄い。何度か呼びかけて、「開発系」と返ってきた。それだけだと仕事の内容が想像出来ないし、話が広げられない。

「俺この前名刺もらったよー」
「えっ、なにそれずるい! 僕も欲しいぃー」

汐がごねると、深見は仕方なく名刺ケースを取り出す。手のひらサイズの名刺には、確かに深見 誠吾と書かれている。株式会社オルタナティブ──通称オルタナは、汐の大学でも就職志望している学生は多い。

「取締役開発部長……? え、誠吾さん。若いのに部長さんなの? すごいね!」
「若いって。今年で三十七だけどな。君達に比べたらおじさんだろう」
「いやいや! 見えなかったですよ。三十前半か、若くて二十代後半かと」

おべっかを使う島長に、汐はツンとした態度だ。

「まー、瑞希はもっと年上と付き合ってるから、誠吾さんは若過ぎるよねー」
「ちょっとー。汐ー?」

正確には「お金持ちの年上達」だけれど。同窓のよしみで大分表現をぼかしてやった。焦る島長が面白くて、汐はくすくすと笑う。

「えーっと。ここ若い人多いけれど、俺みたいに年上好きもかなりいるんで! だから、深見さんもそんな気にすることないですよ。素敵な出会いを応援してます」
「ありがとう。実を言うとそのことで少しへこんでいて。瑞希君が応援してくれるなら心強いよ」

──ち、ちょっと待って! なにそれ……何それ!? 何でいい感じになってんの!?

この展開、少女漫画なら絶対にこの後くっつくやつだ……。

年上キラーと半分馬鹿にしていたが、手強い恋のライバルになるなんて、思いもよらなかった。サロンでのバイトは割がいいと自慢していたし、島長のトーク力は一流だ。Normalの島長目当てにやって来る、DomやSubの会員もいる。

視線を絡め合う光景に、恋の気持ちはしょぼしょぼと萎んでいく。ここで負けてはいられない。今が駆け引きのときだ。汐は思いきって、自分から深見をプレイへ誘った。
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