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からあげ弁当②
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到着したのはいわゆる地下室だ。
部屋の中には巨大な棚が数列に渡り置かれていて、それぞれに見たことがない物が鎮座していた。
見た目は図書館のようだが、空気がひんやりとしているので冷蔵庫の中にいるような錯覚を覚える。
「ここには私の書斎に入りきらない物をまとめて置いていてね。さて、どこに置いただろうか」
しばし棚の列の間をウロウロとするガイウルフ。
が、ほどなくして「あった」という声が正義からは見えない位置で上がった。
三人の所へ戻ってきたガイウルフが抱えていたのは、一本の瓶だった。
それを見た正義は思わず息を呑む。
一見すると口にするとは思えないほどの黒色をした液体――。
「あ、あの……。それが例の調味料で間違いないんですよね?」
「ああ。『ショーユ』というらしい」
「――――っ!」
正義の心臓が大きく跳ね、カルディナが「わぁ」と呟く。
「その反応、もしかして知っているのかね?」
「は、はい……。俺の故郷で使っていたのとたぶん同じ物じゃないかと……」
正義は震える声を抑えるのに精一杯だ。
この世界にあるはずがないと思っていたのに。
まさか名前まで同じだとは。
「君の故郷はアクアラルーン国なのかい?」
「マサヨシの故郷はそこではないわ。記憶喪失で断片的なことしかわからないのだけど」
「なんと……」
ララーのフォローにガイウルフが小さく唸る。
対外的にマサヨシのことは『記憶喪失』ということで通した方が安全だろう――と彼女は踏んだのだ。
正義としても、積極的に「他の世界から来ました」とバラしていくことは避けたいので助かった。
「あの、この調味料を頂いてもいいでしょうか?」
「もちろん構わない。うちに置いていても有意義な使い方はできそうにないからね」
ガイウルフから醤油の入った瓶を受け取る正義。
ずっしりと腕にかかる重さが、今は嬉しくてたまらなかった。
「ありがとうございます!」
「やったねマサヨシ!」
顔を上気させる正義にカルディナの顔を綻ぶ。
「もしや君たち、このショーユを有効に活用できる料理を知っているのかね?」
「私じゃなくてマサヨシが。新しい弁当のメニューに彼の故郷の料理を作ろうとしていたんですけど、あと一歩足りないってなってしまって。それがこのショーユだったんですよ」
「そうだったのか……」
ガイウルフはしばし思案すると、おもむろに口を開く。
「もしその調味料がもっと欲しいのであれば、私がアクアラルーン国から輸入することも可能だ」
「えっ――!? 本当に良いんですか!?」
「もちろん。とはいえ、まだ判断するには早い段階だろう。その調味料が本当に君たちの望む味をしているのか不明だからね。だが私ができる『お礼』として、このような事も可能だと伝えておきたくてな」
正義とカルディナは思わず顔を見合わせる。
「確かに、まずはこれを試してみることが先か・・・・・・」
「よぉし。早速店に帰って作ろう! マサヨシ!」
「君たちが納得できる料理が完成した暁には、是非私のところに連絡してくれ。仮にその『ショーユ』が満足できる物ではなかった場合は、改めてお礼を考え直そう。そういうところで良いだろうか?」
「はい!」
こんなにありがたい話はない。
正義たちはガイウルフにまた必ず連絡すると約束してから、屋敷を後にするのだった。
店に戻った正義とカルディナは、早速からあげを作る準備をする。
一度作ったとあって、準備をするカルディナの手際も良い。
「私も見学させてもらうわ」
と言いつつ、勝手にお酒を開けて飲み始めるララー。
彼女の中では、既に今日の予定は全部終わったという判定なのだろう。
「使う前に、少しだけ醤油の味見をさせてください」
「あ。私もする~」
二人は小皿に数滴『ショーユ』を注ぎ、そっと口に含める。
が――。
「うぶっ!? 何コレ!? 濃っ!」
「こ、この味……。間違いなく醤油です」
二人は悶絶するや否やすぐ水を飲む。
甘みがない、正義がよく知る濃口醤油だった。
「これを使って本当に美味しくなるの?」
「はい。俺が住んでいた所では、一家に一本は必ずあるってくらいスタンダードな調味料なんですよ」
「ふむぅ……。私もマサヨシから話を聞いていなかったら、ガイウルフさんのコックさんみたいに放棄してただろうなぁ。これを使った料理が全然予想できない……」
「とにかく俺が知っている醤油で安心しました。今はまずからあげを作りましょう!」
「う、うん。わかった」
「マサヨシ、カレーの時みたいにテンションが上がってるわね」
横からララーに指摘された正義はつい照れ笑いをしてしまう。
とはいえ、ワクワクしているのは事実だ。
「これを下味に混ぜるだけで、この前のからあげとはひと味違うものになるはずです!」
「分量は?」
「この肉の量なら大さじ1くらいで充分かと」
まずはお試しということで、今回使用するのは鶏もも肉1枚だ。
今回は摺り下ろしたニンニクも混ぜて、ニンニク醤油味にする。
「調味料に漬けてからちょっと置くんだよね。その間に衣とか油とかの準備しておくね」
既に一度作ったことがあるので、カルディナの理解も早い。
「二人とも頑張れ~」
既に結構な量のお酒を飲んだララーが気の抜けた応援を飛ばしつつ、からあげ作りは進んでいった。
部屋の中には巨大な棚が数列に渡り置かれていて、それぞれに見たことがない物が鎮座していた。
見た目は図書館のようだが、空気がひんやりとしているので冷蔵庫の中にいるような錯覚を覚える。
「ここには私の書斎に入りきらない物をまとめて置いていてね。さて、どこに置いただろうか」
しばし棚の列の間をウロウロとするガイウルフ。
が、ほどなくして「あった」という声が正義からは見えない位置で上がった。
三人の所へ戻ってきたガイウルフが抱えていたのは、一本の瓶だった。
それを見た正義は思わず息を呑む。
一見すると口にするとは思えないほどの黒色をした液体――。
「あ、あの……。それが例の調味料で間違いないんですよね?」
「ああ。『ショーユ』というらしい」
「――――っ!」
正義の心臓が大きく跳ね、カルディナが「わぁ」と呟く。
「その反応、もしかして知っているのかね?」
「は、はい……。俺の故郷で使っていたのとたぶん同じ物じゃないかと……」
正義は震える声を抑えるのに精一杯だ。
この世界にあるはずがないと思っていたのに。
まさか名前まで同じだとは。
「君の故郷はアクアラルーン国なのかい?」
「マサヨシの故郷はそこではないわ。記憶喪失で断片的なことしかわからないのだけど」
「なんと……」
ララーのフォローにガイウルフが小さく唸る。
対外的にマサヨシのことは『記憶喪失』ということで通した方が安全だろう――と彼女は踏んだのだ。
正義としても、積極的に「他の世界から来ました」とバラしていくことは避けたいので助かった。
「あの、この調味料を頂いてもいいでしょうか?」
「もちろん構わない。うちに置いていても有意義な使い方はできそうにないからね」
ガイウルフから醤油の入った瓶を受け取る正義。
ずっしりと腕にかかる重さが、今は嬉しくてたまらなかった。
「ありがとうございます!」
「やったねマサヨシ!」
顔を上気させる正義にカルディナの顔を綻ぶ。
「もしや君たち、このショーユを有効に活用できる料理を知っているのかね?」
「私じゃなくてマサヨシが。新しい弁当のメニューに彼の故郷の料理を作ろうとしていたんですけど、あと一歩足りないってなってしまって。それがこのショーユだったんですよ」
「そうだったのか……」
ガイウルフはしばし思案すると、おもむろに口を開く。
「もしその調味料がもっと欲しいのであれば、私がアクアラルーン国から輸入することも可能だ」
「えっ――!? 本当に良いんですか!?」
「もちろん。とはいえ、まだ判断するには早い段階だろう。その調味料が本当に君たちの望む味をしているのか不明だからね。だが私ができる『お礼』として、このような事も可能だと伝えておきたくてな」
正義とカルディナは思わず顔を見合わせる。
「確かに、まずはこれを試してみることが先か・・・・・・」
「よぉし。早速店に帰って作ろう! マサヨシ!」
「君たちが納得できる料理が完成した暁には、是非私のところに連絡してくれ。仮にその『ショーユ』が満足できる物ではなかった場合は、改めてお礼を考え直そう。そういうところで良いだろうか?」
「はい!」
こんなにありがたい話はない。
正義たちはガイウルフにまた必ず連絡すると約束してから、屋敷を後にするのだった。
店に戻った正義とカルディナは、早速からあげを作る準備をする。
一度作ったとあって、準備をするカルディナの手際も良い。
「私も見学させてもらうわ」
と言いつつ、勝手にお酒を開けて飲み始めるララー。
彼女の中では、既に今日の予定は全部終わったという判定なのだろう。
「使う前に、少しだけ醤油の味見をさせてください」
「あ。私もする~」
二人は小皿に数滴『ショーユ』を注ぎ、そっと口に含める。
が――。
「うぶっ!? 何コレ!? 濃っ!」
「こ、この味……。間違いなく醤油です」
二人は悶絶するや否やすぐ水を飲む。
甘みがない、正義がよく知る濃口醤油だった。
「これを使って本当に美味しくなるの?」
「はい。俺が住んでいた所では、一家に一本は必ずあるってくらいスタンダードな調味料なんですよ」
「ふむぅ……。私もマサヨシから話を聞いていなかったら、ガイウルフさんのコックさんみたいに放棄してただろうなぁ。これを使った料理が全然予想できない……」
「とにかく俺が知っている醤油で安心しました。今はまずからあげを作りましょう!」
「う、うん。わかった」
「マサヨシ、カレーの時みたいにテンションが上がってるわね」
横からララーに指摘された正義はつい照れ笑いをしてしまう。
とはいえ、ワクワクしているのは事実だ。
「これを下味に混ぜるだけで、この前のからあげとはひと味違うものになるはずです!」
「分量は?」
「この肉の量なら大さじ1くらいで充分かと」
まずはお試しということで、今回使用するのは鶏もも肉1枚だ。
今回は摺り下ろしたニンニクも混ぜて、ニンニク醤油味にする。
「調味料に漬けてからちょっと置くんだよね。その間に衣とか油とかの準備しておくね」
既に一度作ったことがあるので、カルディナの理解も早い。
「二人とも頑張れ~」
既に結構な量のお酒を飲んだララーが気の抜けた応援を飛ばしつつ、からあげ作りは進んでいった。
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