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バターチキンカレー②
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鍋の中のカレーが綺麗になくなり、三人は一息ついていた。
「マサヨシ、満足した?」
「おかげさまで。本当にありがとうございました」
「私の方こそ美味しい料理をまた一つ教えてもらってありがとうだよ。それで思ったんだけどさ、これも宅配のメニューに加えられないかなって」
「カレーをですか?」
「そう。この味ならヴィノグラードの人にも受け入れられると思うんだよね」
カルディナの横でララーが僅かに眉を寄せる。
「うーん。でも私にはちょっと辛かったかなぁ。確かに美味しかったけど辛いのはちょっと苦手なのよね。おかげでお酒は進んだけど」
「そっか。ララーはお酒をしこたま飲むくせに、辛いのは苦手だったっけ」
「その言い方なぁんか引っかかるんですけどー?」
ララーは赤ら顔でカルディナの首に腕を回す。
「お酒くさいよララー」とカルディナが引き剥がそうとするが、ララーはケラケラと笑いながらさらに腕に力を込めている。
完全にできあがっていた。
「でも確かに、チョコちゃんみたいな小さい子にも食べてもらいたいから辛さはもう少し抑えたいかなぁ」
「それならもう少し味をまろやかにしたらどうですか?」
「ほぇ? そんなことできんの?」
「チーズやトマトを入れると少しマイルドになります。あとあのカレーなら、牛乳とバターを入れても良い感じになるんじゃないかなと」
「なるほど……!」
ポンと手を打つカルディナ。
「牛乳とバター、私も大好きー」
その横でララーが半分寝ながら相づちを打つ。
「それなら早速明日試してみなきゃ。連日カレーになっちゃうけど付き合ってくれる?」
「もちろんです。あと1週間はカレーでも耐えられますよ俺は」
「マサヨシのカレー愛が想像以上に凄かった……」
躊躇なく言い切る正義に対して、カルディナは思わず引きつった笑みを洩らしてしまっていた。
「おはよー……。またあんたら朝からカレー作ってんの?」
寝ぼけ眼で厨房にやってきたのはララー。
結局あれから泥酔してしまい泊まっていったのだ。
「おはようララー。でも昨日のとは全然違う味になった! 食べてみて!」
元気良く大盛りのカレーをララーに突き出すカルディナ。
「カルディナさん。寝起きの人間にいきなり大盛りはマズイと思います……」
正義がそっと忠告すると、カルディナは「あ、そっか」と呟いて半分を別の皿に移した。
「あんたの元気な声を聞くと二日酔いになってる場合じゃないってなるから不思議ね……。とにかくいただくわ」
ララーは苦笑しながらテーブルに着く。
そしてやや気だるげにスプーンを手に取り、昨日より明るい黄色になったカレーを静かに掬い口に運んだ。
「…………!」
瞬間、ララーの目が見開く。
「昨日のも美味しかったけど、私この味とても好きだわ!」
ローテンションだったララーがたちまち顔を輝かせたのを見て、カルディナと正義は思わずハイタッチをしていた。
「バターチキンカレー! これでいけそうですね!」
「うん! 早速メニューに追加しなきゃ! てなわけでララー、食べ終わったら――」
「はいはいわかってます。妖精人形に作業させますよっと。まったく、魔法使いの使い方が荒いんだから」
「それはごめん。でも昨晩、酔い潰れたララーをベッドまで運んだのは私だよ」
「……喜んで引き受けさせていただきます」
遠慮のない二人のやり取りを見守っていた正義は、つい笑みをこぼしてしまうのだった。
宅配メニューにバターチキンカレーが追加されてから数日が経った。
新メニューが出ると既に常連になってくれている人がひとまず注文してくれるようになっていたので、出だしも好調。
特に地下水路で作業をしている二人からは大変好評だった。
そんなある日の夜、ちょっと変わった新規客からの注文が入った。
「はい。……わかりました。ケニーさんですね。ではお届けまでしばらくお待ちください」
ショーポットでの通話を終えたカルディナが、珍しく眉を下げている。
「どうしたんですか? 何か問題でも?」
「いや、普通にカレーの注文だったんだけど……。すっごく声を潜めた女の子の声だったんだよね。名前も偽名っぽいし」
「どうして偽名だと思ったんですか?」
「名乗る前にちょっと『溜め』の時間があったんだよ。咄嗟に考えた感があってさ」
「なるほど……。それで場所はどこですか?」
「北区の路地裏での受け渡しを希望だって」
「路地裏……ですか」
既に日が落ちた夜。
しかも注文してきたのは偽名らしき声を潜めた少女。
「今までも受け渡しに家じゃない場所を指定してきた人はいたけど、こんなあからさまな路地裏を希望するなんてなかったし。ちょっと怪しいかも」
「でも注文してきてくれたからには断るわけにもいかないですし……」
「そうなんだよ。ひとまずカレーは作るけど……。マサヨシ、様子を見て危なそうだったらすぐに帰ってきていいからね」
「……わかりました」
一抹の不安を抱きながら、二人はカレーを宅配するべく準備をするのだった。
「マサヨシ、満足した?」
「おかげさまで。本当にありがとうございました」
「私の方こそ美味しい料理をまた一つ教えてもらってありがとうだよ。それで思ったんだけどさ、これも宅配のメニューに加えられないかなって」
「カレーをですか?」
「そう。この味ならヴィノグラードの人にも受け入れられると思うんだよね」
カルディナの横でララーが僅かに眉を寄せる。
「うーん。でも私にはちょっと辛かったかなぁ。確かに美味しかったけど辛いのはちょっと苦手なのよね。おかげでお酒は進んだけど」
「そっか。ララーはお酒をしこたま飲むくせに、辛いのは苦手だったっけ」
「その言い方なぁんか引っかかるんですけどー?」
ララーは赤ら顔でカルディナの首に腕を回す。
「お酒くさいよララー」とカルディナが引き剥がそうとするが、ララーはケラケラと笑いながらさらに腕に力を込めている。
完全にできあがっていた。
「でも確かに、チョコちゃんみたいな小さい子にも食べてもらいたいから辛さはもう少し抑えたいかなぁ」
「それならもう少し味をまろやかにしたらどうですか?」
「ほぇ? そんなことできんの?」
「チーズやトマトを入れると少しマイルドになります。あとあのカレーなら、牛乳とバターを入れても良い感じになるんじゃないかなと」
「なるほど……!」
ポンと手を打つカルディナ。
「牛乳とバター、私も大好きー」
その横でララーが半分寝ながら相づちを打つ。
「それなら早速明日試してみなきゃ。連日カレーになっちゃうけど付き合ってくれる?」
「もちろんです。あと1週間はカレーでも耐えられますよ俺は」
「マサヨシのカレー愛が想像以上に凄かった……」
躊躇なく言い切る正義に対して、カルディナは思わず引きつった笑みを洩らしてしまっていた。
「おはよー……。またあんたら朝からカレー作ってんの?」
寝ぼけ眼で厨房にやってきたのはララー。
結局あれから泥酔してしまい泊まっていったのだ。
「おはようララー。でも昨日のとは全然違う味になった! 食べてみて!」
元気良く大盛りのカレーをララーに突き出すカルディナ。
「カルディナさん。寝起きの人間にいきなり大盛りはマズイと思います……」
正義がそっと忠告すると、カルディナは「あ、そっか」と呟いて半分を別の皿に移した。
「あんたの元気な声を聞くと二日酔いになってる場合じゃないってなるから不思議ね……。とにかくいただくわ」
ララーは苦笑しながらテーブルに着く。
そしてやや気だるげにスプーンを手に取り、昨日より明るい黄色になったカレーを静かに掬い口に運んだ。
「…………!」
瞬間、ララーの目が見開く。
「昨日のも美味しかったけど、私この味とても好きだわ!」
ローテンションだったララーがたちまち顔を輝かせたのを見て、カルディナと正義は思わずハイタッチをしていた。
「バターチキンカレー! これでいけそうですね!」
「うん! 早速メニューに追加しなきゃ! てなわけでララー、食べ終わったら――」
「はいはいわかってます。妖精人形に作業させますよっと。まったく、魔法使いの使い方が荒いんだから」
「それはごめん。でも昨晩、酔い潰れたララーをベッドまで運んだのは私だよ」
「……喜んで引き受けさせていただきます」
遠慮のない二人のやり取りを見守っていた正義は、つい笑みをこぼしてしまうのだった。
宅配メニューにバターチキンカレーが追加されてから数日が経った。
新メニューが出ると既に常連になってくれている人がひとまず注文してくれるようになっていたので、出だしも好調。
特に地下水路で作業をしている二人からは大変好評だった。
そんなある日の夜、ちょっと変わった新規客からの注文が入った。
「はい。……わかりました。ケニーさんですね。ではお届けまでしばらくお待ちください」
ショーポットでの通話を終えたカルディナが、珍しく眉を下げている。
「どうしたんですか? 何か問題でも?」
「いや、普通にカレーの注文だったんだけど……。すっごく声を潜めた女の子の声だったんだよね。名前も偽名っぽいし」
「どうして偽名だと思ったんですか?」
「名乗る前にちょっと『溜め』の時間があったんだよ。咄嗟に考えた感があってさ」
「なるほど……。それで場所はどこですか?」
「北区の路地裏での受け渡しを希望だって」
「路地裏……ですか」
既に日が落ちた夜。
しかも注文してきたのは偽名らしき声を潜めた少女。
「今までも受け渡しに家じゃない場所を指定してきた人はいたけど、こんなあからさまな路地裏を希望するなんてなかったし。ちょっと怪しいかも」
「でも注文してきてくれたからには断るわけにもいかないですし……」
「そうなんだよ。ひとまずカレーは作るけど……。マサヨシ、様子を見て危なそうだったらすぐに帰ってきていいからね」
「……わかりました」
一抹の不安を抱きながら、二人はカレーを宅配するべく準備をするのだった。
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