バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士

文字の大きさ
上 下
4 / 53

お店をはじめよう④

しおりを挟む
 宅配において絶対に必要な物。
 それは料理を入れるための容器だ。
 だがこのファンタジーな世界に、使い捨てのプラスチック容器が存在しているはずもない。
 正義まさよしはまず二人に、容器のことを伝えた。

「ふぅーん……。なるほどねえ」

 小さく唸ったのはララーだ。

「お店のお皿じゃダメ?」
「運ぶ時にこぼれてしまうし、蓋がないとぐちゃぐちゃになってしまうだろうから……」

 カルディナに答える正義。

「やっぱり作るのは難しいでしょうか?」

 提案してみたものの、やはり正義がいた現代日本とは文化がまったく違う。
 いざとなれば木を掘るなりして自作しようか――と正義が考えた直後。

「大丈夫」

 ララーはひと言だけ呟くと、杖を軽く振った。
 キラキラとした光が杖の先端から放たれたと思った瞬間。
 羽の生えた妖精が、光の中から次々と姿を現した。

「うおっ!?」

 まるで手品のようにいきなり現れたので、正義はとっさに声を出してしまった。

「うわ、久々に見たよ。作業用の妖精人形」
「この子たちに頼めばすぐにできるでしょ」
「すごい……」

 初めて魔法を見た正義は、ただ口をポカンと開けることしかできない。
 一体どこから取り寄せたのかは不明だが、妖精人形たちは空間から現れる木をどんどん削って、宅配用の容器を作っていく。

 しばしそれを眺めているだけの正義だったが、突然ハッと息を飲んだ。

「あっ……。ついでと言ってはなんですけど、ララーさんにちょっと見てもらいたい物があって」
「ん、何?」

 正義は外に出ると、店の前に置かせてもらっていた宅配バイクの前に立った。

「これ、俺が使ってた乗り物なんですけど……」
「あ。この得体の知れない物体、君のだったんだ。しかも乗り物ねぇ……?」
「ララーも見たことないんだ? 不思議だよねこれ。やっぱりマサヨシは他所の国から来たっぽいね」

 一緒に付いてきたカルディナが呟く。

「まぁ格好も明らかにブラディアル国のものじゃないし。マサヨシの素性に関しては追々考えるとして――。それで?」
「はい。これを使って宅配ができればなと。ただ、これを走らせるには燃料が必要で……。この国に燃料になるような物があれば助かるんですが……」

 もし宅配バイクが使えるならば、本当の意味でカルディナの役に立つことができるはず。
 正義はそう考えたのだ。

「ふぅむ……。ちょっと解析してみるわね」

 ララーが杖を振るとたちまち先端から光が溢れ、宅配バイクを包み込んだ。
 杖を突き出した格好のまま、しばらく難しい顔で目を閉じるララー。
 やがて静かに目を開けた。

「了解。細かいところはわかんないだけど大体はわかったわ。中にある液体を燃やして動力を作って走らせる乗り物みたいね。その液体がマサヨシが言う『燃料』かしら?」
「はい! ララーさんすごいですね……」

 本日二度目の感嘆の息を漏らす正義。
 まさかこの一瞬で、ここまで正確に理解してもらえるとは思ってもいなかった。
 てっきり『わからない』で済まされてしまうものだとばかり思っていたので、これは正義にとっては嬉しい誤算だ。

「で、この燃料の成分も解析したけど、たぶん私の魔法で何とかなると思う」
「本当ですか!?」
「ふふん、だてに魔法学校を主席で卒業してないわよ。妖精人形に近い原料を取ってきてもらって、後は私の火の魔法を応用したものをちょちょいとかければいけるわね、うん」
「本当にありがたいです! 何とお礼を言って良いのか……」
「それはこっちの台詞でもあるわよ。私の親友の店を救おうとしてくれてるんだもの」
「ララー……」

 二人の友情を目の当たりにし、正義は小さく微笑む。
 宅配バイクが使えない――という最大の懸念も問題なさそうだし、後は引き続き準備をしていくだけだ。

「しかし、本当にもの凄い構造をしているわね、この乗り物……。別の国の女神が直接作った遺物だと言われても納得してしまうわよ」
「ほぇ!? そんなに凄い物なの!?」
「素材的に『鉄の女神』かしら……? いやでも『火の女神』でもおかしくはないし、もしくはまた別の女神という可能性も――」
「女神……?」

 聞き慣れない単語が出てきた。
 そういえば街をウロウロしている時に、広場の中心に3体の女神像があったなと正義は思い出す。

「…………」

 カルディナとララーが、目を丸くして正義を見ていることに気付いた。
 もしかしなくても、どうやらこの世界において『女神』の存在は常識らしい。

「女神のことまで忘れてるなんて……」
「疑ってたわけじゃないけど、どうやら本当に記憶喪失みたいね……」

 二人から同情的な視線を送られて正義はいたたまれなくなる。
 元々知らない、とは口が裂けても言えそうな雰囲気ではない。

「はは……。まぁそういうわけなんで、女神について教えてくれると助かります」
「そういうことなら任せて!」

 カルディナは自信満々に胸を叩くと続ける。

「世界には8つの国があるんだよ。そして国ごとに異なる3人の女神をまつっているんだけど、女神たちの持っている属性により、国の生活や産業に大きな違いが出るんだ。このブラディアル国は『土の女神』『杖の女神』『言葉の女神』を信仰しているんだよ」

「そう。『土の女神』の力で作物がよく育ち、『杖の女神』は魔法力を増大させる。そして『言葉の女神』の力で、種族間の言語の違いも問題なく翻訳してくれるの。他の国からわざわざこのブラディアル国に来て、違う種族同士の大切な会談を行うこともあるのよ」
「へえ……」

(だからこの世界に来ても、人の言葉が理解できるし文字が読めたのか)

 正義が言語に困らなかったのは、『言葉の女神』の力が働いていたおかげだったらしい。
 他の国に飛ばされなくて良かった――と心から思った。
 仮にそうなっていた場合、他の人と意思疎通ができなくて今頃野垂れ死んでいてもおかしくなかっただろう。

「改めて考えると、ブラディアル国は他の国と比べて色々と独特かもしれないわね。私の通っていた魔法学校もそうだし。何よりブラディアル国独自の道具『ショーポット』もあるもの」
「何ですかそれ?」
「簡単に言うと、遠くの人と会話ができる道具だよ。それぞれの端末に割り当てられた12桁のマジックコードを入力するんだ。『杖の女神』と『言葉の女神』の力を利用してるから、この国の中だけしか使えないけどね」

(それめちゃくちゃ携帯電話では!?)

 正義は思わず心の中で叫んでしまった。

「そ、それ……カルディナさんやララーさんも持っているんですか? 他の人たちも?」
「うん、持ってるわよ」
「ほぼ一家に1台はあるんじゃないかな。お金持ちの家は一人1台単位で持ってそうだけど」

 カルディナはそう言うと、胸の谷間からスイッと小さな端末を取り出した。

「どこから取り出してるのよあんたは!?」
「いや、便利だし」

 ララーがツッコむが、カルディナは特に気にしてないようだ。
 しかし正義には刺激が強すぎた。
 咄嗟に顔を逸らしてしまったが、カルディナはどこ吹く風といった様子で正義に端末を手渡す。
 ほのかに端末に残った温かさを、正義は必死で意識しないようにする。

 数字の書かれたボタンが配置された端末。
 見れば見るほどこの形状は、固定電話の子機を長方形にした物にしか思えなかった。さすがに液晶画面は付いていないけれど。
 全く見知らぬ異世界が、一気に身近になった気がした。

(こんなに宅配に向いた土台が揃っているのなら、やらない手はない)

 この国のことを知ったことで、俄然やる気が湧いてくる。

「色々と教えてくれてありがとうございます。このショーポットがあれば、宅配はきっと上手くいくはずです……!」
「おお、なんか自信ありげ。頼もしいよ」
「今度は宅配用のメニュー作りに取りかかりましょう! カルディナさんに食材について色々聞きたいです」
「わかった」

 再び店内へと戻る正義とカルディナ。

「あらあら。この乗り物を動かしてみて欲しかったんだけど、後の方が良さそうね」

 宅配バイクを名残惜しそうに眺めてから、ララーもその後に続くのだった。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...