上 下
77 / 91
第二章

30. 訪問

しおりを挟む

「そうたさん! こっちこっち!」
「まみた、つぎはあっちいこうぜ!」

 溌剌とした幼い声が、部屋中に響く。
 俺は両の手を、小さな手に引かれながら見知らぬマンションの中を案内されていた。

(なんで、こんなことに…………?)

 なぜこんなことになっているかと説明するには、時は少し前へと遡る。



 恋敵(仮)に遭遇した!どうする!?

 ▷闘う
 ▷守る
 ▷逃げる

 なんて、脳内で選択肢を選べずにバグを起こしている間に、芦名さんは「ちょうど良かった。ここ、いいかしら?」と向かいの席に腰掛けた。
 こちらを見つめる切長の黒い瞳は美しく、長い黒髪もあいまってどこかエキゾチックな雰囲気を醸し出している。
 アイスココアのグラスを傾けたままフリーズしている俺に、パンツスーツに身を包んだ彼女は、にっこりと微笑んだ。

「俺、蒼大ですけど……」

 カラカラに乾いた声を振り絞ってようやく出たのは、そんな無愛想な返答だった。
 しかし、芦名さんは気を悪くした様子もなく和かに会話を続けた。

「知ってる。絶賛家出中の間宮蒼大くんでしょう? 私のことは悠介から聞いてる?」
「担当さん、とだけ……」
「そう。ねぇ、このあと予定ある?」
「別に……」

 質問の意図が分からずに戸惑う。
 すると、突然彼女が立ち上がった。
「よし。ここで会えたのも何かの縁だし、お姉さんが奢ってあげるわ」
 そうして長い黒髪をかきあげた彼女は、ウインクと共に爆弾発言を投下する。


「だから、うちにおいでよ」


「…………は?」
 思考が、停止する。
 だが、ハッと頭が働き出した頃には、時すでに遅し。
 彼女は伝票を持ったまま、レジに向かってずんずん歩き出していた。

「ちょっ、待っ……!」
「大丈夫大丈夫。私、ここの書店の営業終えたら今日休みの予定だから」
「そういう問題じゃ……っ」
「大丈夫大丈夫。あ、お会計お願いしまーす!」
「ぜ、全然大丈夫じゃない……!」

 人の話を聞かない美人ほど、怖いものは無いかもしれないと静かに悟る。
 あっという間に会計を済まされてしまった俺は、あえなく御用となるしかなかった。


 そして、冒頭へと戻る。
 連れて行かれたマンションで待ち構えていたのがー……

「わたし、ルイ! よろしくおねがいします」
「おれ、ヒロ! あそんでやるよ!」

 なんと小学一年生の双子だった。
 ルイちゃんは緑色のワンピースに長い黒髪をポニーテールにして、同じく緑色のリボンで可愛く結んでいる少女だ。
 ヒロくんは短髪に、黄色いTシャツと短パンをはいた元気溌溂な少年である。そして、その髪色は、早川と同じ色だった。

 その事実が、重く、胸にのし掛かる。

 けれど、俺の様子なんてお構いなしに、二人はとても人懐っこく纏わりついて離れなかった。
 『あそぼ!』と言わんばかりにキラキラとした彼らの瞳と、エキゾチック美人からの有無を言わさぬ圧力。

「よ、よろしく……?」

 敵地であるにも関わらず、俺が即陥落したのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...