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第二章

21. やけ食い

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「焼きそば、うま……っ!」
「やっぱり祭りといえば焼きそばだよな」
「だよな! 焼きそば最高!」

 焼きそばを絶賛しながら、とりとめもなく会話する。無駄にテンションの高い俺に、祥吾は何も聞かずに付き合ってくれた。

 今は、ただその優しさが心地良い。

 頭の片隅には、隣り合って並ぶ艶やかな浴衣とミルクティー色が浮かぶ。その度に、俺は焼きそばを頬張って誤魔化した。
 そうしているうちに、あっという間に焼きそばは、胃袋の中へと消えてしまう。
 最後に少し残ってしまった紅生姜を口へ放り込めば、ピリッとした辛味が舌を刺激する。満足するお腹に溜息をつけば、祥吾も「ご馳走さま」と手を合わせた。

 その行儀良い姿に目頭が熱くなったのは、きっと気のせいだ。

 そう自分に言い聞かせた時、電柱に付けられたスピーカーがジジジ……とノイズ音を立てながら放送を流し始めた。

『本日は、御来場ありがとうございます。花火開始時刻まで、あと一時間となりました。有料席を購入のお客様は…………』

 それは、が一番楽しみにしていた筈のイベントだった。
 ぼんやりとスピーカーを見上げる俺に、祥吾が言った。

「花火、一緒に見に行くか?」

 ポンと、頭に乗せられる手は温かい。

「…………みたくない」

 情けない程に小さな呟きは、俯く地面へと吸い込まれた。落とした視線の先には、汚れてしまった下駄が見える。
 すると、隣に座っていた祥吾が動いた。

 ゆっくりと、俺の目の前に跪く。

「祥吾?」

 祥吾は、俺が履いていた下駄をそっと脱がす。現れた親指と人差し指の間は、赤く擦りむけていた。

「足、痛むのか?」
「……うん」

 慣れない鼻緒に擦れた肌は、じんじんと熱を帯びていた。祥吾は眉を寄せながら、労るように俺の足先に触れる。
「…………っ」
 敏感になった皮膚のせいで、ゆるやかに撫でる刺激ですら全身を震わせるには十分だった。思わずぎゅっと目を瞑れば、静かに名前を呼ばれた。

「なぁ、蒼大」

 そっと目を開ければ、黒い瞳は静かに俺を見上げていた。
 祭りの喧騒も届かない夜の中で、僅かな提灯の灯りが、まるで熱を孕んだかのような祥吾の瞳を照らし出す。やけに真剣なその眼差しから、目が離せない。

「……なに?祥吾」

 緊張に、声がうわずる。
 目の前にいるのは祥吾の筈なのに、まるで知らない誰かのようだった。


 整った薄い唇が、ゆっくりと開く。




「好きだ」




 それは確かな甘さと熱を孕んで、俺の鼓膜を静かに揺らしたのだった。
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