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第二章
18. 捜索
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「どこまで行ったんだろう……」
いくら辺りを見回しても、早川の姿はない。スマホで彼に電話をかけても、コールの電子音が鳴り響くだけだった。
少し焦り始めた俺は、人を避けつつ歩き出す。彼の名を、小さく何度も呼んだ。
それでも、返事をする声は聞こえない。
少し歩いた先に、たこ焼きの屋台を見つけた。けれど、やはり彼の姿はなかった。
楽しそうに歩く人々の中に、俺だけひとりぼっちだ。
そう理解した途端に、先程までは気にならなかった喧騒が、煩わしく頭を揺らす。
気持ちが焦り、早足で移動しようとすれば、歩き慣れない下駄に足を取られて転びそうになった。それでも、必死で歩いた。
次第に景色は、巻き戻っていく。
苺飴が売っていた飴屋。
シロップがかけ放題のかき氷屋。
早川が下手くそだった射的屋。
色とりどりの水風船が浮かぶヨーヨー釣り。
先程まではあんなに楽しかったのに、どこを見ても早川だけがいない。
「どこ行っちゃったんだよ……」
心細さがピークに達し、そんな台詞が溢れてしまった時だった。
「ねぇっ!あの人格好良くない!?」
「えー……。あっ!紺色の浴衣の人?」
喧騒に混ざって、近くを歩いていた女性客の声が聞こえた。
紺色の浴衣と聞こえ、俯いていた顔を上げて振り返る。すると、人混みの向こうに見慣れたミルクティー色の髪が見えた。
「早川さん……っ!」
ようやく見えた姿に安堵して呼びかける。
まだ距離があるため、一歩踏み出そうとした時だった。見えた色の先にあった横顔に、足が止まる。
「隣にいるの彼女さんかな?」
「美男美女でお似合いだね」
周囲の喧騒は掻き消え、そんな台詞だけが、やけに耳に響く。
早川が微笑みながら話す相手は、艶やかな花柄の浴衣を身に纏った女性だった。
見覚えのある顔に、目を見開く。
『担当だよ』
ドアスコープ越しに、覗いた顔。
確かに、彼はそう言っていた。
でも、そうして二人揃って浴衣姿で立ち並び、互いを見つめ合う彼らの横顔はーー……
「あ、でも違うよ。だって……」
優しく微笑む横顔が、屈んで抱き上げる。
「お子さんいるもん。夫婦じゃない?」
彼と同じミルクティー色の髪が揺れる。
俺が知っている限り、その色は早川だけのものだった。なのに、その腕の中にいるのは、同じ色を持った幼い少年だった。
その足元には、同じく抱っこをせがむような幼い少女の後ろ姿も見える。
一歩、二歩と、後ずさる。
気づけば俺は、元来た道を駆け出していた。
「幸せそうな家族だね」
後ろから聞こえた気がした声は、遠くの祭囃子に掻き消される。
(ああ、俺は、馬鹿みたいだ)
心の中で叫ぶ。
勝手に両想いだと思って、
こんな祭りに誘って、
大袈裟にはしゃいで、
彼を屋台に連れ回して、
ただ、一言だけでよかった。
彼に『好き』って言って欲しかった。
でも、俺はーー……
「あの人のこと何も知らない」
小さな呟きは、喧騒の中に呑み込まれる。
あの光景が忘れられない。
『幸せそうな家族だね』
俺でもそう思えるほど、彼らが並ぶ姿は綺麗だった。
いくら辺りを見回しても、早川の姿はない。スマホで彼に電話をかけても、コールの電子音が鳴り響くだけだった。
少し焦り始めた俺は、人を避けつつ歩き出す。彼の名を、小さく何度も呼んだ。
それでも、返事をする声は聞こえない。
少し歩いた先に、たこ焼きの屋台を見つけた。けれど、やはり彼の姿はなかった。
楽しそうに歩く人々の中に、俺だけひとりぼっちだ。
そう理解した途端に、先程までは気にならなかった喧騒が、煩わしく頭を揺らす。
気持ちが焦り、早足で移動しようとすれば、歩き慣れない下駄に足を取られて転びそうになった。それでも、必死で歩いた。
次第に景色は、巻き戻っていく。
苺飴が売っていた飴屋。
シロップがかけ放題のかき氷屋。
早川が下手くそだった射的屋。
色とりどりの水風船が浮かぶヨーヨー釣り。
先程まではあんなに楽しかったのに、どこを見ても早川だけがいない。
「どこ行っちゃったんだよ……」
心細さがピークに達し、そんな台詞が溢れてしまった時だった。
「ねぇっ!あの人格好良くない!?」
「えー……。あっ!紺色の浴衣の人?」
喧騒に混ざって、近くを歩いていた女性客の声が聞こえた。
紺色の浴衣と聞こえ、俯いていた顔を上げて振り返る。すると、人混みの向こうに見慣れたミルクティー色の髪が見えた。
「早川さん……っ!」
ようやく見えた姿に安堵して呼びかける。
まだ距離があるため、一歩踏み出そうとした時だった。見えた色の先にあった横顔に、足が止まる。
「隣にいるの彼女さんかな?」
「美男美女でお似合いだね」
周囲の喧騒は掻き消え、そんな台詞だけが、やけに耳に響く。
早川が微笑みながら話す相手は、艶やかな花柄の浴衣を身に纏った女性だった。
見覚えのある顔に、目を見開く。
『担当だよ』
ドアスコープ越しに、覗いた顔。
確かに、彼はそう言っていた。
でも、そうして二人揃って浴衣姿で立ち並び、互いを見つめ合う彼らの横顔はーー……
「あ、でも違うよ。だって……」
優しく微笑む横顔が、屈んで抱き上げる。
「お子さんいるもん。夫婦じゃない?」
彼と同じミルクティー色の髪が揺れる。
俺が知っている限り、その色は早川だけのものだった。なのに、その腕の中にいるのは、同じ色を持った幼い少年だった。
その足元には、同じく抱っこをせがむような幼い少女の後ろ姿も見える。
一歩、二歩と、後ずさる。
気づけば俺は、元来た道を駆け出していた。
「幸せそうな家族だね」
後ろから聞こえた気がした声は、遠くの祭囃子に掻き消される。
(ああ、俺は、馬鹿みたいだ)
心の中で叫ぶ。
勝手に両想いだと思って、
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彼を屋台に連れ回して、
ただ、一言だけでよかった。
彼に『好き』って言って欲しかった。
でも、俺はーー……
「あの人のこと何も知らない」
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