上 下
12 / 91
第一章

11. トラブル

しおりを挟む
 黒いカーディガンの女性は、せっかく綺麗に化粧した目を、これでもかというくらい吊り上げていた。
 そして、長い髪を靡かせながらこちらに向かって歩き出す。
(あわわわ……、確実に俺ロックオンされてるっ!)
 今にも逃げ出したい気持ちに駆られるが、早川がまだ戻らないので動けない。
 絡まれるのを覚悟し、アイスコーヒーを一気飲みした時だった。

「お姉さん、一人?可愛いじゃん!」

 どこからか、陽気な声が響き渡った。
 見れば、彼女はイケイケなヤンキー2名に絡まれて足止めをされていた。
(かっ、神様ぁぁぁあっ!!!)
 どこぞの知らんヤンキーくんに感謝をしながら、やはり早川を探しにこっそり抜けようと、荷物を抱えて立ち上がる。

 しかし、その僅かな間に雲行きは怪しくなっていた。

「や、やめて下さいっ」
 悲鳴のような声に再度そちらへと顔を向ければ、なんとヤンキーくん達は女性の細い腕を掴んでいたのだ。
「いいじゃん!俺達とあーそーぼー」
「決まり決まり。はい、レッツゴー」
 嫌がる声を無視しながら、彼らは女性を連れて外へと出て行ってしまった。
「ねぇ……、やばくない?」
 近くの席の客達の呟きが聞こえる。
 俺は、そのまま走って外へと飛び出した。


「おいっ!待てよ!!」
 叫んだ声は、路地裏へと響き渡る。
 ヤンキーくん達は、今にも泣きそうな女性を掴んだまま振り返り怒鳴った。

「邪魔すんじゃねぇよっ!……え、可愛」
「ちっ、んーだよっ!……え。可愛」

「……カワ。皮?」
 謎の単語と共に彼らはフリーズしてしまう。
 一瞬こちらまでフリーズしかけるが、負けじと怒鳴り返してやった。
「彼女嫌がってんじゃねぇかよっ!離しやがれ馬鹿野郎共がっ!!」
 そう言って、女性の腕を掴み無理矢理こちらへと引き寄せる。彼女を自分の背に庇い、俺はもう一度向き合った。
「お前ら高校生か?お姉さんがいくら可愛くたって無理矢理連れてくのはダメだろうが」
 分かるか?と問えば、ようやくヤンキーくん達も動き出す。
「ねぇ、君どこ高?」
「お前が俺らと遊んでくれんの?」
 訳のわかんないことを言いながら俺に肩を組んできたが、その腕は問答無用で振り払った。
「高校生じゃねぇし、遊ばねぇよ!とりあえず、お姉さん返してもらうから」
 行こ!と手を引いて路地裏から出ようとすれば、強引に腕を引かれた。
「おい、何勝手にいこうとしてんだよ」
「……ぃ、……っ!」
 壁に背中を叩きつけるようにして押さえつけられ、息が詰まる。
 顎を掴まれ上を向かされたかと思えば、もう片方の手はパーカーの中へとスルリと入った。脇腹を冷たい指先になぞられて、全身がゾワリと悪寒が走る。
「何すんだよ!離せ!!」
 力一杯怒鳴りつければ、こちらを見下ろすヤンキーくんが呟いた。

「なぁ?お前さ、おと……」

 こ、と聞こえた瞬間、目の前のヤンキーくんは横へと吹き飛んだ。
 急に押さえつけていたものが無くなったせいで、体はぐらりと傾く。
「…………っ、え?」
 しかし、何かに首の後ろを猫のように摘まれたおかげで、地面に転ぶことはなかった。

「どういう状況?」

 それは、地を這うような低い声だった。
 見上げれば、蹴りを入れた長い足を、ゆっくりと優雅に下ろす王子様がいる。
 口元は微笑んでいるのに、その目は全く笑っていないのは気のせいだろうか。

「説明、してくれるよね?」

 その言葉に、頷くことしか出来なかった。


 
 
 
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

処理中です...