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第一章

5. 契約内容

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 キッチン横のダイニングテーブルで、二人で向かい合って食事した。

 オムライスを食べ終えた早川は、食べ始めと同様に、きちんと手を合わせて「ごちそうさま」と言ってくれた。
「おそまつさまでした」
「美味しかったよ。ありがとう」
 感想とお礼まで言われてしまい、少し戸惑う。彼は、食事中の細やかな仕草でさえ洗練されていた。きっと育ちがいいんだろうなぁ、と頭の片隅でぼんやりと思う。

「じゃあ、目を通してくれる?」

 そう促されあらためて用紙を手に取れば、そこには甲だの乙だの、難しい言葉がびっしりと並んでいた。
「なんだこれ……、読めねぇ」
 プルプルと端を握っていると、スルリと早川の手が契約書を抜き取る。
 そして、机の上に広げて置き、一つずつ項目を指差しながら解説を始めた。
「一つ、僕は君に住居を提供すること。
 二つ、君は僕の仕事の手伝いをすること。
 三つ、相手の意に反することは強制しないこと」
「意に反すること?」
「つまり、相手が嫌がることを無理強いしないってこと。君は、ここが嫌になったらいつでも出ていけばいいし、僕も君が嫌がるようなことは求めないようにする。お互いにWin-Winな関係でいたいからね」
 その説明に、成る程と納得する。

 しかし、契約事項はこれだけではなかった。

 さらにその下に、四つ目の項目があったのだ。
「四つ、僕は君を家事代行として雇うこと」
「え、どういうこと?」
 首を傾げれば、早川はこちらへと軽く身を乗り出した。
「ここで、家政婦のバイトしない?ってこと。さっき見ていて、手際の良さに驚いたんだ。君って、家事が得意なんだね」
 急に褒められて、少し背中がムズムズしてしまう。なんだか照れ臭くて、ポリポリと頬をかいて誤魔化した。
「まぁ、じいちゃんの代わりに家のことやってたけどさ。でも俺、普通にしかできないよ?」
 その言葉に、早川は大きく頷いた。
「普通でいいんだよ。最低限の掃除、洗濯、朝晩の食事の支度を頼みたい。もちろん、できる範囲で構わないし、かかる出費は僕が出す。言うなれば、二食付きの住み込みアルバイトって感じかな」
「でも、金払うならプロに頼んだ方がいいんじゃ……」
 あまりの好条件に驚いて口を挟めば、彼は困ったように呟いた。
「それが、頼めないんだよね」
「え?」
「だいたい、みんなもって一ヶ月ってとこなんだ。前回の人も、二週間前に辞めてもらったばかりでね」
「は……早川さん、そんな厳しいの?」
「違う違う。なんて言ったらいいのかな。友達の言葉を借りるならね」
 目の前のイケメンは、頬杖をつきながら囁いた。


「僕、ストーカー製造機なんだ」


「……はい?」
「なぜか、みーんな僕のストーカーになっちゃうの。だから、トラブルになる度にロックのパスワード変えたり、ドアの鍵を変えたり……ちょっと面倒だと思わない?あ、ちなみに給料は月このくらい出すよ」

 衝撃の事実と、提示された金額に釘付けになった俺は、速攻で契約書にサインをしたのだった。
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