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第一章 「伝説の勇者の息子」
過去
しおりを挟むあの日は、雨だった。
そしてあの日、俺はただ待ち続けていた。
親父の知り合いが来るという、一通の手紙を信じて。
事の発端は、差出人の名前すら書かれていない手紙だった。
「レガリアの代わりに、お前を迎えに行く」。
そんな内容と日時だけが書かれた手紙が何なのか、当然俺には知る由もなかった。
でも、それを受け取った時から、俺の運命が、全てが変わったと言っても間違いなかった。
俺の記憶の中に、両親の姿は一度もなかった。
それでも孤独じゃなかったし、不自由な生活を送っていたわけじゃなく、俺を引き取ってくれた先での生活は、それで幸せだった。
だけど、両親がいないということ…、本当の両親の顔すら覚えていないということは、いつだって俺の中に影を落としていて、どこか疎外感と孤独感が、常に付き纏っているようにすら思えた。
そんな時に、親父の名前を知っている者からの手紙を受け取ったとなれば、きっと親父の…、俺の知らない両親のことを知っている奴が、もしかしたら親父と会わせてくれる為に迎えに来てくれるのかも知れないとさえ思った。
もしかしたらそれは、幼心故の、純粋無垢な願望だったのかも知れない。
今思えば都合が良い希望だったし、事実それは呆気なく打ち砕かれることになったんだけど、この時はそんなことなんて思いもしなかった。
【お前が、ヨエル・アニムスだな?】
雨の中、約束通りの時間に現れたのは、黒衣に身を包んだ、大柄で筋肉質な身体つきの男だった。
服と同じく黒を基調としながらも、所々に白髪が混じったマンバンの髪型と佇まいの男を初めて見た印象は、とても威圧的であり、同時に屈強で勇敢なものだった記憶がある。
その時の俺と同じ年頃の子供達が見たら、きっと怖がってしまう程の雰囲気で、もしかしたら大人でも近寄り難いかも知れない。
想像通りの低い声で最初に問い掛けられた時も、すぐに答えられない程に怖さを感じていたけど、ただ俺は黙って頷いた。
【俺はオーウェン。手紙通り、お前を迎えに来た。お前の父に代わってな】
【おじさんと一緒に行ったら、お父さんと会えるの?】
【お前次第だな】
【どういうこと?】
あの男…オーウェンは、この時から既に言葉足らずだった。
多分、本当のことを言えば俺が拒否することを考えてのものだったんだろうけど、それにしたって言葉が足らな過ぎて、何を言っているのか分からなかった。
自分で考えるようになれ。
言葉の意味を。
言葉の奥に秘められたものを。
あいつの口癖だったけど、散々言い聞かせられた今でも、この時の言葉の意味は今でも分からないままだ。
【俺はレガリアとの約束を果たしに来た。お前が俺と共に来れば、或いはレガリアと会えるかも知れない。その逆も然り、だがな】
【お父さんは生きてるの?】
【生きている。あいつは死んでなどいない】
親父が生きている。
オーウェンは確かにそう言った。
その言葉を聞いてから十年以上経った今でも、親父とは一度も出会えていないけど。
【本当に?】
【事実だ。あいつは今でも生きている】
生きていると言うなら、どうして帰ってこないんだ?
どうして、俺を置き去りにして出て行ったんだ?
まだ幼いながらも、それは率直な疑問だった。
誰も答えてくれなかったことだから。
誰も知らないことだったから。
【だが、あいつは訳あって今動くことができない。故に、お前の方から会う必要がある】
【僕の方から…会う…?】
オーウェンは頷き、そして続けて言った。
【そしてその為には、強くなる必要がある。あいつと会う為には、強くならなければならない。何よりも、誰よりも。あいつのように…、お前の父のように】
【…強く…】
【強くなれ、ヨエル。お前を強くすること。そして強くなったお前をあいつと会わせること。それが、俺とあいつとの約束だ。その為に、俺は此処に来た】
強くなれ。
強くなれば、親父と会える。
その言葉とその願望は、いつしか俺の心に呪いのようなものに変わり、そして俺を過酷な未来へと突き落とした。
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