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冒険者Dと近隣国

塩漬け案件2ー海獣リバイス

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ハルッツは独身だ。
年は25にもなる。港街ラワヴァッツの同年代の者達は男女共にほとんど結婚している。子供がいる者も多い。

何故自分だけ結婚出来ないのか分かっている。
社交性というか、男と話しても吃ってしまうからだ。その為に言いたいことがほとんど伝わらない。

女性を目の前にしたら上がって仕舞ってなおさら話が出来ない。
だからと言っても女が嫌いな訳では無くて、逆に凄く好きだ。

10年も前から女とヤりたい気持ちを募らせている。
娼婦がいるのだから欲望を発散出来る筈だが、初めての時に焦り過ぎて娼婦に触れる前に射精してしまい、娼婦に大笑いされて以来娼婦が怖くて仕方ない。

だからコソコソ覗き見とかしてきて、見つかり殴られてばかりだった。

漁師になったのは成人する前だった。体つきは大柄で体力ばかりあったから向いてはいたのだ。

だが家庭がそれをなかなか許してくれなかった。父親は風来坊だった。港街ラワヴァッツの片隅で漁師相手の小さな居酒屋を営んていた母親の所に居候した男だった。

漁師の頼み事を解決するような小遣い稼ぎしか出来ない男でハルッツが生まれて少しして誰かに殺された。

ハルッツが聞いた所によれば地元のヤクザ達に囲まれて殴り殺されたらしい。何をやらかしたのか。

そのうち、ある漁師の男と母親は良い仲になり、ハルッツも少しは幸せに成れた。だが母親とその漁師は病気で死んでしまった。
ハルッツが居酒屋を継ぐ事も出来たろうがその才能も無く、漁師の親戚とか言う男に二束三文で買い取られハルッツは追い出された。

仕方なくハルッツは漁師の残した船で漁師の真似事を始めたのだった。稼ぎは良くなく溜め込んたお金も憂さ晴らしの酒や賭け事に消えて行った。

ハルッツには誰も知らないスキルがあった。『ジュンカ』と言うRareスキルだったが教えてくれた神父でさえその能力が分からなかった。

持ち主であるハルッツも少しも分からなかった。

そんな時貴族の男が現れた。アミバである。珍しい誰も知らないスキルの事を聞きつけてやってきたのだった。

ハルッツの話をアミバは貴族なのに聞いてくれた。しかも仕事を与えてくれたのだ。

アミバが持ってきた魔石にハルッツのスキルを掛けるだけで金貨1枚をくれたのだ。破格の報酬にハルッツは歓喜した。ただ、ハルッツは自分が何をしているのか分かって無かった。

使いようの無かった自分のスキルに価値を見出してくれたのだ。何でも良かった。ハルッツはアミバの言うことは何でも疑問に思わずに従った。自分が犯罪に加担している事も知らなかったし、たとえそうであっても構わないとハルッツは思っていたのだ。
「で、冒険者が何の用だ!」
「何、ちょっと船を出して貰いたい」

そう言って俺は金貨1枚を投げた。

金貨を受け取る隙に俺はハルッツを支える様にしてスキル『無貌』でハルッツの姿と記憶を奪った。
勿論直ぐに返したがな。

ハルッツは自分が何をされたのか分からないけど、金貨の力は偉大だな。ひとつ返事で頷いたぜ。最近稼げて無かったからな。

俺が河口付近の海獣リバイスが出る近くと知って動揺したがな。何で知ってるんだと言う顔をしたよ。

木造の小舟は緩やかな流れに逆らって港から河口を遡る。流石に漁師だけあって巧みだ。

船ももっと大きれば漁師として成功出来そうな腕を持ってる。ハルッツは不機嫌なまま、俺の指示に従った。

目的の場所付近で船を停めて仁王立ちしている俺を見るハルッツは不審そうだ。それもそうだな。少なくても30分ほど俺は気配を探っていたが海獣リバイスらしき反応が無かった。

うん、この辺には居ないな。
「おい、ハルッツ」

いきなり名前を呼ばれたハルッツは驚く。
返事を待たずに俺は言葉を続ける。
「海獣リバイスを見たのは何時だ」

返事をしようと考え込んでいるハルッツに俺は言った。
「少なくとも10日は見てないだろ?」

考えるのをやめて驚いて俺をハルッツは見る。
「何で分かる」

ハルッツの言葉に俺は笑った。
「匂いがしねえ」

嘘だが。
「ハルッツのスキルは何だ?」

突然の俺の質問にハルッツは怪訝な顔をした。
「水面にお前のスキルを使え!」

俺の言葉にハルッツは凄く驚く。
「な、何で知ってる!」
「お前が海獣リバイスを呼び寄せているんだろ?」
「な、何で知ってる!」

いやぁ、素直だね。
最初に河口付近で海獣リバイスを見たハルッツは驚いて船から落ちそうになり、何故かスキルを使ってる。
その時に海獣リバイスが凄い勢いで近づいて来て、間近にやってきたのだった。でも襲われなかった。

それ以来ハルッツは自分のスキルが海獣リバイスを呼び寄せている事を知ったのだ。理由も分からなかった。

海獣リバイスに命令したり、指示する事は出来なかったが誘導することは出来た事に気を良くしたハルッツは自分に冷たい漁師の邪魔をすることにした。

それが海獣リバイスの目撃情報が多い理由だった。多分海獣リバイスは最初、アミバが流したスライムに釣られてやって来たのだろう。それからハルッツのスキルの力で沖に戻らず、河口付近で回遊したと俺は推測した。

つまり、ハルッツにスキルを、使わせなければそのうち海獣リバイスは沖に帰って行くだろう。
俺は顔をハルッツに近付けてニヤリと笑って見せた。

ハルッツは逆上したのか、俺に掴みかかった。ひらりと躱すと反対側から落ちそうになるが堪え、こちらを見た。凄い顔だ。
「お前!何もんだ!」
「ハハハ、ただの冒険者さ」
「嘘言え!」
「アミバはもう来ねえぜ!」
「な、何でアミバ様の事を知ってる!」
「お前の小遣い稼ぎもお仕舞いさ」

俺の言葉に逆上したハルッツは水面に手を付いてスキルを使って俺を見た。
「直ぐに奴が来る。お前ももう終わりだ!」

ふふんと、笑っている俺にハルッツは言った。
「な、何で笑ってる!」
「俺はお前にスキルを、使って欲しかったからさ。おまえはスキルの本当の使い方を知らねえ」

俺たちが話をしている間に遠くから海獣リバイスの、気配が近付いていた。
「お、お前に俺のスキルの何を知っているつうんだ!」

だからさ、これから見せてやんよ。俺様流でさ。



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