上 下
21 / 159
冒険者Dの道行

足跡

しおりを挟む
調べれば調べるほど訳が分からない。
それがアンナの本音だった。

Dはラザンバの前はクルヘッドと言う東の辺境の街に居たらしい。傭兵が多く、隣国との諍いの多い場所だった。隣国トルネン公国からの侵略を防いでいるバチェット伯爵領の最前線だ。荒くれが多い街と聞いていた。
そこでDは冒険者ギルドの依頼をこなすより傭兵仲間と暴れまわっていたようで、具体的に何をしていたのかは定かではない。

ラザンバの街では冒険者ギルドに顔は出したが依頼を受けていなかった。うらぶれた安宿に逗留してふらふらしていただけのようだ。ラザンバの街はダゾンと同じリヒャルト領にあった。Dはクルヘッドで稼いた金で娼館などに入り浸っていたようだった。他に情報は無かった。

クルヘッド、ラザンバに行きDの噂話を実際に聞いて見たが特に活躍した訳でもなくめぼしい話は聞けなかったが、つるんだり関係を持った者達の評判は悪くなかった。
気安いし、金払いも悪くなく、酔っての乱暴も無い。出世するように見えないのはどこでも同じだったようだ。

クルヘッドの前は何処から来たのか辿れなかった。
行き先も不明ではあるが東から西に移動して来ているならダドンの街を過ぎたその先は王都になるだろう。
マリリンも王都に行くと聞いた訳でもないのではないはっきりしていない。
でも、いずれ王都に姿を見せる可能性はあるとアンナは睨んだ。
冒険者の情報は冒険者ギルドにいると手に入りやすい。だからアンナは王都への転勤をダゾンのギルドマスターに願い出たのだ。

ギルドマスターは渋った。王都の冒険者ギルドの受付嬢のレベルは高いがアンナの能力なら問題はなかった。ただ、アンナの後釜が不足していることにいい顔をしなかったのだ。しかもアンナはギルドマスターの親友の頼みで預かった娘でもある。
でも、アンナが提示してきた手段はギルドマスターも認めるしかなかったようで最終的には頷いたのである。

そうしてアンナは王都に向かうことになった。
途中の村や町でも冒険者Dの姿は無かったが噂話は聞けた。

ある村で吸血鬼を討伐したとかある町で浮浪者を助けて賞金首を退治したとかいう話である。
村の名前は分かったので遠回りになったが直接聞きに行けば既に冒険者Dは居なく、かんばしい情報も無かった。
町に行けば当の浮浪者も冒険者Dの姿も無く、無駄骨になった。
冒険者Dは気ままに冒険者ギルドや傭兵ギルドに顔を出したり、新人冒険者の指導をしたりしているらしい。
聞くのはだらし無い性格と金払いの良さと気さくさばかりである。悪い噂話聞くことが無いが品行方正と言う訳でもなく、娼館では有名だったりするのだ。アンナは忌々しさを感じながらもDらしいとも思ってしまう。

アンナはハサイエル侯爵の長女である。3年ちょっと前のある事件から追放の様な扱いを受けていたが今回実家に戻ることにした。
領地はダドンの街があったリヒャルト領と王都を挟んだ反対側にあるが王都の邸宅に父親に会いに行ったのである。父親は王都で宰相の地位にあり、少なからぬ力を持っている。
ダドンの街の冒険者ギルドを辞めることにも関連して父親ブリエ•ハサイエル侯爵に頼み事をする積りなのだ。

幸いにしてアンナが到着した晩に王城より父親が帰って来た。仕事で忙しかった筈であるがアンナが久しぶりに顔を見せたと聞きつけ、戻ったのである。

◆◆ブリエ•ハサイエル視点◆◆
執務室で父親として応対したブリエはアンナを見て安心すると共に悟った。女の顔になっている。

宰相として別ルートからダドンの街で起きた事を聞き及んでいた。冒険者ギルドマスターは古くからの友人で信頼するに値する男だったが、あの街に行かせるのでは無かったとも思った。
だから、アンナから出された提案を飲む事にしたのだ。手元に置いて毒虫がたからない様にしたいと思ったのである。
放って置けばアンナは二度と帰って来ないような気がした。ますます、亡くなった母親に似てきたと思う。
言うだけ言って退室するアンナを見送ってブリエはため息をつく。

アンナから頼まれた冒険者Dなる男の身辺調査は王城より持ち込んだダドンの街の冒険者ギルドマスターからもたらされた冒険者Dの素行調査結果と重なった。ブリエはふと、3年前の事件を思い出していた。
あの時は冒険者ギルドを介してある冒険者にアンナの為に隠れて護衛を頼んだのだった。S級のとても優秀な男でアンナには何も気づかれなかったが3度のアンナへの襲撃を阻んだ手腕は見事だった。
どこか今回の冒険者と重なるところがあるような気がして後で調べようと思いながらブリエは仕事の煩雑さにそのことを忘れた。

ダドンの街の始末をつけないといけない事に意識を取られてしまったからだ。街長の職にありながら王都で暮らすマクレガー•モンタル男爵とその息子と会わなければならない。
その後に王に謁見して許可を得た後に王都軍騎士団長と膝詰めで計画を練らねばならない。
王都冒険者ギルドマスター主幹を呼び、アンナの件と冒険者Dなる者の身辺調査を依頼する必要があるだろう。

私邸に戻っても仕事漬けのブリエの夜はまだまだ終わらない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...