かわいくない弟ができた話

ななふみてん

文字の大きさ
上 下
15 / 15

15

しおりを挟む
 


「姉ちゃん」

 今日も今日とて、晩御飯は何にしようかなぁなんて考えながら帰り道を歩いている途中で、後ろから声をかけられた。

「あれ、翔くん」

 立ち止まり振り向くと、同じく帰宅途中らしい弟の姿があった。
 弟はランドセルを軽く揺らしながら足早にかけ寄ってくる。
 その目はなんだか呆れているように私を見ていた。

「何ぼーっとしながら歩いてんの」
「別にぼーっとなんてしてないよ。ちょっと晩御飯考えてただけ」
「それをぼーっとって言ってんの。また電柱にぶつかるよ」

 肩を並べて一緒に歩き始めた弟は、そう言うとニヤっと意地悪く笑う。
 ちょっと考え事をしたりして意識が明後日のところにいったりしている時に、弟はたまにこうしてからかってくるようになった。
 電信柱に激突したのなんてあの時一度切りなのに。
 ぶつかりません! なんてちょっと怒ってみせるが、弟は「姉ちゃんたまにドジなとこあるしなぁ」と一切堪えた様子も無くけらけらと笑っていた。

 弟は、最近ちょっと生意気だ。

 いや、今まで出せていなかっただけで本来こうした性格だったのかもしれない。
 弟が弟らしく過ごせるようになってきているのだとしたら、それはとても良いことだ。
 私は「もう!」と言いながらも、自然と笑みが浮かんでいた。




 ――美幸さんとのごたごたから数ヶ月たった。
 一方通行が過ぎる最初の頃とは打って変わって。
 最近は弟と気兼ねなく会話できるようにまでなっている。

 あれから急速に仲良くなり……なんてことはなかったけれど。
 私の声かけには必ず答えてくれるようになったり、弟から声をかけてくれるようになったりと、時間を経て順調に私達は打ち解けていった。
 今ではちょっとした軽口を言い合えるぐらいにまで進歩している。
 寒々しい空気が流れていた二人きりの食卓だって、他愛ない話題で笑い合える団欒とした空気に変わった。
 その一つ一つを実感する度、ついつい頬がだらしなく緩んでしまう。

 今だってそうだ。
 当たり前のように弟が私のことを「姉ちゃん」と呼んでくれることが嬉しくて、締りのない口元が戻らなくなっている。
 いつまでもにやにやしていると、また弟にからかわれるかもしれない。
 いかんいかん、と軽く頬をマッサージしながら表情を戻し、そういえば晩御飯を考えている最中だったことを思い出した。

「翔くん。今日の晩御飯何食べたい?」
「んー? ……そうだなぁ」

 どうせなら弟が食べたい物を作ろう。
 そう思ってリクエストを聞くと、弟は少し考える素振りを見せて。

「卵焼き食べたい。甘いやつ!」

 にっこりと笑顔を浮かべて元気にそう答えてくれた。







 仏頂面。そんな言葉がお似合いな、かわいくない表情を初めましての頃から貫き通していた男の子。
 挨拶はしない、目も合わせない、話しかければ全力スルー。たまに睨みつけてもくる。
 そんな弟の様子に初めは頭を抱えていたけれど、それはもう笑い話にできちゃう昔のことで。

 毎日の挨拶は欠かさなくなったし、目を合わせながら今日合った出来事を話してくれる。
 笑顔を見せることが多くなった弟との生活を、私は毎日楽しく生きている。

 きっと、これからまた色々なことが起きるのかもしれないけれど。
 父と母と私と弟。家族みんなで乗り越えて、笑顔で過ごしていける。

 そんな予感に包まれながら、弟と一緒に甘い卵焼きを頬張った。



 これは、たまに生意気でかわいくない、でもとっても可愛い自慢の弟ができた私――相田あいだ明里あかりの、とりとめもないお話なのである。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

弁当 in the『マ゛ンバ』

とは
青春
「第6回ほっこり・じんわり大賞」奨励賞をいただきました! 『マ゛ンバ』 それは一人の女子中学生に訪れた試練。 言葉の意味が分からない? そうでしょうそうでしょう! 読んで下さい。 必ず納得させてみせます。 これはうっかりな母親としっかりな娘のおかしくて、いとおしい時間を過ごした日々のお話。 優しくあったかな表紙は楠木結衣様作です!

つれづれなるおやつ

蒼真まこ
ライト文芸
食べると少しだけ元気になる、日常のおやつはありますか? おやつに癒やされたり、励まされたりする人々の時に切なく、時にほっこりする。そんなおやつの短編集です。 おやつをお供に気楽に楽しんでいただければ嬉しいです。 短編集としてゆるく更新していきたいと思っています。 ヒューマンドラマ系が多くなります。ファンタジー要素は出さない予定です。 各短編の紹介 「だましあいコンビニスイーツ」 甘いものが大好きな春香は日々の疲れをコンビニのスイーツで癒していた。ところがお気に入りのコンビニで会社の上司にそっくりなおじさんと出会って……。スイーツがもたらす不思議な縁の物語。 「兄とソフトクリーム」 泣きじゃくる幼い私をなぐさめるため、お兄ちゃんは私にソフトクリームを食べさせてくれた。ところがその兄と別れることになってしまい……。兄と妹を繋ぐ、甘くて切ない物語。 「甘辛みたらしだんご」 俺が好きなみたらしだんご、彼女の大好物のみたらしだんごとなんか違うぞ? ご当地グルメを絡めた恋人たちの物語。 ※この物語に登場する店名や商品名等は架空のものであり、実在のものとは関係ございません。 ※表紙はフリー画像を使わせていただきました。 ※エブリスタにも掲載しております。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。 会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。 (霊など、ファンタジー要素を含みます) 安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き 相沢 悠斗 心春の幼馴染 上宮 伊織 神社の息子  テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。 最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*) 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...