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しおりを挟む次に私が目を覚した時にいたのは病院のベッドの上だった。
なんでも、脳震盪を起こし意識を手放したらしい。
打った場所が場所なので一日入院することになった私は、早々にCT検査などもろもろと調べたが特に異常が見つからず終わり、次の日の夕方には帰宅することができた。
頭と身体をアスファルトに思いっきり打ち付けた割には小さいたんこぶと打ち身ができただけで終わったのは自前の石頭のおかげか。
打ち身は流石に痛むものの、後遺症とかできなくて良かったーとのん気に笑いながら帰ってきた私に父は青い顔をし、元妻のしでかしたことに始終平謝りをしながら事の顛末を教えてくれた。
私が意識を失ったあの後、美幸さんは私たちの騒ぐ声にきづいて様子をうかがっていた近所の人の手によって通報され、複数人に取り押さえられ、無事警察に引き渡された。
救急車も呼ばれていて私はすぐに病院へ。
弟はひとまず近所の人に保護され、父や母にも連絡がいき、二人とも急いで仕事を切り上げかけつけてくれたとのことだった。
大きな怪我は無かったものの立派な傷害罪ではあるので美幸さんはしかるべき処罰を受けるようだ。
美幸さんが父と離婚した理由も、元鞘に収まろうとした理由も、警察の事情聴取や美幸さんのご両親、その他知り合いからの話を聞いた父からこうだったのではという推測もまじえて伝えられた。
職場で役職持ちになった父は平社員の頃より忙しくなって家にいる時間が以前より少なくなり、父といられる時間が減り人恋しくなった美幸さんは友人と会うと偽り浮気を繰り返し、浮気相手に本気になった美幸さんは最後に父と弟を誹り離婚した。
その後浮気相手と再婚したが新しい夫とは長くは続かず、今度はその夫に浮気され、捨てられたそうだ。美幸さんが、父たちにしたように。
それからは実家に帰り、色々な男性とくっついたり別れたりしながらすごしてきたらしい。
そうした日々が美幸さんにとっては不服だったのか。
どういった理由かは知らないが久しぶりに訪れたこの町で弟を見かけ、幸せだった当時を思い出し、その再現を望んだ。
どうして父も弟も美幸さんを歓迎してくれると思っていたのかはよく分からない。
でも、私たちが分からないことが正解だとも思う。
あの時の美幸さんは、正しく狂人だった。
「彼女は昔から多少他者依存や思い込みが人より強い方だとは思っていたが、あれほどになっているとは思わなかった。明里ちゃん、巻き込んでしまって本当にすまない」
彼女は離婚後、県外に出ていった。彼女の実家も同じように県外だ。
まさか戻ってくるとは思わず、同じ場所に住み続けたのは見通しが甘かった。
私が突き飛ばされ怪我を負ったことに相当責任を感じているのか父はそう謝るけれど、元妻が元鞘を狙って来襲してくるなんて中々あることではない。
誰が悪いか、といったらやっぱり美幸さんだ。
大丈夫だよ、と答える私に引くことなく謝罪を続ける父を私と母でなだめたが納得させるのが大変だった。
そして、弟はというと。
部屋から引きこもるのを止め、再びリビングに現れるようになった。
今はソファに座る私の隣に同じように座ってテレビを眺めている。
弟は相変わらずあんまり喋らない。
喋らない、が。
私が病院から帰ってきた日から、何故か私の側から離れなくなった。
流石にお風呂とトイレと寝るときは別々になるけれど。
逆に言えばそれ以外は、家にいるときはずっと側にいるようなってしまったのだった。
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