3 / 15
3
しおりを挟むそうして、二週間ほど時間がたったが。
進展は、まだ無い。
「どうすりゃいいかな~……」
「何?例の義弟くんのこと?」
「……うん」
ざわざわとざわめく昼休みの教室。
自分の席で鞄からお弁当を取り出し頭を抱えていると、パンとジュースを持った葉子がやってきた。
「相変わらず無視されてんのねー」
「そりゃもういっそ気持ちいいぐらいにね……」
前の席の子は学食に行っていて不在のため、葉子は我が物顔で椅子にどさりと座り開封したパンに齧りつく。
もぐもぐと食べ進んでいく葉子を見ながら私もお弁当を開いた。
昔からの友人である葉子には、母の再婚のことも新生活のことも話の端々でざっくり伝えている。
最近ではもっぱら義弟ことばかりで。
そのせいか、私が悩んでいる=義弟関係という判断を瞬時にされるようになったくらいだ。
「そんな頭悩ませるぐらいならさぁ、そのクソガキ相手にしなけりゃいいじゃん」
「人の義弟クソガキ呼ばわりって」
「気に入らないからって完全無視はクソガキでしょ」
「それは、まあ……」
正直、葉子の言い分も分かる。
私も当事者じゃなければクソガキだな、くらいは思ってしまっていただろう。
「まぁさぁ、家族仲は良いに超したことはないけど、そんなかわいくないクソガキと仲良くなる必要もないんじゃない?」
そう言う葉子の言葉に、私は「ん~……」と曖昧に返した。
義弟は、話しかけても返事はしないし、笑いかけても睨んでくるし。
そういうところは確かにかわいくない。
けれど。
夕飯時、好きなものが出たときは口元が綻んでいたり。
逆にそうじゃないもののときはぎゅと眉が寄っていたり。
そういうちょっとした反応は言葉が無くても分かりやすくて、年相応でかわいかったりするのだ。
それに、食器洗いを何も言わずに受け持ってくれたり、いつの間にかお風呂掃除をしていてくれたり、進んで洗濯物を取り込んで畳んでいたりと家事を手伝ってくれていて、母と私を無視する以外はむしろとても良い子なのである。
いっそ葉子の言う通り、本当に良いところも何もないただのかわいくないクソガキだったら、早々に仲良くなることを諦めていただろうに。
「……でもやっぱ、私は仲良くなりたいなぁ、翔くんと」
かたくなに諦めない私に、葉子はしょうがないなぁと苦笑していた。
なんだかんだ、でもでもだってな私の話にこうして付き合ってくれる葉子は優しいと思う。
「ん~、じゃあやっぱまずは胃袋掴んで懐柔するとか? 確か、今も夕御飯ってだいたいあんたが作ってるんでしょ?」
あとこれも、と葉子は私のお弁当から卵焼きをさらってパクリと一口で食べた。
「義弟くんの好きなものいっぱい作ってあげて、餌付けすればいいじゃん」
そう言って、葉子は愉快そうににんまりと笑った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
命の灯火 〜赤と青〜
文月・F・アキオ
ライト文芸
交通事故で亡くなったツキコは、転生してユキコという名前の人生を歩んでいた。前世の記憶を持ちながらも普通の小学生として暮らしていたユキコは、5年生になったある日、担任である園田先生が前世の恋人〝ユキヤ〟であると気付いてしまう。思いがけない再会に戸惑いながらも次第にツキコとして恋に落ちていくユキコ。
6年生になったある日、ついに秘密を打ち明けて、再びユキヤと恋人同士になったユキコ。
だけど運命は残酷で、幸せは長くは続かない。
再び出会えた奇跡に感謝して、最期まで懸命に生き抜くツキコとユキコの物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
小さなパン屋の恋物語
あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。
毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。
一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。
いつもの日常。
いつものルーチンワーク。
◆小さなパン屋minamiのオーナー◆
南部琴葉(ナンブコトハ) 25
早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。
自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。
この先もずっと仕事人間なんだろう。
別にそれで構わない。
そんな風に思っていた。
◆早瀬設計事務所 副社長◆
早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27
二人の出会いはたったひとつのパンだった。
**********
作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

初愛シュークリーム
吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。
第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる