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しおりを挟むそうして、二週間ほど時間がたったが。
進展は、まだ無い。
「どうすりゃいいかな~……」
「何?例の義弟くんのこと?」
「……うん」
ざわざわとざわめく昼休みの教室。
自分の席で鞄からお弁当を取り出し頭を抱えていると、パンとジュースを持った葉子がやってきた。
「相変わらず無視されてんのねー」
「そりゃもういっそ気持ちいいぐらいにね……」
前の席の子は学食に行っていて不在のため、葉子は我が物顔で椅子にどさりと座り開封したパンに齧りつく。
もぐもぐと食べ進んでいく葉子を見ながら私もお弁当を開いた。
昔からの友人である葉子には、母の再婚のことも新生活のことも話の端々でざっくり伝えている。
最近ではもっぱら義弟ことばかりで。
そのせいか、私が悩んでいる=義弟関係という判断を瞬時にされるようになったくらいだ。
「そんな頭悩ませるぐらいならさぁ、そのクソガキ相手にしなけりゃいいじゃん」
「人の義弟クソガキ呼ばわりって」
「気に入らないからって完全無視はクソガキでしょ」
「それは、まあ……」
正直、葉子の言い分も分かる。
私も当事者じゃなければクソガキだな、くらいは思ってしまっていただろう。
「まぁさぁ、家族仲は良いに超したことはないけど、そんなかわいくないクソガキと仲良くなる必要もないんじゃない?」
そう言う葉子の言葉に、私は「ん~……」と曖昧に返した。
義弟は、話しかけても返事はしないし、笑いかけても睨んでくるし。
そういうところは確かにかわいくない。
けれど。
夕飯時、好きなものが出たときは口元が綻んでいたり。
逆にそうじゃないもののときはぎゅと眉が寄っていたり。
そういうちょっとした反応は言葉が無くても分かりやすくて、年相応でかわいかったりするのだ。
それに、食器洗いを何も言わずに受け持ってくれたり、いつの間にかお風呂掃除をしていてくれたり、進んで洗濯物を取り込んで畳んでいたりと家事を手伝ってくれていて、母と私を無視する以外はむしろとても良い子なのである。
いっそ葉子の言う通り、本当に良いところも何もないただのかわいくないクソガキだったら、早々に仲良くなることを諦めていただろうに。
「……でもやっぱ、私は仲良くなりたいなぁ、翔くんと」
かたくなに諦めない私に、葉子はしょうがないなぁと苦笑していた。
なんだかんだ、でもでもだってな私の話にこうして付き合ってくれる葉子は優しいと思う。
「ん~、じゃあやっぱまずは胃袋掴んで懐柔するとか? 確か、今も夕御飯ってだいたいあんたが作ってるんでしょ?」
あとこれも、と葉子は私のお弁当から卵焼きをさらってパクリと一口で食べた。
「義弟くんの好きなものいっぱい作ってあげて、餌付けすればいいじゃん」
そう言って、葉子は愉快そうににんまりと笑った。
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