かわいくない弟ができた話

ななふみてん

文字の大きさ
上 下
2 / 15

しおりを挟む
 


 恋人でも友達でもない今まで赤の他人だった年齢も性別すらも違う人間同士が、紙切れ一枚で家族になったところで、はい仲良くなりました、とは、そりゃいかないだろう。
 私は手放しで受け入れたものの、義弟にとってはそうじゃなかったのかもしれない。
 小学五年生という多感なお年頃ということもあり、いきなりできた義母と義姉に色々と思うところがあるんだろう。
 そう思ってしまうのが自然なくらい、義弟はそれはそれは見事に私と母を無視していた。
 初めこそショックを受けて凹んだりもしたが、それが毎日と続いていけば嫌でも慣れるもので。
 実の息子の態度に難色を示す義父を宥めて、私と母は努めて気にしないように生活をしていくことにした。

 ……でもやっぱり、できれば仲良くなりたいなぁ。
 はぁ、とここ最近癖になったため息が漏れる。

 早いうちから旦那を亡くし、自分と子どもを養うために常に忙しかった母。
 遅くまで仕事していた母が帰ってくるのを、一人っ子の私はいつも心待ちにしていた。
 一生懸命仕事をして私を育ててくれた母には感謝しかない。そう、感謝しかないのだけど。
 それでも、やっぱり家族との会話というものに飢えていたんだと思う。

 母に紹介された時から義父はとても気さくで優しくて、とてもいい人なのだけれど、やはり血の繋がらない娘に対してどこか適度な遠慮がある。
 それは別に構わない。私だってまだまだ多少なりとも大人の男性義父に遠慮みたいなものを持っているから。
 私と義父の間にある居心地のいい壁はきっとこれからも続くんだろうな、と初めからなんとなく感じている。
 それに母同様義父も仕事が忙しい人で帰ってくるのが遅いので、日々の会話はあまりたくさんできなかった。

 だからこそ、義弟とだったら、と期待をしていたのかもしれない。
 家に帰れば一人だった。それが二人になる。
「ただいま」と言って、「おかえり」と返ってくる。
 誰かと過ごしながら帰り人を待つそんな生活が、ようやく過ごせるようになったのだと。
 きっと、義弟とはそんな生活をしていくのだと。
 やんわりと淡い希望を抱いていた。
 …………まぁ、未だに「おかえり」と言ってもらえたこともないのが現状だけど。 

 義弟には義弟なりの理由があって、あえて口を聞いてくれないんだろうことは分かってる。
 本当の兄弟のようになりたい、なんてそんな高望みはしない。
 それでもやっぱり、いつか義弟の口から「おかえり」という言葉が聞けるくらいには仲良くなりたいとは思うので。
 本気でうざがられない程度に、これからと義弟に話しかけ続けていこうとかなとは思っている。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

命の灯火 〜赤と青〜

文月・F・アキオ
ライト文芸
交通事故で亡くなったツキコは、転生してユキコという名前の人生を歩んでいた。前世の記憶を持ちながらも普通の小学生として暮らしていたユキコは、5年生になったある日、担任である園田先生が前世の恋人〝ユキヤ〟であると気付いてしまう。思いがけない再会に戸惑いながらも次第にツキコとして恋に落ちていくユキコ。 6年生になったある日、ついに秘密を打ち明けて、再びユキヤと恋人同士になったユキコ。 だけど運命は残酷で、幸せは長くは続かない。 再び出会えた奇跡に感謝して、最期まで懸命に生き抜くツキコとユキコの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

十年目の結婚記念日

あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。 特別なことはなにもしない。 だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。 妻と夫の愛する気持ち。 短編です。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

永遠にさようなら

高下
ライト文芸
死んだ義兄と生きてる義弟が同棲を始める話

初愛シュークリーム

吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。 第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます

処理中です...