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しおりを挟む仏頂面。そんな言葉がお似合いな、かわいくない表情を初めましての頃から貫き通す男の子。
挨拶はしない、目も合わせない、話しかければ全力スルー。たまに睨みつけてもくる。
それが赤の他人だったのならば、相手にしない、なんて選択肢があったのだろうけど。
新しくできた家族……義弟なのだから頭が痛い。
これは、そんなかわいくない義弟ができた私――相田明里の、とりとめもないお話なのである。
シングルマザーだった母親に、「再婚しようと思ってるの」と打診されたのは半年ほど前のことだった。
私は一もニもなく頷いき諸手を上げて、喜んで賛成した。
恋人の秀治さんのことはすでに紹介されていて、何度かの交流の内にその人となりが分かっていたし、女手一つで私を育ててくれた母に、母なりの幸せを掴んで欲しかったからだ。
二人の再婚は、とくに問題が起こるでもなくつつがなく進み、二人の名前が記入された緑の紙が提出された後は新生活に向けて少しだけどたばたとしていた。
そうして時間が流れて。
数日前から、新しい家族――母と私と秀治さん、それに秀治さんの息子の翔くんとの生活が始まったのだった。
「翔くん、今日のご飯どう?嫌いなものとかなかった?」
「…………」
「あー、まあ全部食べてはいるから、大丈夫、かな?」
「…………」
「あっそうだ、お母さんがデザートにでも食べてって美味しいって評判のプリン買ってきてくれてたんだった。今持ってくるねー!」
「…………」
しかしながら、すでに暗雲が立ち込めているように思うのは、気のせいだろうか。
母も秀治さん――義父も今日は未だ仕事で不在のため、私と義弟二人だけで夕食を済ませることになった食卓は、団欒のだの字もないまま終わってしまった。
冷蔵庫にある二人分のプリンを取り出しながら私はこっそりため息を吐く。
今日も見事なスルーっぷりだった。
顔見せの時より、義弟はずっとあの調子だ。
まともに会話したことがない、というか義弟の声すら聞いていないこの数日。
義弟は学校から帰ってくるなり自室に引きこもり、ご飯やトイレなど必要時以外は一切出てこないありさまだ。
声変わり前の、少し高めの声を確認できたのは一度だけ。
挨拶を、という義父の促しにより「……翔です」と小さく発せられたごく短いものだけだった。
それ以降、挨拶しようと無視、質問しようと無視、話しかけようと無視、無視無視無視、の連続だった。
初めの方こそショックを受けていたが、慣れというのは怖いもので。
今ではこれも日常だなぁ、なんて思うくらいになっている。
「はい、どうぞ」
「……」
差し出したプリンは、予想通り無視された。
仕方なくプリンとスプーンを義弟の目の前に置いて、義弟の向かい側、定位置に座る。
自分の分のプリンを口に含めば、有名店の名物プリンは評判に違わずなめらかで甘くて美味しかったけど、底にあるカラメルは私の気持ちを映したようにちょっとだけ苦かった。
あまり認めたくないのだけど。
多分、私、義弟に嫌われている。
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