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意識するきっかけ(義弟視点)
しおりを挟むきっかけは、机に出しっぱなしになっていた一冊の漫画だった。
俺と姉ちゃんは仲が良い。
漫画好きでゲーム好き、そんな共通の趣味を持つ俺たちは漫画やゲームの貸し借りなんて日常茶飯事で、了承を得ずとも互いの部屋へ入り込み入り浸ったりするのも珍しくなかった。
そしてあの日も例に漏れず、暇潰しに姉ちゃんの漫画でも読もうと主のいないその部屋に訪れていた。
本棚を眺めながら読んでない新刊の有無をチェックし、未読のものはなかったのでじゃあお気に入りの漫画でも読み直そうかと本棚に手を伸ばしかけ。
途中でそれが止まったのは、机の上に一冊の漫画が出しっぱなしにされているのが視界の端にはいったからだった。
姉ちゃんには、読んだ漫画は必ず本棚に戻すという癖がついている。出しっぱなしは好きじゃないのだそうだ。読んだらその辺に放置する俺とは正反対で、そのことで怒られるのもしょっちゅうある。
そんな姉ちゃんが出しっぱなし。そりゃあ気にもなるだろう。
そんなわけで、お気に入りの作品よりもその出しっぱなしな一冊に興味が移った俺はそれを手に取った。
「あれ……?」
改めて見てみると、その漫画の表紙は見たことがないものだった。
お互いに新しく漫画を買ってきた時は声をかけあっている。なので姉ちゃんが持ってる漫画も全て読んでるつもりだったのに。
これ買った時に伝えるの忘れたのかなー、なんて思いながら椅子に腰かける。
表紙からみるに、ジャンルは恐らく恋愛ものだろう。
恋愛ものは嫌いじゃないし、面白いものがたくさんあるのも知っている。
だけど自分では絶対買わなさそうなそれは、姉ちゃんがいるからこそ読めるものだ。
雑食で好きなジャンルが違う姉がいるのは本当にありがたい。俺が面白いと思った漫画を同じように面白いと共感してくれるのがとても嬉しいし、出会うことがなかったかも知れない漫画に出会わせてくれるのだから。
しみじみとそう思いながら、俺はその漫画を読み始めた。
数十分後、無事漫画を読み終えた俺は。
「……えぇっと」
正直、困惑してた。
漫画の内容は思っていた通り恋愛ものだった。
すれ違いを経てラブラブな両思いになるこれぞ王道恋愛ものとでも言える、しかしとても面白いものだった。
ただ。ただ……
「確かに面白かったけど……。これ、義姉弟の恋愛漫画……?」
そう、そのヒロインとヒーローが義理の姉と弟だったのだ。
最初の方はなんかやたらじれじれとすれ違ってて分からなかったのだけど、中盤あたりで二人が義姉弟ということ示す言葉が出てきてようやく気付き、えっ?と思いつつもその面白さにぐいぐい引っ張りこまれ結局最後までいっきに読み終えてしまった。
終盤には中々えろえろなえろまであって、姉ちゃんが読むような恋愛漫画でそこまで明らさまなえろがある作品は初めてだったから読みながら何故だか俺が気恥ずかしくなった。
わー!姉ちゃんこんなん読んでたのかー!?
買ったことを伝え忘れたのかと思ったけど、なるほど。もしかしたらわざと伝えなかったのかもしれない。
姉ちゃんの心境を考えれば、義姉弟もののエロを義弟である俺に見せるなんてごめん被るところなんだろう。俺だって、持ってるエロ本姉ちゃんに見せたくないしな!
エロ本を隠し持ってる身としては似たようなものを盗み見てしまったような気持ちになり申し訳なさと罪悪感が少しだけ生まれた。
姉ちゃんマジごめん。
読んだことがバレたらきっと姉ちゃんはしばらく口をきいてくれなくなるに違いない。それは嫌だから回避するためにも漫画を元にあった場所に同じように戻しておいた。
もう一度その表紙を眺めて、そこであれ?とようやく気付く。
これ、二巻じゃん。
最初に見たときには目に入らなかったが、表紙にはタイトルと並んだ2の数字が。
通りで、特に登場人物の説明も何もないまま初っぱなからすれ違いのじれじれで若干意味が分からなかったわけだ。だけども逆に、途中から読んでも面白かったのだから凄い漫画だ。
「二巻ってことは、もちろん一巻もあるんだよね……?」
漫画の始まりを買わずその途中から買うなんてそんな奴がいる訳がない。
だからきっとあるはずだ。二巻と同じく一巻も見たことがないのは確実に隠してあるからだろう。
まさしくエロ本の如し。
……よし、探そう。
今日はバイトで帰るのが遅くなると言っていたことを思いだし、姉ちゃんへさっき感じた申し訳なさや罪悪感はどこへやら。
どうせなら一巻も読みたい!そんな欲求につき動かされるまま、隠してありそうな場所を探ってみることにした。
とは言っても流石に服やもろもろをしまってるだろうチェストやクローゼットは止めておいたけども。
……まあ、ちょっと好奇心に負けて一つだけ引き出しを開けてみちゃったんだけど。下着がそこに入ってたとか知らなかった。マジ知らなかったから。わさとじゃないけど、しばらく目の保養にさせてもらったのはまあ健全な男子高生なら仕方ないよね!姉ちゃんの下着わりと可愛いの多かったです……。
そんな感じに目的から外れたことをしつつも、着々と探索の場所を広げていき。
「……ないなー」
粗方色々見てみたものの、一向に漫画を発見することができなかった。
残すは自主的に探すのを止めたチェストやクローゼット。そこにあるのならば仕方がない。諦めるほかないだろう。
残念だ、そう嘆息して俯いたところで意識が留まったのが、視線の先にあるベッド。詳しく言えばベッド下。
そこはまだ探していない場所だった。
いやいや、まさか。それこそエロ本よろしくな隠し場所じゃないか。
そうは思うものの、一応ね、とそう確認をする俺がいる。
でもあれだ、俺でさえそんな分かりやすくエロ本をベッド下になんて隠してないのだから、姉ちゃんが隠す訳が……
「……あったし」
ベッド下に手を突っ込んでみたら何か入れ物のようなものがある感触。それを引っ張り出せば、透明なプラスチックのマルチケースに収まっているお目当ての漫画を発見した。
……姉ちゃんはよく俺のことを単純だと言うけれど、姉ちゃんも大概だと思う。まあそのおかげで見つけれたけど。
ケースの蓋を取って、中のものを取り出す。ケースの中にはお目当ての漫画以外にもたくさんの漫画や小説がたくさん入っていた。
……隠してあったんだし、もしかしてこれ全部エロ漫画とかエロ小説?
その予想にごくりと息をのむ。
姉ちゃんだって年頃だ。こういったものに興味を持つのもそうおかしくはない。
ただ、なんていうか。
二次元や友達の恋ならともかく自分の色恋はどうでもいいー。と公言するぐらいで自身の恋愛については淡白すぎる嫌いがあるぐらいの姉ちゃんには、どうにも性の絡むものが結び付かない。いっそ歯牙にもかけていないようにすら見えるのだけど。
それを今、そんなわけねーだろ!とでも言わんばかりに見せつけられたような気がして。
……いやいやいや、もしかしたらエロじゃないかもしれない!
俺が読んだのがそう言った描写が入ってただけかもしれない!
だから、うん、違うから!姉ちゃんにも性欲が……とか考えてないから!!
速まる鼓動を誤魔化すように大きく嘆息して、手早く当初の目的であるお目当ての漫画に目を通して不埒な思考を蹴飛ばしにはいる。
けれど多分面白いのだと思うのその内容が中々頭に入ってこなかった。
なんで、なんて考えるまでもなく。
ケースに入っていた諸々にどうしても意識が向いてしまうからだ。
結局ろくすっぽ内容を把握しないまま漫画を読み終えて、ぱたんと閉じた。視線はすでに、手元には無かった。
漫画や小説の入ったパンドラの箱。そこから目をそらせない。
静かな部屋。
チッチッと時計の針の音がやけに大きく響く。
それ以上に、ドっドっドっと大きく脈打つ心臓の音が聞こえた。
「……確認、するだけ」
無意識にもらした呟きに後押しされるように。俺は徐に腕を伸ばして、そして――
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