【R18】駅近、格安、幽霊つき

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　都内某所、１ＬＤＫ、駅近、家具付き、日当たり良好、そして家賃は相場の半額以下。
　そんな物件の情報を聞いて、多くの人はほんの少し惹かれて、同時に疑問を抱くだろう。

　それ、事故物件なんじゃないのか、と。

　そして、たいがいその通りなのである。
　大学生になったのをきっかけにとあるマンションでひとり暮らしをするようになった俺、水窪みずくぼ海かいが住む一室もまた、例にもれず――






「あー、つっかれたぁ！　ただいまー！」

　夜遅く。バイトも終わり、住処に帰ってきた俺は扉を開けるなりそう叫んだ。
　その声に反応したように、パッパッと消えていた玄関の明かりが明滅し、点灯した。
　それを確認し、俺はもう一度、今度は小さく、ただいま、と呟いた。

　今日一日本当に疲れた。
　朝早くから講義がありそれが終わったら一息つく暇もなく長時間シフトのバイト。
　アホな予定を組み立てた昔の自分をぶん殴りたくなるぐらい身体がくたくたになっていて、今すぐにでも眠りたかった。
　晩飯を食べる気力もない。
　荷物をそこら辺に置き上着を脱ぎ捨て直行で寝室に行き、ベッドにぼふんと倒れ込めば、あー、このまま寝ちまってもいいかなぁ、なんて気持ちになった。その瞬間。

　がたっがたがた！

　薄れかけた意識が物音を拾う。
　がたがたがたがた。止むことのない物音。ポルターガイスト。
　うるさいったらありゃしない。
　これは安眠妨害だ。

「うるせー。寝かせろって……」

　がたがた！　がた、がたがたがた！

　ついつい口から出てしまった文句に抗議するように段々と音が大きく、パリンパリンやらピシピシやらキーキーやら耳障りな物が増え、且つ至るところからするようになってしまった。
　そんなに俺がこのまま寝ることが不満なのか！

「……あー、もう！　分かった、分かったから！　風呂入りゃいいんだろ！」

　とてもじゃないがこんな騒音の中では眠れない。
　机だかチェストだか窓だか何かしらをがたがたと鳴らしていたそれ・・は、俺の返答に満足したのか打って変わってシンっと静かになった。
　ため息を吐いて風呂場へと向かう。
　流石に今から湯張りすんのはめんどくせぇからシャワーで済ますかな、なんて思いながら浴室に入ったら、すでに並々のお湯がほこほこと湯気をたてながら浴槽で待っていた。

　……だから寝るなってうるさかったのか。
　納得しながら全体洗って湯船に浸かって一息つけば、しゅるしゅると疲れがお湯に溶けていくような感覚がした。

　ゆっくり入浴を楽しんで、寝間着に着替えて再び寝室に戻る頃にはリラックスしたおかげか少しだけ疲れが取れていた。
　とは言えやはり眠い。
　さっきはうるさかったがちゃんと風呂に入ったので今度は大人しく寝かせてもらえるだろう。
　ぼすん、とベッドに二度目のダイブを決める。

「……んー」

　さて、寝よう、としたところで、足に何やら違和感が。
　ぎゅっぎゅっとリズミカルに程よい力で脹脛を何かに圧迫されている。
　それは誰か・・によるマッサージだった。
　力加減が絶妙でめちゃくちゃ気持ちいい。
　最初は、いい加減寝かせろよ！　と怒ろうかと思ったが、その気持ちよさにすっかり怒りが失せてしまった。
　両足が終わり次は腰へと施される。

「きーもちー……」

　目を閉じまどろみながらそう呟けば、優しく頭を撫でられた。
　まるで、今日もお疲れ様、と言っているようで、つい口元が緩んだ。
　腰へのマッサージも終わったので、俺はごろんと寝返り仰向けになる。

「ありがと」

　そして、虚空にお礼を言った。