上 下
3 / 5

3

しおりを挟む
お父様とお母様は目を白黒させています。

それもそうでしょう。無理矢理婚約に持ち込もうと目論んでいた相手が、何の連絡もなく急にやって来たのですから。

「シュカ様……これは一体どういう……」

お父様は混乱して、上手く言葉が出てこないようですね。

「アリス、支度が出来ているようでしたら、すぐに出発しましょう。ユーネル伯爵がお待ちです」

シュカ様ったら、お父様を完全無視しています。状況説明をしてもらおうと思ったのですが、自分でした方が早そうですね。

「シュカ様、お二人に説明したら出発しますわ。……お父様、お母様、私はあなた方と正式に絶縁したということです。手続きは既に完了していますわ。その上で、私は昨日付でユーネル伯爵家の養子となりました。そしてシュカ様と正式に婚約したのです」

お父様の最後の願いを聞き入れてシュカ様と婚約するなんて、とても良い娘だと思いませんか。

「な、なっ……」

それなのにお父様もお母様も、もう一言も発しなくなってしまいましたね。

「そういうことですので、彼女はもうこの家の人間ではありませんし、僕の大切な婚約者です。これ以上、外まで聞こえるような大声で怒鳴り散らすようでしたら相応の対処をいたします」

シュカ様が私の肩を抱き、静かにお二人に警告しました。

お母様は膝から崩れ落ち、お父様は青筋を立てています。

「ふ、二人して大人をからかうのは止めなさい!絶縁なんて……親の許可なく出来るわけないだろう!?それにユーネル伯爵がお前のような娘を欲しがる訳がない!」

まだ私達の発言が嘘だと思っていらっしゃるのね……。

「お父様、私は先日16歳の誕生日を迎え、成人いたしましたのよ?成人している場合、絶縁を申請するのに両親の許可は必要ありません。それに……ユーネル伯爵と私が親子になるきっかけは、お父様自身が与えてくださったのですよ?私を無理矢理パーティーに送り込んでくれたこと、感謝していますわ」


娘の誕生日も覚えていない父親ですが、ユーネル伯爵と出会わせてくれたことには感謝しています。

ユーネル伯爵と夫人は、招待状なしにパーティーに来た私の事情を聞いてくれ、私の置かれている状況を理解し、救いの手を差し伸べてくれたのです。



「まったく……アリスの実のご両親がこの二人だという事実の方が信じがたいですね。これ以上は話の無駄ですから、行きましょう」

「はい、シュカ様」

あまり時間をかけると、シュカ様やユーネル伯爵にご迷惑がかかりますものね。

二人で荷物を持って家を出ようとすると、後ろから怒鳴り声がしました。

「親に対してこんな不義理が通ると思うのか?!お前ら、絶対に許さないからな!」

一体何を言っているのでしょう。

「何か勘違いをなさっていますが、私はあなた方の娘ではありませんので」

一応さようなら、と声をかけて家を出ました。元父親は最後まで怒鳴っていましたし、元母親はずっと泣いていましたが、もう他人ですので関係ありませんね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私との婚約を破棄した王子が捕まりました。良かった。良かった。

狼狼3
恋愛
冤罪のような物を掛けられて何故か婚約を破棄された私ですが、婚約破棄をしてきた相手は、気付けば逮捕されていた。 そんな元婚約者の相手の今なんか知らずに、私は優雅に爺とお茶を飲む。

「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です

朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。 ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。 「私がお助けしましょう!」 レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

私、悪役令嬢ですが聖女に婚約者を取られそうなので自らを殺すことにしました

蓮恭
恋愛
 私カトリーヌは、周囲が言うには所謂悪役令嬢というものらしいです。  私の実家は新興貴族で、元はただの商家でした。    私が発案し開発した独創的な商品が当たりに当たった結果、国王陛下から子爵の位を賜ったと同時に王子殿下との婚約を打診されました。  この国の第二王子であり、名誉ある王国騎士団を率いる騎士団長ダミアン様が私の婚約者です。  それなのに、先般異世界から召喚してきた聖女麻里《まり》はその立場を利用して、ダミアン様を籠絡しようとしています。  ダミアン様は私の最も愛する方。    麻里を討ち果たし、婚約者の心を自分のものにすることにします。 *初めての読み切り短編です❀.(*´◡`*)❀. 『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載中です。

悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!

餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。 なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう! このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

姉の代わりでしかない私

下菊みこと
恋愛
クソ野郎な旦那様も最終的に幸せになりますので閲覧ご注意を。 リリアーヌは、夫から姉の名前で呼ばれる。姉の代わりにされているのだ。それでも夫との子供が欲しいリリアーヌ。結果的に、子宝には恵まれるが…。 アルファポリス様でも投稿しています。

処理中です...