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一話
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「アイリーン、君とは婚約破棄させてもらう!僕と結婚しても君の身分では苦労するだろう?分かってくれ、これは君のためでもあるんだ。僕はドロシーと結婚する。伯爵家同士だから釣り合っているだろう?」
王家主催のパーティーで、婚約者のロバート様が高らかに宣言する。いえ、宣言ではなく惚気かしら。腕に抱いていらっしゃるドロシーとイチャイチャしてるものね。
身分も釣り合って財力もある娘を手に入れたら、私は用済みのようですね。婚約してから半年間、ずっと浮気をなさっていたのに「私のため」だなんて白々しい。
あぁロバート様、なんて品がないのかしら。こんな方のために花嫁修行をさせられていたなんて……本当に屈辱だわ。
ドロシーと目が合うと、勝ち誇った表情でニヤニヤと笑われた。相変わらず性格が悪いわね。学校でもいつも陰湿なイジメをしてきたけれど、結婚まで妨害するなんて熱心なこと。
「悪く思わないでね、アイリーン。ロバート様は格式ある名家のご子息ですもの。貴女には荷が重いでしょう?私がしっかりと代わりを務めますので心配なさらないで。……いつか貴女にも相応しい方が現れるわよ。貴族ではないかもしれないけれど」
言葉だけは私を心配しているように装っているけれど、だらしない口が半笑いになっているわ。
それにしても王族の前で大きな声を出すなんて、この二人はどういう教育を受けてきたのかしら。くるりと周りを見渡すと、オーウェン伯爵がコソコソとこちら見ている。なるほどー、この 婚約破棄宣言は親公認な訳ですね。親がアレだと子もアレな感じに育つのですね。うんざりしながらお父様を探すとリチャード様と談笑していたが、こちらに気づくと好きにしろとでも言うように目線を送ってきた。
では、好きにさせてもらいますわ。
――――――
パーティーの1ヶ月前、アイリーンは父親であるポールに呼ばれ、家の地下室にいた。地下室は書斎のようになっており、古い本がたくさん置いてあった。
「お前と婚約させたロバート・オーウェンについて、どう考える?」
唐突に言われたが、すぐに何の話か思い当たった。
「悪人ではないですが、貴族としての品格がありませんわ。ドロシー・クーパーとの夜遊びは公然の秘密ですし、我がフォスター家を軽んじているのは間違いありません。王命でなければ婚約などしませんでしたのに」
オーウェン家は爵位こそ上だが財政的にはフォスター家の足元にも及ばない状態で、最近特に財政状況が悪化しているともっぱらの噂だ。王は遠縁にあたるオーウェン家を助けるために、この婚約を指示したのだろう。ため息をつく私を見て、お父様は口の端で微笑んだ。そして手にしていた分厚い本を私に差し出してきた。
「冷静に判断できているようで安心したよ。お前が惚れこんでいたらどうしようかと思っていたのだ。今度の王家主催のパーティーでお前は婚約破棄される。その時どうするかは、お前に一任しよう。なぜフォスター家が爵位を持っているか思い知らせてやるが良い」
婚約破棄?ドロシーとでも結婚するのかしら。品のない者同士、お似合いだわ。……それにしてもお父様、悪い事を考えるわね。こんなにお怒りなお父様は久しぶりに見たわ。
フォスター家は20年前、隣国との戦争で多大な貢献をしたと言う理由で爵位を授かった。しかし、お父様はただ戦争で名を上げた訳ではない。魔物を召喚し、隣国を壊滅状態に追い込んだのだ。この事実を知るのは、一部の貴族と王だけだった。思い知らせろ、とはそういう事なのだろう。差し出された本は、魔物を召喚するための魔導書だった。
「そもそもオーウェン家のやつらは貴族の義務を分かっとらん。いずれ天罰を受ける運命だったのだよ」
そうねお父様、私もそう思うわ。不敵に笑うお父様を見ていると、つくづく自分と親子なのだと思った。
自室に戻った後、魔導書をペラペラとめくってみる。早速魔物を召喚してみようかしら。お父様から一任されたのだから、思う存分使いこなしたいわ。二度と浮気なんて出来ない身体にしてあげようかしら……なんて考えただけで、笑いがこみ上げる。
本を開き、召喚の呪文を詠唱すると、一人の男が現れた。魔物って人の形をしているのね……というよりこの人、見た事あるような……
「お呼びでしょうか、アイリーンお嬢様」
そう言って丁寧にお辞儀をした男は、アイリーンのよく知る人物だった。
「なぜ、リチャード様がここに?」
リチャード・スペンサーは公爵家の人物だ。召喚呪文を間違えて、全く関係ない人を連れてきてしまったのだろうか?
「なぜってお嬢様が私を召喚したのでしょう?ご命令いただければ、対価と引き換えにどんな事でもいたしますよ」
冷たく光る瞳で笑うリチャード様は、確かに魔物のようだった。
どうやらスペンサー家は魔物の一家らしい。代々公爵家として、人に紛れて暮らしているという事だった。
「フォスター家が魔物を召喚出来る事は知っていたけれど、まさか自分が呼ばれるとは思いもしませんでした」
笑いながら説明してくれるリチャード様を見て、名案が思い浮かんだ。あの二人には地獄に落ちてもらいましょう。
「じゃあ、私の婚約者のフリをしてもらえますか?」
「そんな事でよろしいのですか。私が言うのも変ですが、もっと難しい命令の方がよろしいかと」
「もちろんそれだけではありません。今度の王家主催パーティーで、皆の記憶を改ざんしてほしいのです。対価は寿命でよろしいですか?」
それを聞いたリチャード様は、とても面白そうに笑った。
「契約成立だ」
――――――
パーティー会場では皆が私達の動向を見守っていた。本当にゴシップ好きな人が多いこと。まあ大勢の方に見られているほうが面白そうだし、構わないのだけれど。
「婚約破棄するですって?最初から婚約なんてしていませんけど…頭のおかしな方ね」
私がわざと演技がかった大きな声で言うと、ロバート様とドロシーはぽかんと口を開けた。あら、間の抜けた顔ですこと。
王家主催のパーティーで、婚約者のロバート様が高らかに宣言する。いえ、宣言ではなく惚気かしら。腕に抱いていらっしゃるドロシーとイチャイチャしてるものね。
身分も釣り合って財力もある娘を手に入れたら、私は用済みのようですね。婚約してから半年間、ずっと浮気をなさっていたのに「私のため」だなんて白々しい。
あぁロバート様、なんて品がないのかしら。こんな方のために花嫁修行をさせられていたなんて……本当に屈辱だわ。
ドロシーと目が合うと、勝ち誇った表情でニヤニヤと笑われた。相変わらず性格が悪いわね。学校でもいつも陰湿なイジメをしてきたけれど、結婚まで妨害するなんて熱心なこと。
「悪く思わないでね、アイリーン。ロバート様は格式ある名家のご子息ですもの。貴女には荷が重いでしょう?私がしっかりと代わりを務めますので心配なさらないで。……いつか貴女にも相応しい方が現れるわよ。貴族ではないかもしれないけれど」
言葉だけは私を心配しているように装っているけれど、だらしない口が半笑いになっているわ。
それにしても王族の前で大きな声を出すなんて、この二人はどういう教育を受けてきたのかしら。くるりと周りを見渡すと、オーウェン伯爵がコソコソとこちら見ている。なるほどー、この 婚約破棄宣言は親公認な訳ですね。親がアレだと子もアレな感じに育つのですね。うんざりしながらお父様を探すとリチャード様と談笑していたが、こちらに気づくと好きにしろとでも言うように目線を送ってきた。
では、好きにさせてもらいますわ。
――――――
パーティーの1ヶ月前、アイリーンは父親であるポールに呼ばれ、家の地下室にいた。地下室は書斎のようになっており、古い本がたくさん置いてあった。
「お前と婚約させたロバート・オーウェンについて、どう考える?」
唐突に言われたが、すぐに何の話か思い当たった。
「悪人ではないですが、貴族としての品格がありませんわ。ドロシー・クーパーとの夜遊びは公然の秘密ですし、我がフォスター家を軽んじているのは間違いありません。王命でなければ婚約などしませんでしたのに」
オーウェン家は爵位こそ上だが財政的にはフォスター家の足元にも及ばない状態で、最近特に財政状況が悪化しているともっぱらの噂だ。王は遠縁にあたるオーウェン家を助けるために、この婚約を指示したのだろう。ため息をつく私を見て、お父様は口の端で微笑んだ。そして手にしていた分厚い本を私に差し出してきた。
「冷静に判断できているようで安心したよ。お前が惚れこんでいたらどうしようかと思っていたのだ。今度の王家主催のパーティーでお前は婚約破棄される。その時どうするかは、お前に一任しよう。なぜフォスター家が爵位を持っているか思い知らせてやるが良い」
婚約破棄?ドロシーとでも結婚するのかしら。品のない者同士、お似合いだわ。……それにしてもお父様、悪い事を考えるわね。こんなにお怒りなお父様は久しぶりに見たわ。
フォスター家は20年前、隣国との戦争で多大な貢献をしたと言う理由で爵位を授かった。しかし、お父様はただ戦争で名を上げた訳ではない。魔物を召喚し、隣国を壊滅状態に追い込んだのだ。この事実を知るのは、一部の貴族と王だけだった。思い知らせろ、とはそういう事なのだろう。差し出された本は、魔物を召喚するための魔導書だった。
「そもそもオーウェン家のやつらは貴族の義務を分かっとらん。いずれ天罰を受ける運命だったのだよ」
そうねお父様、私もそう思うわ。不敵に笑うお父様を見ていると、つくづく自分と親子なのだと思った。
自室に戻った後、魔導書をペラペラとめくってみる。早速魔物を召喚してみようかしら。お父様から一任されたのだから、思う存分使いこなしたいわ。二度と浮気なんて出来ない身体にしてあげようかしら……なんて考えただけで、笑いがこみ上げる。
本を開き、召喚の呪文を詠唱すると、一人の男が現れた。魔物って人の形をしているのね……というよりこの人、見た事あるような……
「お呼びでしょうか、アイリーンお嬢様」
そう言って丁寧にお辞儀をした男は、アイリーンのよく知る人物だった。
「なぜ、リチャード様がここに?」
リチャード・スペンサーは公爵家の人物だ。召喚呪文を間違えて、全く関係ない人を連れてきてしまったのだろうか?
「なぜってお嬢様が私を召喚したのでしょう?ご命令いただければ、対価と引き換えにどんな事でもいたしますよ」
冷たく光る瞳で笑うリチャード様は、確かに魔物のようだった。
どうやらスペンサー家は魔物の一家らしい。代々公爵家として、人に紛れて暮らしているという事だった。
「フォスター家が魔物を召喚出来る事は知っていたけれど、まさか自分が呼ばれるとは思いもしませんでした」
笑いながら説明してくれるリチャード様を見て、名案が思い浮かんだ。あの二人には地獄に落ちてもらいましょう。
「じゃあ、私の婚約者のフリをしてもらえますか?」
「そんな事でよろしいのですか。私が言うのも変ですが、もっと難しい命令の方がよろしいかと」
「もちろんそれだけではありません。今度の王家主催パーティーで、皆の記憶を改ざんしてほしいのです。対価は寿命でよろしいですか?」
それを聞いたリチャード様は、とても面白そうに笑った。
「契約成立だ」
――――――
パーティー会場では皆が私達の動向を見守っていた。本当にゴシップ好きな人が多いこと。まあ大勢の方に見られているほうが面白そうだし、構わないのだけれど。
「婚約破棄するですって?最初から婚約なんてしていませんけど…頭のおかしな方ね」
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