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大切な交渉(2)
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なぜ貴族でもない外部の人間が、小さな領地の前領主の名前を知っているのだろうか。
クリスティーナは思わず口を開いた。
「貴女が……私を探していたという叔母様なのですか?」
「えぇ」
ドロシーは事も無げに肯定した。
クリスティーナの後ろで、ヘンリーが立ち上がる気配がした。かなり警戒をしているようだ。
「わ、私に何の用ですか!?」
クリスティーナがそう聞くと、ドロシーは眉を下げ、力なく微笑んだ。その表情に敵意があるようには思えなかった。
「ここからはアクファミリアのドロシーではなく、単なる叔母の話だと思って聞いてちょうだい」
「……はい」
クリスティーナが頷くと、ドロシーは深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。謝りたくて貴女を探していたの」
ドロシーの言葉は思いもよらぬものだった。
「ど、どういうことですか?」
「私は小さい頃から姉のイザベラと仲が悪くてね、しょっちゅう喧嘩ばかりしていたの。貴族の権利ばかりを主張するあの人とは気が合わなくて……。貴族なんて、領地の皆が支えてくれてこそなのに」
「そうですね……」
「最後に会ったのはイザベラの結婚式ね。あの人ったら『ドロシーは絶対に貴族と結婚出来ないから、一生幸せにはなれないわね。不幸な未来が待ってるってどんな気分なの?』って言ったの。そこから取っ組み合いになって、そのまま絶縁」
「それは……お母様が悪いと思います。謝罪をする必要など……」
絶縁しても仕方がないように思うし、ましてクリスティーナに謝罪する必要などない。クリスティーナはそう思ったが、ドロシーにとっては違うようだ。
ドロシーは再び頭を下げてポツリと呟いた。
「そのせいで、貴女に手を差し伸べられなかった」
「え?」
「私はイザベラが出産したことを知っていたの。向こうが自慢してきたからね。その後、養育を放棄していることにも薄々気づいていた。でも助けなかった。貴女に姉の面影を感じたら、私も貴女に酷いことをしそうだったから。……なんて言い訳なんだけど」
ドロシーは自嘲気味に笑って言った。
「そんな……やっぱり叔母様は悪くないですわ。私が叔母様でも同じことをしたと思います」
「いいえ。子どもは大人が守るべきだったのよ。その義務を私は放棄した」
はっきりと言い切ったドロシーを見て、クリスティーナは不思議な気持ちだった。
(こんな風に考えてくれる人がいたのね)
クリスティーナの母親とは全く違う考え方を持っているようだ。二人の間に喧嘩が絶えなかったというのは、想像に難くない。
「貴女がこんなに立派になってからノコノコと顔を出した私を、許してくれとは言わない。ただ……結婚すると知ったから、おめでとうを言いたかったの」
だんだんと声が小さくなっていくドロシーを見ていると、なんだか温かい気持ちになる。親族にお祝いを言われる日が来るなんて、想像もしていなかった。
「叔母様のお気持ち、とても嬉しいです。私には、家族と呼べる人なんていないと思っていたんです。でも結婚が決まって、新しい家族が出来るってすごく嬉しくて。それだけでも最高なのに、叔母様がいたなんて……すごく嬉しいです!」
クリスティーナがそう伝えると、ドロシーは震えるように呟いた。
「クリスティーナ……ありがとう」
ドロシーをそっと抱きしめると、優しく抱き返された。その温もりが嬉しくて、クリスティーナの頬に涙がつたった。
「そうだ! 叔母様、一つお願いがあるのですけど……」
クリスティーナは思わず口を開いた。
「貴女が……私を探していたという叔母様なのですか?」
「えぇ」
ドロシーは事も無げに肯定した。
クリスティーナの後ろで、ヘンリーが立ち上がる気配がした。かなり警戒をしているようだ。
「わ、私に何の用ですか!?」
クリスティーナがそう聞くと、ドロシーは眉を下げ、力なく微笑んだ。その表情に敵意があるようには思えなかった。
「ここからはアクファミリアのドロシーではなく、単なる叔母の話だと思って聞いてちょうだい」
「……はい」
クリスティーナが頷くと、ドロシーは深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。謝りたくて貴女を探していたの」
ドロシーの言葉は思いもよらぬものだった。
「ど、どういうことですか?」
「私は小さい頃から姉のイザベラと仲が悪くてね、しょっちゅう喧嘩ばかりしていたの。貴族の権利ばかりを主張するあの人とは気が合わなくて……。貴族なんて、領地の皆が支えてくれてこそなのに」
「そうですね……」
「最後に会ったのはイザベラの結婚式ね。あの人ったら『ドロシーは絶対に貴族と結婚出来ないから、一生幸せにはなれないわね。不幸な未来が待ってるってどんな気分なの?』って言ったの。そこから取っ組み合いになって、そのまま絶縁」
「それは……お母様が悪いと思います。謝罪をする必要など……」
絶縁しても仕方がないように思うし、ましてクリスティーナに謝罪する必要などない。クリスティーナはそう思ったが、ドロシーにとっては違うようだ。
ドロシーは再び頭を下げてポツリと呟いた。
「そのせいで、貴女に手を差し伸べられなかった」
「え?」
「私はイザベラが出産したことを知っていたの。向こうが自慢してきたからね。その後、養育を放棄していることにも薄々気づいていた。でも助けなかった。貴女に姉の面影を感じたら、私も貴女に酷いことをしそうだったから。……なんて言い訳なんだけど」
ドロシーは自嘲気味に笑って言った。
「そんな……やっぱり叔母様は悪くないですわ。私が叔母様でも同じことをしたと思います」
「いいえ。子どもは大人が守るべきだったのよ。その義務を私は放棄した」
はっきりと言い切ったドロシーを見て、クリスティーナは不思議な気持ちだった。
(こんな風に考えてくれる人がいたのね)
クリスティーナの母親とは全く違う考え方を持っているようだ。二人の間に喧嘩が絶えなかったというのは、想像に難くない。
「貴女がこんなに立派になってからノコノコと顔を出した私を、許してくれとは言わない。ただ……結婚すると知ったから、おめでとうを言いたかったの」
だんだんと声が小さくなっていくドロシーを見ていると、なんだか温かい気持ちになる。親族にお祝いを言われる日が来るなんて、想像もしていなかった。
「叔母様のお気持ち、とても嬉しいです。私には、家族と呼べる人なんていないと思っていたんです。でも結婚が決まって、新しい家族が出来るってすごく嬉しくて。それだけでも最高なのに、叔母様がいたなんて……すごく嬉しいです!」
クリスティーナがそう伝えると、ドロシーは震えるように呟いた。
「クリスティーナ……ありがとう」
ドロシーをそっと抱きしめると、優しく抱き返された。その温もりが嬉しくて、クリスティーナの頬に涙がつたった。
「そうだ! 叔母様、一つお願いがあるのですけど……」
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