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結婚式の準備(2)
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週末、ヘンリーから急に会いたいと連絡があった。
我が家にやってきたヘンリーの顔色は、あまりよろしくない。寝不足だろうか。
「急にどうしたの?」
「実は……」
ヘンリーの話は驚くべきものだった。クリスティーナは、まさか自分に親戚がいたなんて思わなかったのだ。
「私の叔母……」
「ご存知でしたか?」
クリスティーナは小さく首を振った。
「いいえ。全く知らなかったわ。あの人たちとは会話がほとんど無かったし、まして親戚の話なんて……」
「すみません、無神経でした」
ヘンリーが謝るものだから、クリスティーナは先程より大きく首を振った。
「全然気にする必要はないわよ。それで……母と仲の悪かった叔母が、私を探しているのね? あまり良い想像は出来ないわ……」
「殿下からも注意するようにと言われました。名はドロシー。家名は不明です。二週間ほど前にモール領内で目撃情報がありました。その後二回、貴女を探しに来ていたようです。当面の間は僕が送迎します。領内の視察等はお控えください」
ヘンリーは仕事の合間に色々と調べてくれたのだろう。そう思うと申し訳なかった。
「絶対に一人でうろつかないわ。だからそんなに心配しないで。ちゃんとヘンリーも休んで」
「クリスティーナから注意を受ける日がくるなんて……」
クリスティーナがヘンリーの目の下の隈をそっと撫でると、ヘンリーが苦笑しながら目を閉じた。
「帰ったらマシューにも聞いてみるわ。何か知っているかもしれないし」
とは言ってもフェンネル家に仕えているマシューは、母方の親戚には詳しくないかもしれない。
クリスティーナは帰宅後すぐに、マシューを捕まえた。
「お嬢様の叔母様ですか……確かにいらっしゃいましたな」
「本当? どんな人か知ってる?」
「いいえ、結婚式の際にお見かけしただけなのです。ただ……少しだけお母様と口論していらっしゃいました」
「口論……」
「それっきり音沙汰がありませんでした。お二人が亡くなった時も、連絡が取れませんでしたので、絶縁状態のままです」
結婚式で口論。それは中々に不穏な響きだ。仲が悪かったのは本当のようだ。
(どんな人なのだろう……)
クリスティーナは母のことすらよく知らない。まして叔母のことなど、想像すら出来なかった。
「ヘンリー様の言う通り、あまり一人で出歩かないでください。私たちも気を揉んでしまいますので」
「分かってるわ。ありがとう」
家族や親戚でなくても、心配してくれる人がいる。この人たちを悲しませないためにも、単独行動は控えるべきだろう。
(でも家の中では調べる手段もないわ。両親の持ち物は処分してしまったし……)
この件は、自ら動くことは出来ないだろう。相手が正式に接触してくるのを待つか、探すのを諦めてくれるのを待つしかない。
(結婚式に殴り込み、なんてことはないだろうけど……)
何も出来ないことがもどかしい。こんな時は仕事をして気を紛らわせるに限る。
「よし、今日は早く寝て、明日からバリバリ働こう!」
ありがたいことに仕事は山ほどある。クリスティーナは、無理しない程度に打ち込むことにした。
我が家にやってきたヘンリーの顔色は、あまりよろしくない。寝不足だろうか。
「急にどうしたの?」
「実は……」
ヘンリーの話は驚くべきものだった。クリスティーナは、まさか自分に親戚がいたなんて思わなかったのだ。
「私の叔母……」
「ご存知でしたか?」
クリスティーナは小さく首を振った。
「いいえ。全く知らなかったわ。あの人たちとは会話がほとんど無かったし、まして親戚の話なんて……」
「すみません、無神経でした」
ヘンリーが謝るものだから、クリスティーナは先程より大きく首を振った。
「全然気にする必要はないわよ。それで……母と仲の悪かった叔母が、私を探しているのね? あまり良い想像は出来ないわ……」
「殿下からも注意するようにと言われました。名はドロシー。家名は不明です。二週間ほど前にモール領内で目撃情報がありました。その後二回、貴女を探しに来ていたようです。当面の間は僕が送迎します。領内の視察等はお控えください」
ヘンリーは仕事の合間に色々と調べてくれたのだろう。そう思うと申し訳なかった。
「絶対に一人でうろつかないわ。だからそんなに心配しないで。ちゃんとヘンリーも休んで」
「クリスティーナから注意を受ける日がくるなんて……」
クリスティーナがヘンリーの目の下の隈をそっと撫でると、ヘンリーが苦笑しながら目を閉じた。
「帰ったらマシューにも聞いてみるわ。何か知っているかもしれないし」
とは言ってもフェンネル家に仕えているマシューは、母方の親戚には詳しくないかもしれない。
クリスティーナは帰宅後すぐに、マシューを捕まえた。
「お嬢様の叔母様ですか……確かにいらっしゃいましたな」
「本当? どんな人か知ってる?」
「いいえ、結婚式の際にお見かけしただけなのです。ただ……少しだけお母様と口論していらっしゃいました」
「口論……」
「それっきり音沙汰がありませんでした。お二人が亡くなった時も、連絡が取れませんでしたので、絶縁状態のままです」
結婚式で口論。それは中々に不穏な響きだ。仲が悪かったのは本当のようだ。
(どんな人なのだろう……)
クリスティーナは母のことすらよく知らない。まして叔母のことなど、想像すら出来なかった。
「ヘンリー様の言う通り、あまり一人で出歩かないでください。私たちも気を揉んでしまいますので」
「分かってるわ。ありがとう」
家族や親戚でなくても、心配してくれる人がいる。この人たちを悲しませないためにも、単独行動は控えるべきだろう。
(でも家の中では調べる手段もないわ。両親の持ち物は処分してしまったし……)
この件は、自ら動くことは出来ないだろう。相手が正式に接触してくるのを待つか、探すのを諦めてくれるのを待つしかない。
(結婚式に殴り込み、なんてことはないだろうけど……)
何も出来ないことがもどかしい。こんな時は仕事をして気を紛らわせるに限る。
「よし、今日は早く寝て、明日からバリバリ働こう!」
ありがたいことに仕事は山ほどある。クリスティーナは、無理しない程度に打ち込むことにした。
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