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爵位と領主(2)

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「あの……先程ユリウス殿下から、結婚したら爵位をどうするのか聞かれて……答えられませんでした。せっかく気にかけていただいたのに、私は何も考えてなくて……」

 偽装婚約なので考える必要がなかったんです、とは言えない。何とも曖昧な悩みを吐き出してしまった。

「あぁ、なるほどねぇ。兄さんは結構、女性の地位向上に興味があるみたいだから。実は結構前からクリスティーナのことを気にしていたと思うけど……まあ気にしないでいいよ。兄さんは何でも先回りしちゃうところがあるから」
「そうなんですか? でも……」

 気にするなと言われても、第一王子の発言だ。「考えてみて」と言われた手前、気になってしまう。

(婚約とか結婚って考えることが多過ぎよ……やっぱりこんな関係、引き受けるべきじゃなかったんだわ)

 落ちていた気分が更に落ちていく気がした。
 そんなクリスティーナをよそに、ジュリアスはにこにこしていた。

「でも嬉しいなっ。悩んでくれたんだ」
「え?」
「だってさ、『爵位返上します』って手紙を書いてた頃より、今の立場を大切にしてくれてるってことでしょ? それって僕的にはすごく嬉しいよ。引き留めた甲斐があったってもんだよー」

 ジュリアスは目を閉じてしみじみと頷いている。言われてみれば確かにそうだった。以前のクリスティーナなら、相手に爵位を譲渡することを選んだだろう。

「そう……ですね。私、今すごく仕事が楽しくて、失いたくないって……」
「うんうん、やっぱりクリスティーナは領主に向いてるなあ」

 伯爵でいたい。その気持ちに嘘はないけれど、引っかかることもあった。

「でも……そうしたら、ヘンリーには爵位がないままです」

 クリスティーナは自分の言葉を自分の耳で聞いて、ようやく本当の気持ちに気がついた。

(そっか、私まだヘンリーのことが諦めきれてなかったんだ。爵位を渡せるというメリットを自らの意思で失ったことが、ショックだったんだわ)

 そんな自分の本音が、これまたショックだった。そんなにどうしようもないことで悩んでいたなんて。
 ジュリアスは、ガックリと肩を落とすクリスティーナを不思議そうに見ていた。

「そんなのあいつは望んでないでしょ」
「ヘンリーはそうですけど、お母様の願いですから……」
「違うと思うけどなー。あのさ、クリスティーナもヘンリーも、お互い言葉不足だよ。ちゃんと話せば、絶対あっさり解決するよ?」
「そうかも、しれませんね」

 ジュリアスの言うことは正論だ。本当の婚約者ならば、こんなこと話せばすぐに解決する。

(でも私には、結婚のことを話し合う権利もないわ)

 クリスティーナが少しだけ俯くと、ジュリアスに両肩を掴まれた。
 
「よしっ、僕がクリスティーナに課題を出してあげよう」
「課題、ですか?」

 ジュリアスからの思いもよらぬ提案に、クリスティーナは、目をぱちぱちと瞬かせた。

「クリスティーナって、ヘンリーに愛の告白したことないでしょ? プロポーズも向こうからだったでしょ?」
「それはっ……はい」
「だ・か・ら、話し合いが出来ないんだよ。そういうことを言い合わないから。『好き』とか『愛してる』ってちゃんと伝えること! これが課題ね。あ、命令だよ? 分かってるよね?」
「えぇ……」

 なんとも無茶苦茶だ。けれど第二王子には逆らえなかった。

「もうすぐヘンリーの誕生日だし、ちょうどいいじゃん!」
「へ?」
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