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爵位と領主(1)
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(はぁ……どうしてこんなに気分が落ち込むのだろう)
クリスティーナは客室から出た後、大きなため息をついた。
ユリウスが家具職人を紹介してくれるのはありがたかったが、その後の話がひどく気になっていた。
「私がヘンリーと結婚したら……」
ありもしない妄想なのに、その時起こり得る様々な問題が、クリスティーナを落ち込ませていた。
さっさと領地に帰ろう。仕事をして忘れよう。そう思っていたら、前方から見知った人が歩いてきた。
「あれー? クリスティーナじゃん! そっか、今日は兄さんに会いに来たんだね。もう話は終わった?」
いつもの調子で軽やかに話しかけてくるジュリアスを見て、クリスティーナは少しホッとした。
「はい、殿下のおかげでお話が出来ました。ありがとうございます」
「どういたしましてー。ねぇ、今日はまだ時間あるでしょ? 僕にも付き合ってよ」
「わっ……ど、どこへ行くのですか?」
ジュリアスは何かを思いついたようで、クリスティーナの腕を引っ張ってグイグイと廊下を進んでいく。
連れて行かれた先は、王宮の裏庭だった。きちんと手入れされた薔薇が、見事に咲き誇っている。
「クリスティーナには、休憩を覚えてもらわないといけないからね」
「もう反省しましたってば……」
「いいからいいから。ちょっと散歩しよーよ」
ジュリアスが薔薇の中を進んでいく。クリスティーナは服が引っかからないように、慎重にジュリアスを追いかけた。
「兄さんから良い職人さんを紹介してもらえた?」
「はい! お一人、心当たりを当たってみてくれるそうです。でも、どうしてユリウス殿下は家具職人に詳しいのですか?」
なぜユリウスに専門知識があるのか、とても不思議だった。クリスティーナの話を聞いて、製作の難しさに気がついていたし、拙い図面も一瞬で理解してくれていた。
ユリウスは、本当に家具に対して造詣が深いのだろう。
「寝苦しい時ってあるじゃん? 僕は寝具を見直すタイプだったけど、兄さんはベッドの骨組みから変えたくなるタイプだったんだよねー。で、オーダーメイドのベッドを発注したりして、そこから家具にはまったみたい」
「なるほど……?」
(絹の生産地で領主になったり、家具職人に直接オーダーしたり……なんていうか、こだわりが強い兄弟なのね)
「兄さん優しかったでしょ? 誰にでも丁寧だし、自慢の兄だよ」
「そうですね……とても親切でした」
親切過ぎて、クリスティーナの将来まで心配してくれたのだから。
クリスティーナの頭の中では、さっきのユリウスとの会話がぐるぐると繰り返し回っていた。
「ユリウス殿下とジュリアス殿下は、その……貴族の人事を担当されているのですか?」
「ん? まぁそうだね。じゃなきゃクリスティーナのお家のことに介入出来なかったから、ラッキーだったなあ」
やはり王子二人が貴族の管理をしているようだ。だからこそジュリアスはクリスティーナに手を差し伸べ、ユリウスは手を貸そうとしている。
(でも私は……って何を考えているのよ! 別に本当に結婚する訳じゃないのに……)
クリスティーナは、自分でも何を考えるべきかよく分からなくなっていた。クリスティーナが黙り込むと、ジュリアスが振り返った。
「なにかあったの?」
その優しい口調に、思わずクリスティーナは口を開いた。
クリスティーナは客室から出た後、大きなため息をついた。
ユリウスが家具職人を紹介してくれるのはありがたかったが、その後の話がひどく気になっていた。
「私がヘンリーと結婚したら……」
ありもしない妄想なのに、その時起こり得る様々な問題が、クリスティーナを落ち込ませていた。
さっさと領地に帰ろう。仕事をして忘れよう。そう思っていたら、前方から見知った人が歩いてきた。
「あれー? クリスティーナじゃん! そっか、今日は兄さんに会いに来たんだね。もう話は終わった?」
いつもの調子で軽やかに話しかけてくるジュリアスを見て、クリスティーナは少しホッとした。
「はい、殿下のおかげでお話が出来ました。ありがとうございます」
「どういたしましてー。ねぇ、今日はまだ時間あるでしょ? 僕にも付き合ってよ」
「わっ……ど、どこへ行くのですか?」
ジュリアスは何かを思いついたようで、クリスティーナの腕を引っ張ってグイグイと廊下を進んでいく。
連れて行かれた先は、王宮の裏庭だった。きちんと手入れされた薔薇が、見事に咲き誇っている。
「クリスティーナには、休憩を覚えてもらわないといけないからね」
「もう反省しましたってば……」
「いいからいいから。ちょっと散歩しよーよ」
ジュリアスが薔薇の中を進んでいく。クリスティーナは服が引っかからないように、慎重にジュリアスを追いかけた。
「兄さんから良い職人さんを紹介してもらえた?」
「はい! お一人、心当たりを当たってみてくれるそうです。でも、どうしてユリウス殿下は家具職人に詳しいのですか?」
なぜユリウスに専門知識があるのか、とても不思議だった。クリスティーナの話を聞いて、製作の難しさに気がついていたし、拙い図面も一瞬で理解してくれていた。
ユリウスは、本当に家具に対して造詣が深いのだろう。
「寝苦しい時ってあるじゃん? 僕は寝具を見直すタイプだったけど、兄さんはベッドの骨組みから変えたくなるタイプだったんだよねー。で、オーダーメイドのベッドを発注したりして、そこから家具にはまったみたい」
「なるほど……?」
(絹の生産地で領主になったり、家具職人に直接オーダーしたり……なんていうか、こだわりが強い兄弟なのね)
「兄さん優しかったでしょ? 誰にでも丁寧だし、自慢の兄だよ」
「そうですね……とても親切でした」
親切過ぎて、クリスティーナの将来まで心配してくれたのだから。
クリスティーナの頭の中では、さっきのユリウスとの会話がぐるぐると繰り返し回っていた。
「ユリウス殿下とジュリアス殿下は、その……貴族の人事を担当されているのですか?」
「ん? まぁそうだね。じゃなきゃクリスティーナのお家のことに介入出来なかったから、ラッキーだったなあ」
やはり王子二人が貴族の管理をしているようだ。だからこそジュリアスはクリスティーナに手を差し伸べ、ユリウスは手を貸そうとしている。
(でも私は……って何を考えているのよ! 別に本当に結婚する訳じゃないのに……)
クリスティーナは、自分でも何を考えるべきかよく分からなくなっていた。クリスティーナが黙り込むと、ジュリアスが振り返った。
「なにかあったの?」
その優しい口調に、思わずクリスティーナは口を開いた。
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