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夏祭り(5)

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「ど、どういうことですか?」

 クリスティーナは、困惑するカーミラに領民の腰痛の話をした。

「鎮痛剤は高価ですし、単なる腰痛には過剰すぎる効能です。しかし、カーミラ様の研究されているハーブは違います。薬ほどの効果がなくとも、安価に領民の苦痛を和らげられると思ったのです。まだ研究段階であるのは承知ですが、品種改良したハーブを使用させてもらえないでしょうか?」

 カーミラが研究で品種改良したハーブは、当然世に出回っていない。論文から似た植物を探したけれど、あまり効果がなかったのだ。
 鎮痛作用のあるハーブを使用するには研究所の協力が必要不可欠だった。

 黙って聞いていたカーミラは、しばらく考え込んでいた。

「願ってもない機会です。実はこちらも検証サンプルがもっと必要でして。モール領の皆様に試していただければ、より研究を進めることが出来ます」
「それじゃあ……」
「伯爵は論文をよく読んでくださっているし、何よりソフィアと僕の恩人です。協力しましょう。研究所には僕の方から連絡しておきます」
「ありがとうございます!」

 カーミラの返事は、予想以上に良いものだった。
 正式な契約は後日になるが、かなりの好条件を約束してくれた。無償でハーブを貰う代わりに領民の健康状態を記録し、研究所にデータとして渡す、というものだった。

 このような好条件になったのは、ソフィアの助言が大きかった。

「クリスティーナ様との共同実験がうまくいけば、商品として売り出せます。実際の効果も宣伝に使えますから絶対に売れます。もう劣化品なんて馬鹿にする人はいなくなります。ですから! 絶対! モール領にサンプルを無償でお渡しすべきですわ」

 クリスティーナはハーブ安価で買い取る予定だったが、ソフィアのお陰で無償で使えることになったのだ。

「ありがとうソフィア。貴女は私のことを救世主って言ったけど、私も貴女が救世主に見えるわ!」
「そんなっ! 嬉しすぎますクリスティーナ様!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶソフィアを見て、あの時、仲良くなって本当に良かったと思った。

(お茶会の時には敵になるのかと思っていたけれど、本当に素敵な友人に恵まれたわ)

「こんな事ってあるのね。今日は来て良かったわ。良いことばかり! 誘ってくれてありがとう、ヘンリー!」
「こちらこそ、喜んでもらえて良かったです」

 ヘンリーが夏祭りに誘ってくれなければ、クリスティーナは家にこもって仕事をしていたはずだ。

(考えてみれば、ソフィアと会ったのもヘンリーのおかげよね……ヘンリーが、全部のきっかけをくれたんだわ)

 そう思うと、ヘンリーのことが愛おしくなって、そっと手を握った。
 ヘンリーは一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、何も言わずにクリスティーナの手を握り返した。
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