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二人の思惑(1)

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 クリスティーナが一人で会場をさまよっていた頃、ヘンリーはジュリアスとともに別室にいた。
 会場が良く見渡せる別棟の部屋で、二人はクリスティーナの様子を眺めていた。

「まさかお前が指輪を贈っているなんて思わなかった。二人は恋人同士だったんだねー。ヘンリーってば、手が早ーい」
「殿下のような悪い虫がつかないようにしたまでです。殿下こそ、ブローチを贈るのが早かったですね」
「おやおやー? それはクリスティーナへの嫉妬? それとも、僕への嫉妬かなー?」
「嫉妬なんて、ありません」

 いつもとは違うピリピリとした空気が流れていた。
 ジュリアスへの挨拶が終わった直後、クリスティーナのもとに人々が集中した。ヘンリーは彼女を守ろうとしたが、ジュリアスの執事によって阻まれたのだ。
 そして連れてこられたこの部屋で、なぜかジュリアスからの尋問が始まったのだ。

 会場では、クリスティーナが女性陣に囲まれているのが見える。本当はあんな汚らわしい人々に触れさせたくない。早く会場に戻って、彼女を人々から引き離したい。ヘンリーは苛立っていた。

 なんとかイライラを抑え込み、この状況を作り出したジュリアスを睨みつける。

「どういうつもりですか?」
「クリスティーナを観察したくってさ。上手く切り抜けられるかなーって。十分手助けしたし、後は彼女次第だけど……お前がいたら邪魔だから」

 ジュリアスが顎で示した先では、クリスティーナが令嬢たちに何かを話している。彼女が動くたびに、胸元のブローチがキラリと光っていた。

「あれ、怒っているのかい? 『皆に優しいヘンリー様』はそんなことで怒らないだろう?」
「恋人を試すようなマネをされれば、誰でも怒りますよ!」

 まだ貴族社会に慣れない彼女への仕打ちに、怒らない訳がない。
 ヘンリーが強く抗議すると、ジュリアスの顔つきが変わった。まるでヘンリーを軽蔑しているかのような表情だ。
 
「恋人ねぇ……本気で言ってる?」
「どういう、意味ですか?」

 ヘンリーは自分の主から嘲笑うかのような言い方をされ、慎重になった。
 ジュリアスがそのような態度を取るのは、かなり珍しい。よほど怒っている時にしか見せないものだった。

「僕が気づかないとでも思った? お前がそこまで愚かだとは思わなかった」

 あまりに容赦のない一言に、ヘンリーは閉口した。ジュリアスが何に対して怒っているのか全く分からなかったのだ。
 ヘンリーがいつまでも黙っているので、ジュリアスはため息をついた。

「言い方を変えようか。クリスティーナを利用するのは止めろ。お前が彼女を捨てた時、彼女が傷つかないとでも思っているのか?」
「っ……!」

 ヘンリーは背筋が冷たくなった。

(殿下はどこまで知っているんだ……いや、この人が勘付くことを予想しておくべきだった)
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