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作戦会議
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翌日から、クリスティーナは領主代理の屋敷に通うようになった。ジュリアスの仕事をサポートしながら領主の仕事を覚えるためだ。
まずは簡単な雑務をさせてもらいながら、領地の状況を把握することから始まった。ジュリアスからの手紙を読み込んでいたため、ある程度は理解することが出来た。
「ここモール領の財政は、緩やかですが改善していますね。これは殿下の農地改革によるところが大きいです。後は病人の数も減っています。これは、えっと……衛生管理が行き届くような政策をなさっていたような」
「そうそう。石鹸をね、安定的に仕入れられるように別の領地と取引したんだ。よく覚えていたね。じゃあ伯爵にはこの取引の契約延長用の書類を作成してもらうかな」
ジュリアスは最初の三日間、クリスティーナに付きっ切りで指導した。そしてクリスティーナが雑務をこなせるようになると、だんだんと口を出さなくなった。
「ごめんね。しばらく忙しくなりそうだから毎日は来れないんだ。代わりにヘンリーを寄越すから、色々と教えてもらって」
そしてヘンリーが毎日顔を出すようになったのだ。
これはクリスティーナにとってはありがたかった。第二王子に雑務を教わるのは恐れ多いし、ヘンリーとはもう少し関わるべきだと思っていたから。
(でもこれはお仕事だから、婚約の件について話すのは失礼よね? どこかで時間が取れると良いのだけれど)
そんなクリスティーナの願いはすぐに叶うことになる。ヘンリーと仕事するようになって一週間が経った頃、彼から提案があったのだ。
「伯爵、今日は少し早いですけど終わりにしましょう。それで……少しお時間よろしいですか? 作戦会議をしましょう」
「作戦会議、ですか?」
「そうです。僕達が婚約者として、この一年間怪しまれずに過ごすための計画を立てましょう」
ヘンリーはスケジュールの書かれたノートを開いて、クリスティーナに示した。ノートには細かく行事が書かれており、ヘンリーの几帳面な性格が窺えた。
「直近は殿下の生誕祭です。ここで距離を縮めましょう。参加者も多いので証拠にもなります」
「なるほど……」
「その後両親への挨拶、季節ごとの祭、互いの生誕祭。後はパーティーなどに同行してもらうことになります。この行事では……」
「は、はい……」
ヘンリーは、どの行事でどれくらい親密になるべきかを混じえて丁寧に説明した。
クリスティーナは細かな計画を前に圧倒されてしまった。
「あの、これ、上手く振る舞える自信がないのですが……」
相応の対価を受け取るからには、ヘンリーの期待には応えたい。だが、人間関係も恋愛経験も全くないクリスティーナにはハードルが高かった。
(少しずつ親密にって、どうすればいいの!? ど、どのくらいの仲の良さなら周囲の人に怪しまれないの??)
考えても全く分からない。クリスティーナは頭を抱えて項垂れてしまった。
その様子を見ていたヘンリーは少し面白そうに笑いながらクリスティーナを励ました。
「心配なさらないで。単なる予定です。最終的に僕と伯爵が仲睦まじく見えれば問題ないですから」
「そ、そうですか? でも……」
「ではこうしましょう。伯爵は直近の行事のことだけ考えてください。そこでの僕たちの関係性をもとに、後の予定は僕の方で調整します。任せてください」
ヘンリーの声色はとても優しくて、任せておけば大丈夫だと思える安心感があった。
「直近の行事……ジュリアス殿下の生誕祭ですね。私はどう振る舞ったら良いのでしょうか?」
クリスティーナの質問に少し考え込んだヘンリーは、何かを思いついた様子でクリスティーナの隣に移動した。
そうしてクリスティーナの手に触れた。
「なるべく僕から離れないで、僕だけを見ていてくれますか?」
「……っ!」
まるで愛の告白かのような台詞に、顔が熱くなるのを感じた。
まずは簡単な雑務をさせてもらいながら、領地の状況を把握することから始まった。ジュリアスからの手紙を読み込んでいたため、ある程度は理解することが出来た。
「ここモール領の財政は、緩やかですが改善していますね。これは殿下の農地改革によるところが大きいです。後は病人の数も減っています。これは、えっと……衛生管理が行き届くような政策をなさっていたような」
「そうそう。石鹸をね、安定的に仕入れられるように別の領地と取引したんだ。よく覚えていたね。じゃあ伯爵にはこの取引の契約延長用の書類を作成してもらうかな」
ジュリアスは最初の三日間、クリスティーナに付きっ切りで指導した。そしてクリスティーナが雑務をこなせるようになると、だんだんと口を出さなくなった。
「ごめんね。しばらく忙しくなりそうだから毎日は来れないんだ。代わりにヘンリーを寄越すから、色々と教えてもらって」
そしてヘンリーが毎日顔を出すようになったのだ。
これはクリスティーナにとってはありがたかった。第二王子に雑務を教わるのは恐れ多いし、ヘンリーとはもう少し関わるべきだと思っていたから。
(でもこれはお仕事だから、婚約の件について話すのは失礼よね? どこかで時間が取れると良いのだけれど)
そんなクリスティーナの願いはすぐに叶うことになる。ヘンリーと仕事するようになって一週間が経った頃、彼から提案があったのだ。
「伯爵、今日は少し早いですけど終わりにしましょう。それで……少しお時間よろしいですか? 作戦会議をしましょう」
「作戦会議、ですか?」
「そうです。僕達が婚約者として、この一年間怪しまれずに過ごすための計画を立てましょう」
ヘンリーはスケジュールの書かれたノートを開いて、クリスティーナに示した。ノートには細かく行事が書かれており、ヘンリーの几帳面な性格が窺えた。
「直近は殿下の生誕祭です。ここで距離を縮めましょう。参加者も多いので証拠にもなります」
「なるほど……」
「その後両親への挨拶、季節ごとの祭、互いの生誕祭。後はパーティーなどに同行してもらうことになります。この行事では……」
「は、はい……」
ヘンリーは、どの行事でどれくらい親密になるべきかを混じえて丁寧に説明した。
クリスティーナは細かな計画を前に圧倒されてしまった。
「あの、これ、上手く振る舞える自信がないのですが……」
相応の対価を受け取るからには、ヘンリーの期待には応えたい。だが、人間関係も恋愛経験も全くないクリスティーナにはハードルが高かった。
(少しずつ親密にって、どうすればいいの!? ど、どのくらいの仲の良さなら周囲の人に怪しまれないの??)
考えても全く分からない。クリスティーナは頭を抱えて項垂れてしまった。
その様子を見ていたヘンリーは少し面白そうに笑いながらクリスティーナを励ました。
「心配なさらないで。単なる予定です。最終的に僕と伯爵が仲睦まじく見えれば問題ないですから」
「そ、そうですか? でも……」
「ではこうしましょう。伯爵は直近の行事のことだけ考えてください。そこでの僕たちの関係性をもとに、後の予定は僕の方で調整します。任せてください」
ヘンリーの声色はとても優しくて、任せておけば大丈夫だと思える安心感があった。
「直近の行事……ジュリアス殿下の生誕祭ですね。私はどう振る舞ったら良いのでしょうか?」
クリスティーナの質問に少し考え込んだヘンリーは、何かを思いついた様子でクリスティーナの隣に移動した。
そうしてクリスティーナの手に触れた。
「なるべく僕から離れないで、僕だけを見ていてくれますか?」
「……っ!」
まるで愛の告白かのような台詞に、顔が熱くなるのを感じた。
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