上 下
9 / 14

爵位を剥奪させていただきます

しおりを挟む
ノーマン様が出て行った後、私はすぐに行動を開始しました。
先代公爵は爵位の返上は難しいと仰っていましたが、方法がない訳ではありません。

返上できないのなら、剥奪してしまえば良いのです。

早速ハロルドに連絡し、領民たちからの声を集めました。ノーマン公爵がこの領地には不要だという声を。

公爵代理であるハロルドに対する領民たちからの信頼は厚く、あっという間に嘆願書に署名が集まりました。

「こんな多くの方から署名をいただけるなんて、嬉しいような悲しいような……複雑です」

「領民の中には私のように仕事を押し付けられていた者や、無理な依頼をされた者が多くいますからね」

どうやら私が思っている以上に、領民たちは領主のことを見ていたようです。
領地を放置し、働かない公爵は不要であるとの判断が下されました。


――――――――――
貴族院 等級管理委員会 御中

ノーマン・ラングトリー公爵の爵位剥奪に関する嘆願書

ラングトリー領の領民一同(※別紙署名)は、以下の理由から、ノーマン・ラングトリーの爵位剥奪を要求します。


・爵位就任以来、領地運営に関与することなく公務を怠ったこと
・公務の大半を部下に強制委託し、手柄を強奪したこと
・上記の二点を指摘されても改善が見られなかったこと


〇月〇日
ラングトリー領 領民一同

――――――――――



嘆願書を提出してから一週間も経たないうちに、ノーマン様の爵位は剥奪されました。
通常は一ヶ月以上かかると聞いていましたので、驚くべき早さです。

「なぜこんなにも迅速に対応していただけたのでしょうか……」

ノーマン様の爵位が剥奪されたという通知を読みながら疑問を口にすると、書類整理をしていたハロルドが顔を上げました。

「どうやら先代公爵が口添えしてくださったようですよ。事態は深刻で、至急対応を求むと」

「……そうだったのですね。あとでお礼をお送りしておきます」

実の息子の爵位剥奪を支持してくださるなんて……先代公爵には苦渋の決断をさせてしまいました。
本当に申し訳ないです。
私が結婚当初から諦めずにノーマン様と接していれば、別の未来があったかもしれません。

訪れなかった未来にため息をつくと、ハロルドは何かを察したようでした。

「メアリー様、あまり気に病まないでください。あなたが手を下さなくても、公爵はこうなる運命でしたよ」

「きっと、そうね……」

今の選択を嘆くのは、領民にも失礼ですものね。前を向いて進むしかありません。
ハロルドや領民が後悔しないような領地にしていかなければなりません。




数日後、ノーマン様の屋敷が売りに出されているのを目撃しました。
差し押さえられたという話は聞いていませんので、ご自分で判断なさったのでしょう。
お金も爵位もなくなったら、遊んでいた女性たちも寄ってこなくなったでしょうね。
ようやく現実を受け入れてくださったのでしょうか。

少し前まで私もここに住んでいたのに、売られているのを見るのは不思議な気分です。

「メアリー……」

感傷に浸っていると、後ろから声をかけられました。
振り返ると、神妙な顔をしたノーマン様が立っていました。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

死に戻るなら一時間前に

みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」  階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。 「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」  ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。  ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。 「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」 一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!

ジャン・幸田
恋愛
 私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!     でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

婚約者と妹に毒を盛られて殺されましたが、お忘れですか?精霊の申し子である私の身に何か起これば無事に生き残れるわけないので、ざまぁないですね。

無名 -ムメイ-
恋愛
リハビリがてら書きます。 1話で完結します。 注意:低クオリティです。

処理中です...