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第五章
幕引き
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謁見の間にルーファス様が連れてこられた。
「……!」
彼は私を見て何かを必死に話そうとしていたが、声が発せられることはなかった。
「ルーファス様、お久しぶりです。本日はあなたに伝えたいことがあって、ここへ来てもらいました。ただ、あなたの話は聞きたくありませんので、声を封じさせてもらいました。一方的で申し訳ありません」
ルーファス様の言葉には力がある。耳を傾ければ決意が揺らいでしまう気がしたので、国王の許可を得てこのような形で再会させてもらった。
「あなたが私の両親にしたこと、私にしようとしたこと、国王やシャーロット様から聞きました。そのことでお話したかったのです」
「……」
ルーファス様は私が真実を知ったと悟ったようだった。驚きや喜びの表情が消え、能面のような顔つきになっていた。
「もちろん、あなたには裁きを受けてもらいます。申し開きがあるのでしたら、裁判の場でどうぞ。……私は真実を知るまで、愚かにもあなたのことを愛していました。ですが今は憎んでいます。私の人生を滅茶苦茶にしたのですから。でも、今日であなたのことは忘れることにします。私の人生にいなかったことにします。それだけお伝えしたかった」
俯いてしまったルーファス様の表情は見えない。だけどそれで良い。私の言いたいことは言えた。もう忘れよう。関心を持つことも疲れてしまった。
「陛下、私は満足しましたので、後の処分はお願いいたします」
「あぁ、正当な裁きの場を設けよう。そなたの無実も皆に周知させることを約束しよう」
「ありがとうございます。では、私たちはこれで。クラウス、帰りましょう」
クラウスを連れて帰ろうとすると、国王に引き留められた。
「リディア・クローバー、こんなことになって本当に申し訳ない。……だが、最後に一つ願いを聞いてもらえないだろうか。この杖を持って行ってほしいのだ」
そう言って差し出されたのは国王が持っていた杖だった。
「構いませんが、これは……?」
「我が国に代々伝わる杖だ。聖女を誕生させるための……。この国にはもう必要ない。一人の寿命と人生を犠牲にして成り立つ国からは、脱却せねばならない。破壊するなり好きにしてほしい」
国王は聖女の寿命がすり減っていることを知っていたのだ。だが責める気にはなれなかった。国王の目から、真剣度合いが窺えたからだ。この国を変えようとしているのだろう。
受け取った杖からは、森の奥の大木と同じ力を感じた。パールとルチルが言っていたのは、この杖のことだったのだ。
「ではいただきます。この杖の素材となった木を知っています。そこへお返ししようと思います」
私がそう返答すると、国王は驚いたようなホッとしたような表情を浮かべた。そして私に頭を下げたのだ。国王が頭を下げるところを見たのは初めてだった。
部屋を出る時、ふと振り返るとルーファス様と目が合った。彼の口が何か動いた気がしたが、何を言ったのかは分からなかった。もう知りたいとも思わなかった。
これですべて終わったのだ。
「……!」
彼は私を見て何かを必死に話そうとしていたが、声が発せられることはなかった。
「ルーファス様、お久しぶりです。本日はあなたに伝えたいことがあって、ここへ来てもらいました。ただ、あなたの話は聞きたくありませんので、声を封じさせてもらいました。一方的で申し訳ありません」
ルーファス様の言葉には力がある。耳を傾ければ決意が揺らいでしまう気がしたので、国王の許可を得てこのような形で再会させてもらった。
「あなたが私の両親にしたこと、私にしようとしたこと、国王やシャーロット様から聞きました。そのことでお話したかったのです」
「……」
ルーファス様は私が真実を知ったと悟ったようだった。驚きや喜びの表情が消え、能面のような顔つきになっていた。
「もちろん、あなたには裁きを受けてもらいます。申し開きがあるのでしたら、裁判の場でどうぞ。……私は真実を知るまで、愚かにもあなたのことを愛していました。ですが今は憎んでいます。私の人生を滅茶苦茶にしたのですから。でも、今日であなたのことは忘れることにします。私の人生にいなかったことにします。それだけお伝えしたかった」
俯いてしまったルーファス様の表情は見えない。だけどそれで良い。私の言いたいことは言えた。もう忘れよう。関心を持つことも疲れてしまった。
「陛下、私は満足しましたので、後の処分はお願いいたします」
「あぁ、正当な裁きの場を設けよう。そなたの無実も皆に周知させることを約束しよう」
「ありがとうございます。では、私たちはこれで。クラウス、帰りましょう」
クラウスを連れて帰ろうとすると、国王に引き留められた。
「リディア・クローバー、こんなことになって本当に申し訳ない。……だが、最後に一つ願いを聞いてもらえないだろうか。この杖を持って行ってほしいのだ」
そう言って差し出されたのは国王が持っていた杖だった。
「構いませんが、これは……?」
「我が国に代々伝わる杖だ。聖女を誕生させるための……。この国にはもう必要ない。一人の寿命と人生を犠牲にして成り立つ国からは、脱却せねばならない。破壊するなり好きにしてほしい」
国王は聖女の寿命がすり減っていることを知っていたのだ。だが責める気にはなれなかった。国王の目から、真剣度合いが窺えたからだ。この国を変えようとしているのだろう。
受け取った杖からは、森の奥の大木と同じ力を感じた。パールとルチルが言っていたのは、この杖のことだったのだ。
「ではいただきます。この杖の素材となった木を知っています。そこへお返ししようと思います」
私がそう返答すると、国王は驚いたようなホッとしたような表情を浮かべた。そして私に頭を下げたのだ。国王が頭を下げるところを見たのは初めてだった。
部屋を出る時、ふと振り返るとルーファス様と目が合った。彼の口が何か動いた気がしたが、何を言ったのかは分からなかった。もう知りたいとも思わなかった。
これですべて終わったのだ。
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