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(それに、今回の件はロベルト様も関わっているものね……)
 
 ロベルト・シヴァルツァーはアリシアと同じ身分の伯爵令息。だがシヴァルツァー家とローデン家では経済力が違いすぎる。

 ローデン家は財政難なのだ。

 この結婚でシヴァルツァー家から多大な資金援助が得られる。
 だから両親は今回の件を大ごとにしたくないのだろう。

 アリシアの意見が通るはずもなかった。

「分かりました。では今回のことは見なかったことにしますわ」

 アリシアはそう言って頭を下げた。

(仕方がないわ。結婚は親が決めるものなのだから……)



 ところがアリシアが現状を受け入れてから数ヶ月、事態は急変した。

「リリアナが身ごもったんだ。だから……」

 ロベルトが頭を下げながらチラチラとアリシアの様子を伺っている。

「つまり婚約を破棄して妹と結婚するってことですね?」
「あ、あぁ。君の両親も納得してくれたんだ。子どもが出来たなら仕方がないって。結婚する家同士は変わらないし、これからも君とは仲良くしたいんだけど……」

 呆れた物言いだったが、アリシアは微笑んだ。

「もちろんよロベルト様、結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
「えぇ……? あ、あぁ、ありがとう」

 アリシアの反応が意外だったのかロベルトはポカンとしていた。

(これは神様がくれたチャンスかも!)

 アリシアは内心ウキウキとしていた。



 それから間もなく、アリシアは生まれ育った町を出ていくことにした。

「私は婚約破棄をされた身。もうお嫁にも行けません。良からぬ噂で妹のリリアナやロベルト様に迷惑をかけるのも本意ではありません。だから私は出ていきます」

 ここは狭い田舎町だ。
 アリシアの言う通り、婚約破棄についての様々な噂が出回ったのだ。

「ローデン家のご令嬢は、随分と嫌われたんだな。婚約を破棄だなんて、今時あり得ない」
「シヴァルツァーのご令息の女性遊びが激しかったからだと聞いたわ」
「あら、てっきり真実の愛を見つけたからだと……」
「ローデン家にはもう一人ご令嬢がいただろう? あっちと結ばれたようだ」
「まぁっ! 姉妹で取り合ったのね!」

 噂の的はアリシアだけでなく、リリアナやロベルトも同様だ。
 狭い田舎町で起きた貴族のスキャンダルは、丁度よいエンターテインメントなのだろう。

 だから両親もアリシアの家出を止めなかった。
 アリシアがいなくなれば少しは噂が収まるだろうから。

「お姉様、寂しくなりますわ……。いつでも戻って来てくださいね。家族みんなで歓迎しますわ!」

 リリアナは涙を拭う素振りをしているが、口角が上がるのを抑えきれないようだ。
 リリアナの言う「家族」には、隣にいるロベルトも含まれているのだから。

 リリアナはようやく全てを手に入れて満足なのだろう。

「ありがとうリリアナ、ロベルト様。どうかお幸せに」


 こうしてアリシアは生まれ故郷を後にした。
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