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増幅した憎悪 ※姉ミシェル視点

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「どうしてこんなことに……」

 うす汚いキース鉱山とかいう場所に連れてこられて、急に荷物を運ぶ仕事を言いつけられた。
 鉱山で使われている道具は汚いし、重いし、一時間もしないうちにヘトヘトになる。
 こんなことを平民と一緒にやるなんて耐えられないわ!

 お父様とお母様は鉱山の中に連れて行かれてしまったし、話す相手もいない。
 
「私は子爵家の令嬢なのよ?! なんでこんなことに……」

 文句を言っても、慰めてくれる人が周りにいない。
 全部カレンのせいだわ! どうして私達を見捨てるのよ? 私達は家族だったのに……。



 最悪の始まりは、王家主催のパーティーだった。
 悪魔の侯爵のお相手がカレンだって噂だったから、真相を確かめに行ったの。 
 そうしたら本当にカレンがいたの! 意味が分からないわ!

「どうなってるの?! なんでカレンがクラウス・モルザンのところにいるのよ!」

 単なる噂だと思っていたのに、本当に侯爵の相手がカレンだったの。
 なんなのよ! 家出して侯爵の家にいたってこと? どうやって取り入ったのよ?!

「親の了承も婚約もなしに結婚だと?! ふざけやがって……! 絶対に認めないからな!」
「金持ちを捕まえておいて我が家に一銭も使わせない気?! そんな結婚許せないわ」

 お父様もお母様もカンカンに怒っていた。当り前よね。カレンが結婚なんて、許される訳ないわ。
 
(カレンはこの家で、使用人でもしていたらいいのよ。どこかに行こうなんて……認めないわ!)

 私達家族に迷惑をかけるなんて、悪い子ね。お父様にぶたれたくせに、侯爵に守られて……ズルいわ!
 あんな結婚、すぐにお父様が無効にしちゃうんだから!

 それなのに……パーティーの翌日になったら、お父様もお母様もおかしくなってたの。

「お父様、カレンの結婚を取り消してください! お父様なら出来るでしょう? カレンが侯爵と結婚だなんて耐えられません!」

 私がそう訴えると、お母様が私の肩に手を置いた。

「取り消す必要はないわ。ミシェル、侯爵家のお金が自由に使えるチャンスなのよ?」

 お母様が何を言っているのか分からなかった。あんなに結婚を許さないと言っていたのに……。

「何を言ってるのですか、お母様……相手はあのクラウス・モルザンなのですよ?!」
「いいじゃない! 性格や品位はなくても侯爵様なのよ? 侯爵家と繋がりが出来れば我が家の品格も上がるわ!」

 そう言って浮かれているお母様は、いつもと何か違う気がした。
 目が虚ろで熱に浮かされているみたい。

「お、お父様はどうなのですか? 憎き相手なのでしょう?」
「……確かに侯爵は憎いが、だからこそ利用できるな。カレンを厄介払いできる上に、金を得るチャンスだ」
「そんな……」

 お父様もお母様も一晩でどうしちゃったの?
 まるで悪魔に操られているみたい。こんなのいつものお父様とお母様じゃない!

(昨日までカレンの結婚に反対してたじゃない……! 私は認めないわ!)

 お父様とお母様の役に立てるのは私だけなんだから……。カレンなんか役立たずなんだから!



 カレンに対して何も出来ないまま一週間くらい経った頃、お父様が怒りながら帰ってきた。

「招待状も寄越さないでどういうつもりだ!」

 カレン達の披露宴開催まであと少し。他の貴族のもとには既に招待状が届いていたみたい。

「カレンは私達を招待する気がないのですよ! 早く結婚をやめさせたほうが……」

 せっかく私がアドバイスしてあげたのに、お父様は取り合ってくれなかった。

「まずはカレンに連絡を取らないと! あいつは貴族の礼儀を知らないんだ。俺がきっちり教えてやれば大丈夫さ」

 そう言って手紙を書いていたわ。どうしてお父様はカレンなんかに構うのよ。
 さっさと結婚を無効にすればいいだけなのに。
 結婚を認めたって、カレンは我が家にお金を落とすはずがないじゃない!

 せっかくお父様が手紙を出したのに、披露宴前日になっても返事は一通も来なかった。

「披露宴に乗り込んでカレン・リドリーは我が娘だと訴えよう! そうすれば侯爵も誤魔化せない! 我が家との繋がりを切らせるものか!」
「そうしましょう! あの子は私達の大切な娘ですもの。なんの連絡もないなんて、あの子が可哀想だわ」

 お父様とお母様はカレンの披露宴に行く気満々だ。馬鹿みたい!

(なによっ……! ムカつく! どうしてお父様もお母様もカレンのことばかり……この家から出て行ったやつより私を見てよ!)

 だから披露宴で文句の一つでも言ってやろうと思ってた。
 私は本当にそれだけだったのに……。


 
 私達に下されたのは重い罰だった。

「爵位のはく奪? キース鉱山?」

 披露宴の会場から連れ出されて、狭くて汚い馬車に詰め込まれて、気がついたらここにいた。
 偉そうな平民に指示されて、もうウンザリ!

(許せない……カレン! 自分だけ幸せになろうなんて、絶対に許さないんだから!)

 こんな最低な生活を三日もすると、服も髪もボロボロになった。
 お父様やお母様には寝る時くらいしか会えないし、平民には馬鹿にされたような目で見られる。
 死んだ方がマシなくらい辛かった。

(いつまでこんなことしなきゃならないの? どうしてこんなことが許されるの?)

 でもその日の夜、お父様が荷物をまとめてこう言ったの。

「おいお前達、ここから逃げるぞ!」
「逃げるって?」
「こんな所、やってられるか! 侯爵家に乗り込んで抗議してやる! 行くぞっ」

 そうよ! 大人しくこんな所にいる必要なんてないわ。だって私は何も悪い事をしてないんだもの……。

「悪いのはカレンよ! 私達は無実なんだから……! 行きましょう、お父様、お母様!」

   待ってなさいカレン! 私があなたに分からせてあげる。
 あなたは私より不幸でいることが決まってるの! それが運命なのよ!!
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