親友の婚約者(王子)を奪ったら国外追放されました。私はそこまで悪女かしら?

香木陽灯

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番外編 第二王子の苦悩(2)

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 第二王子は悪女に誑かされた。
 哀れな王子、悪女に騙されていたのだ。

 そんな噂が国中を駆け巡っていた。

 それは間違っている! と大声で叫んで回りたい気持ちと、誰にも会いたくない気持ちが混ざり合って、おかしくなりそうだった。
 両親やマリアは、僕が反省して自室に籠っていると思ったのだろう。誰も会いに来ることはなかった。

 そんなある日、僕の部屋に来客があった。
 お父様の弟、ダレン叔父様だ。

 叔父様はとても気さくで、小さい頃からよく遊んでもらっていた。僕は親族の中で、叔父様のことが一番好きだった。
 叔父様は芸達者で、複数の楽器を弾きこなす音楽家という一面も持っている。大公の身分でありながら、王立楽団にも所属していた。

 僕は叔父様のピアノが大好きだった。

「久しぶりだな、アラン。やんちゃをしたって聞いたぞ」

「……お久しぶりです叔父様。僕は、僕は……もう第二王子という立場に堪えられません。僕が弱いせいで、罪のない人を罰してしまった……!」

 叔父様の顔を見た途端、今まで隠していた本音があふれ出てしまった。これまであったことを全て叔父様に打ち明けた。

「……なるほど、まあ事情があるとは思っていたがな。お前がそう言うなら彼女の安否を確認させよう。もちろん兄上には内緒でな」

「……っ! 良いのですか?」

 叔父様の思いもよらぬ提案に、僕は縋り付いた。

「彼女が元気だと分かれば、お前も少しは落ち着くだろう?」

「はい……」

 彼女が元気で生きているなら、それを知りたい。生きていれば、いつか罪を償えるかもしれないから。

「では手配しておこう」

「ありがとうございます……このご恩はいつか必ず」

「そう思うなら、早く立ち直って社交界に戻りなさい。いつまでも閉じこもっている訳にはいかないだろう?」

「……」

 そんなことは分かっている。だけど身体も心も動けなかった。
 そんな様子の僕を見て、叔父様は立ち上がった。

「まったく……安否が分かったらまた来るよ」



 叔父様は数日後に再度やって来た。

「ソ、ソフィアは? 無事でしたか?」

 叔父様が来たということは、ソフィアの安否が判明したのだ。
 僕は早く知りたかった。

「挨拶もなしに……モユファル王国で働いているようだ。力のある商人のところに上手く転がり込んだらしいな」

「そうですか。良かった……本当に良かった」

 ソフィアが無事。その事実だけで随分と気が晴れた。
 本当ならば今すぐにでも支援がしたい。彼女が必要とする物を全て差し出したい。でもそれは許されないことだ。

(今は無事が知れただけで良い……)

「叔父様、本当にありがとうございます」

「随分顔色がマシになったな。お前の心配事が減ったならそれで良いよ。さてと、じゃあ本題に入ろうか」

「本題、ですか?」

 今日叔父様が来たのはソフィアの話をするためではなかったのだろうか。

「本当はお前と話がしたかったんだ。第二王子という立場について」

「第二王子……」

(そうだ、叔父様は今でこそ大公の立場にいるが、昔は僕と同じだったんだ)

「第二王子とは辛いものだ。兄や父に対して優秀なところを見せてはならない。反逆の意志がなく、協力的であることを常に示していなければならない」

 ゆったりとソファーに座りなおした叔父様は、まるで僕の心の中を代弁しているかのような事を口にした。

「……叔父様はどうやって自分の立場を受け入れたのですか?」

「そうだな、自分のやりたい事を見つけたらどうでも良くなった。王族の中でも比較的自由があるのが、俺たちの特権だからな」

 叔父様が本格的に音楽の道に進んだのは成人してからのはずだ。それまでは叔父様にも葛藤があったのだろう。

「やりたい事……僕には何も思いつきそうにないです。叔父様と違って、ピアノもほとんど弾けなくなっているでしょうね」

「アランは昔から絵描くのが好きだっただろ? 今は描いてないのか」

「絵……そうでしたね。昔はよく描いていましたね」

 幼い頃、暇さえあれば絵を描いていた。
 あの頃は周囲の顔色なんて一切気にせずに生きていたから。

「また始めてみたらいい。今だから描けるものもあるだろう。それに、芸術は良いぞ。色んなしがらみから離れられる」

「そう……ですね」

 絵を描くことを再開したからといって自分の心持ちが変わるとは思えなかったが、他にやることもない。それに折角経験者からアドバイスをもらったのだ。従ってみて損はないだろう。

「それから気になっていたんだが、お前……今、マリアのことをどう思ってる?」

「え?」

「ソフィア・リーメルトのことばかり考えているようだが、お前が今一番に考えなければならないのはマリアのことだろう?」
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