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3.彼女の隣に立つということ
しおりを挟む 三人でのお茶会は思ってた以上に楽しかった気がする。マリアもそう思ったのかもしれない。たびたび王子とのデートに私を誘ってくれた。
私が第二王子と仲良くなったと知った両親は大変喜んだ。あんなに喜んでいるのを見たのは初めてだったかもしれない。
「やるじゃないかソフィア!」
「アラン様のお知り合いの方にはもうお会いした? きっと素敵な殿方を紹介してくださるわ」
両親は私が王子の友人と結婚できるとでも思ったのだろう。
……私もおとなしくしていれば、そんな未来があったのかもしれない。
王子との関係がおかしくなったのは、何かのパーティーの日だった気がする。
珍しくお酒を飲んだら酔いが回ってしまい、バルコニーで風にあたっていた時に王子が話しかけてきたのだ。
「大丈夫? 少し酔った?」
「少しね。もう少ししたら戻るわ。マリアは一緒じゃないの?」
「彼女は……ほら」
王子が指をさした方向を見つめると、マリアが大勢の人に囲まれて楽しそうに笑っていた。彼女は社交界の人気者だったから、いくら婚約者とはいえ独り占めできなかったのだろう。
視界がぼんやりとしているせいか、マリアがいつも以上に輝いて見えた。
「あーあ、どうしてあんなに完璧なのかしら。神様って不公平ね。あの子のそばにいると自分が塵みたい」
「え?」
王子が少し驚いたような声を上げた。どうやら私は心の中の気持ちをそのまま口に出してしまったらしい。
「あっ……えっと、ごめんなさい、何でもないの。マリアは本当に素敵だから、ちょっと羨ましくなってしまうっていうか。で、でも私なんかと比べるのも失礼よね。マリアは何も悪くないのに。悪くないから、感情の行き場がないっていうか……」
「……」
慌てて弁明しようとしたが、余計なことばかり口走ってしまう。焦る私と対照的に、王子は黙って私を見つめていた。
「……ごめんなさい。あなたの大切な婚約者なのに。酷いことを言うつもりはなかったの」
深く頭を下げると、ようやく王子が口を開いた。
「いや……分かるよ。彼女はなんていうか、完璧すぎるから。僕も気後れすることがあるし」
「王子も?」
「あぁ。最近は父上も僕よりマリアに期待しているみたいだし。……元々僕は父上の跡を継ぐ訳でもないから誰からも期待されていないけどね」
笑い交じりに話す王子はどこか寂しそうだった。その顔をみていると胸が苦しくなった。
「私たち、同じね」
その日から私たちの関係は少し変化した。
関係が変化したといっても、特別なことはほとんどなかった。ただ時々、私は王立図書館の資料室で過ごすようになった。資料室には全く人が出入りしなかったので、のんびりするには最適だった。
好きな本を読んで過ごしていると、時々王子がやってきて同じように本を読む。私はその時間が好きになった。
私たちは恋愛感情が芽生えたわけではない。私は王子にときめくこともなければ、彼の言動に一喜一憂することもなかったし、王子も同じだろう。
私達はマリアという存在を一人では受け止めきれなくて、ただ支え合おうとしただけだ。彼女の輝きが眩しすぎて自分が醜い化け物に見える時、本当の姿を移してくれる鏡のような存在だった。
口づけもしたことはないし、当然身体を重ねたわけでもない。ただ寄り添って同じ時間を過ごしていただけだ。
でもそんなささやかな時間もすぐに終わりを告げた。
「ソフィア……あなた、アラン様のことが好きなの? どうして言ってくれなかったの?」
ある日当然マリアに呼び出され、王子との関係について迫られた。
「え? 何を言っているの?」
「見ていたら分かるわ。ソフィアもアラン様も前とは全然雰囲気が違う。二人とも急に生き生きしているわ。 二人して私のことを裏切ったの?」
涙を流しながら私を見つめるマリアは、綺麗な顔をしていた。
(泣き顔も綺麗なんて、羨ましい限りね)
「……裏切ってなんかいないわ。別にやましいことなんてない」
「嘘よ。ソフィアはズルいわ。……私の方が、私の方があなたより……! どうして……」
泣いているマリアの言葉は半分くらいしか聞こえなかったけれど、私に対しての暴言であることは理解できた。
その時、私の中でなにかが弾けた。
マリアが何の根拠もなく疑ってきたことも、今まで私をそんな風に見ていたことも、私がこれまで必死に抑えてきた感情も、王子のことも、全てがどうでもよくなってしまった。
だから言ってしまったのだ。
私の人生を変える最悪の一言を。
「マリア、私はあなたのことが嫌いだったの。下に見ていた私に婚約者をとられる気分はどう?」
今でもあの時の言葉を撤回する気はない。
だけど、こうして全てを失った後に思い返すと、もう少し冷静になるべきだったのかもしれない。
あの時別の言葉を口にしていたら……
(いけない、いけない。現実逃避していたみたい。過去を振り返ったって仕方ないのに)
ぼんやりした頭を振って辺りを見渡すと、現実が戻ってきた。
私が第二王子と仲良くなったと知った両親は大変喜んだ。あんなに喜んでいるのを見たのは初めてだったかもしれない。
「やるじゃないかソフィア!」
「アラン様のお知り合いの方にはもうお会いした? きっと素敵な殿方を紹介してくださるわ」
両親は私が王子の友人と結婚できるとでも思ったのだろう。
……私もおとなしくしていれば、そんな未来があったのかもしれない。
王子との関係がおかしくなったのは、何かのパーティーの日だった気がする。
珍しくお酒を飲んだら酔いが回ってしまい、バルコニーで風にあたっていた時に王子が話しかけてきたのだ。
「大丈夫? 少し酔った?」
「少しね。もう少ししたら戻るわ。マリアは一緒じゃないの?」
「彼女は……ほら」
王子が指をさした方向を見つめると、マリアが大勢の人に囲まれて楽しそうに笑っていた。彼女は社交界の人気者だったから、いくら婚約者とはいえ独り占めできなかったのだろう。
視界がぼんやりとしているせいか、マリアがいつも以上に輝いて見えた。
「あーあ、どうしてあんなに完璧なのかしら。神様って不公平ね。あの子のそばにいると自分が塵みたい」
「え?」
王子が少し驚いたような声を上げた。どうやら私は心の中の気持ちをそのまま口に出してしまったらしい。
「あっ……えっと、ごめんなさい、何でもないの。マリアは本当に素敵だから、ちょっと羨ましくなってしまうっていうか。で、でも私なんかと比べるのも失礼よね。マリアは何も悪くないのに。悪くないから、感情の行き場がないっていうか……」
「……」
慌てて弁明しようとしたが、余計なことばかり口走ってしまう。焦る私と対照的に、王子は黙って私を見つめていた。
「……ごめんなさい。あなたの大切な婚約者なのに。酷いことを言うつもりはなかったの」
深く頭を下げると、ようやく王子が口を開いた。
「いや……分かるよ。彼女はなんていうか、完璧すぎるから。僕も気後れすることがあるし」
「王子も?」
「あぁ。最近は父上も僕よりマリアに期待しているみたいだし。……元々僕は父上の跡を継ぐ訳でもないから誰からも期待されていないけどね」
笑い交じりに話す王子はどこか寂しそうだった。その顔をみていると胸が苦しくなった。
「私たち、同じね」
その日から私たちの関係は少し変化した。
関係が変化したといっても、特別なことはほとんどなかった。ただ時々、私は王立図書館の資料室で過ごすようになった。資料室には全く人が出入りしなかったので、のんびりするには最適だった。
好きな本を読んで過ごしていると、時々王子がやってきて同じように本を読む。私はその時間が好きになった。
私たちは恋愛感情が芽生えたわけではない。私は王子にときめくこともなければ、彼の言動に一喜一憂することもなかったし、王子も同じだろう。
私達はマリアという存在を一人では受け止めきれなくて、ただ支え合おうとしただけだ。彼女の輝きが眩しすぎて自分が醜い化け物に見える時、本当の姿を移してくれる鏡のような存在だった。
口づけもしたことはないし、当然身体を重ねたわけでもない。ただ寄り添って同じ時間を過ごしていただけだ。
でもそんなささやかな時間もすぐに終わりを告げた。
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ある日当然マリアに呼び出され、王子との関係について迫られた。
「え? 何を言っているの?」
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ご覧いただきありがとうございます!
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