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2.完璧な彼女
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マリアは私より何もかもが優れた女の子だった。
金髪碧眼で、学校での成績も主席で、皆に優しい完璧な女の子だった。家同士が仲が良いという理由だけで私なんかとも仲良くしてくれていたのだから、本当に優しいのだと思う。
それにマリアは純粋無垢だった。私なら恥ずかしくて言えないようなセリフを簡単に口にするのだ。
「ソフィアは私の一番の親友だわ! 本当に大好き。ずっとそばにいてね。約束よ?」
「……勿論よ」
彼女といるのは楽しかったけれど、いつも羨望と嫉妬の気持ちが入り混じっていた。
最初は単純にすごいと思っているだけだったのに、いつからこんなにも醜い感情に支配されちゃったのかしら。自分の気持ちが沈んでいると、彼女が余計に輝いて見えるの。
彼女が学校や社交場で輝けば輝くほど、私の人生が惨めなものに感じてしまう。私の人生なんて家を存続させるためのピースでしかない。それなりの貴族と結婚して、子供を産んで……。そんなものだと思っていたのに、マリアを見ているとその未来が嫌で嫌でたまらなくなってしまった。
(どうせ貴族としての人生を歩むならマリアの人生を歩みたかったわ。皆から褒められて認められて……幸せでしょうね)
だけどこんな気持ちは単なる僻みでしかない。だから醜い感情は胸の奥底にしまって、私は私のつまらない人生を進むしかない。私は自分の気持ちに折り合いをつけて毎日を過ごしていた。
そんな時、マリアの婚約が発表された。お相手はなんと第二王子なんだとか。
(うちと同じくらいの身分だったのに、王族に嫁げるなんて……さぞ鼻が高いでしょうね)
彼女の婚約が決まってからというもの、両親が私に対して口うるさくなった。私の出来が良くなれば、上級貴族に嫁ぐチャンスがあるとでも思ったのかもしれない。私はそんな風には思えなかったけれど。
(私がマリアのようになれる訳ない。容姿は生まれつきだし、他のことは私だって努力してきたんだもん。努力してこの程度なんだから、お父様やお母様も諦めてよ……)
私はだんだんマリアと接するのが嫌になっていた。比較されるのは慣れっこだったはずなのに、イライラが止まらなくなってしまった。今まで押し殺していた気持ちが抑えられなくなっていた。
(ダメだわ。少しマリアと距離をとった方が良いかもしれない……)
けれどマリアは私の変化に気づく素振りもなく、学校でも私と一緒に過ごし、いつものようにお茶会にも誘ってくれた。私はそれを拒むことが出来なかった。
その日もいつものようにマリアの家で二人でお茶会をしていると、使用人がマリアに耳打ちをした。
マリアは珍しく困惑しているようだった。
「ごめんなさいソフィア。アラン様がいらしたみたいなの。使用人が予定を間違えて伝えていたみたい……。三人でも構わないかしら?」
「構わないけれど……せっかく王子がいらしたのだから、二人で過ごしなさいよ。私は帰るから……」
マリアから離れるチャンスなのだから、私は内心大喜びで帰ろうとした。席を立とうとすると、マリアに腕をそっと掴まれた。
「せっかく来てもらったのだし……今日のケーキはとっても美味しいのよ。それにアラン様をソフィアに紹介したいわ」
そんな風に言われたら、おとなしく席に座りなおすしかなかった。
しばらくすると王子がやって来た。
「すまないマリア、予定をしっかりと確認すべきだった……。せっかくのレディ達のお茶会を邪魔してしまったね。申し訳ない、ええっと……」
遠目でしか見たことがなかった王子は、近くで見るととても爽やかで親しみやすそうな顔つきをしていた。金髪に灰色の瞳が美しかったが、少したれ目で柔らかい印象だった。
「ソフィア・リーメルトと申します。お初にお目にかかります」
これが私と王子の出会いだった。
金髪碧眼で、学校での成績も主席で、皆に優しい完璧な女の子だった。家同士が仲が良いという理由だけで私なんかとも仲良くしてくれていたのだから、本当に優しいのだと思う。
それにマリアは純粋無垢だった。私なら恥ずかしくて言えないようなセリフを簡単に口にするのだ。
「ソフィアは私の一番の親友だわ! 本当に大好き。ずっとそばにいてね。約束よ?」
「……勿論よ」
彼女といるのは楽しかったけれど、いつも羨望と嫉妬の気持ちが入り混じっていた。
最初は単純にすごいと思っているだけだったのに、いつからこんなにも醜い感情に支配されちゃったのかしら。自分の気持ちが沈んでいると、彼女が余計に輝いて見えるの。
彼女が学校や社交場で輝けば輝くほど、私の人生が惨めなものに感じてしまう。私の人生なんて家を存続させるためのピースでしかない。それなりの貴族と結婚して、子供を産んで……。そんなものだと思っていたのに、マリアを見ているとその未来が嫌で嫌でたまらなくなってしまった。
(どうせ貴族としての人生を歩むならマリアの人生を歩みたかったわ。皆から褒められて認められて……幸せでしょうね)
だけどこんな気持ちは単なる僻みでしかない。だから醜い感情は胸の奥底にしまって、私は私のつまらない人生を進むしかない。私は自分の気持ちに折り合いをつけて毎日を過ごしていた。
そんな時、マリアの婚約が発表された。お相手はなんと第二王子なんだとか。
(うちと同じくらいの身分だったのに、王族に嫁げるなんて……さぞ鼻が高いでしょうね)
彼女の婚約が決まってからというもの、両親が私に対して口うるさくなった。私の出来が良くなれば、上級貴族に嫁ぐチャンスがあるとでも思ったのかもしれない。私はそんな風には思えなかったけれど。
(私がマリアのようになれる訳ない。容姿は生まれつきだし、他のことは私だって努力してきたんだもん。努力してこの程度なんだから、お父様やお母様も諦めてよ……)
私はだんだんマリアと接するのが嫌になっていた。比較されるのは慣れっこだったはずなのに、イライラが止まらなくなってしまった。今まで押し殺していた気持ちが抑えられなくなっていた。
(ダメだわ。少しマリアと距離をとった方が良いかもしれない……)
けれどマリアは私の変化に気づく素振りもなく、学校でも私と一緒に過ごし、いつものようにお茶会にも誘ってくれた。私はそれを拒むことが出来なかった。
その日もいつものようにマリアの家で二人でお茶会をしていると、使用人がマリアに耳打ちをした。
マリアは珍しく困惑しているようだった。
「ごめんなさいソフィア。アラン様がいらしたみたいなの。使用人が予定を間違えて伝えていたみたい……。三人でも構わないかしら?」
「構わないけれど……せっかく王子がいらしたのだから、二人で過ごしなさいよ。私は帰るから……」
マリアから離れるチャンスなのだから、私は内心大喜びで帰ろうとした。席を立とうとすると、マリアに腕をそっと掴まれた。
「せっかく来てもらったのだし……今日のケーキはとっても美味しいのよ。それにアラン様をソフィアに紹介したいわ」
そんな風に言われたら、おとなしく席に座りなおすしかなかった。
しばらくすると王子がやって来た。
「すまないマリア、予定をしっかりと確認すべきだった……。せっかくのレディ達のお茶会を邪魔してしまったね。申し訳ない、ええっと……」
遠目でしか見たことがなかった王子は、近くで見るととても爽やかで親しみやすそうな顔つきをしていた。金髪に灰色の瞳が美しかったが、少したれ目で柔らかい印象だった。
「ソフィア・リーメルトと申します。お初にお目にかかります」
これが私と王子の出会いだった。
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