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1.非常識で無知な悪女
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あの時の私はどうかしていたんだと思う。頭に血が上っていたのかも。
権力というものを舐めてたし、誰かが守ってくれるって思ってたのよね……。
まあ後悔しても過去には戻れないんだけどね。
「ソフィア・リーメルトを国外追放とする」
目の前に立っているおじさんが仰々しく宣言している。
国外追放なんだって。私。
私はそんなに悪いことをしたかしら? 親友の婚約者と少し仲良くしただけじゃない。大金を盗んだり、誰かを殺した訳でもないのに……。
(あーあ……なんか面倒くさいなあ。国外追放ってどうなるんだろう。隣国にでも行かされるのかしら? 西の方に遠い親戚がいるって聞いたから、そこ?)
横を向いてため息をつくと、おじさんの表情が怒りに燃えているのが目の端に映った。
「第二王子を誘惑した罪、反省していないようだな! ハプレーナ王国の恥さらしめ! 本来なら極刑に値するが、マリア様の御慈悲で国外追放となったことを忘れるな!」
おじさんの声に同調するように、周囲で見ている人達が賛同の声をあげている。
「そうだ!」
「さっさと出ていけ愚か者」
「マリア様と第二王子に感謝するんだな!」
怒っているおじさんは茹でダコのように真っ赤になっているし、周りの人も同じように怒っている。
そう……親友だったマリアの婚約者は第二王子だったのだ。私は王族を誘惑し、国家を揺るがしたらしい。
(まあ、あながち間違いではないけれど。……本当のことは何も知らないくせに、嫌になっちゃう)
マリアはおじさんの斜め後ろから私のことを見ていた。無表情だから怒っているかは分からないけれど、きっともう私に微笑みを向けることはないだろう。
(むしろその方が良いわ。あなたの素敵な笑顔を見ると……吐き気がするもの)
今回の件、どうせマリアが王子を庇ったのだろう。第二王子は彼女にとって将来の旦那様だし、王子の罪を認めたら王族の権威にも関わるから。
(私だけが悪女って訳ね。仕方ないわ、もう帰りましょう)
もう一度ため息をつくと、大きな声を出すために思い切り息を吸った。
「皆様、大変ご迷惑をおかけしました。皆様がどう思っているか分かりませんが、私の行為は軽率だったのでしょう。もう国外追放も甘んじて受け入れます。ですが、この国の第二王子たるお方が何の理由もなく私などに誘惑されるでしょうか? 彼には完璧な婚約者がいたというのに……。本当に不思議ですね? では失礼いたします」
皮肉交じりに大声で話すと、周囲のざわめきが更に大きくなった。
けれど私はそのざわめきを無視し、国外追放処分と書かれた書類をおじさんから奪い取ってその場を後にした。
立ち去る時にマリアの顔が少し驚いているのが見えた気がしたけれど、きっと気のせいだろう。
家に帰る途中、道行く人々が私を指さして何かを囁いているのが聞こえた。
「あれが噂の……」
「マリア様の方がずっと素敵なのに……」
「国外追放だって。いい気味よ」
(あーあ、処分が確定したのにそれ以上文句をつけないでほしいわ。こっちは今から両親からの叱責も待ち構えているというのに……こってり叱られるんだろうな)
なんて、私は甘く考えていた。よく考えれば事態がもっと深刻であると気づけたのかもしれない。でもこの時は、頭が考えることを放棄していたようだ。
「もうお前はリーメルト家の人間ではない。必要な荷物をまとめて国を出なさい」
お父様は私の顔すら見ず、お母様はめそめそと泣いていた。
てっきり馬車の用意や使用人の手配くらいはしてくれるのだと思っていた私は、お父様の発言を飲み込めなかった。
「えぇっと……分かりました。それで私はどこへ向かえば? 前に聞いた遠戚のところですか? それとも……」
「それは私たちが関与することではない。お前はもう他人だからな」
お父様は私の発言を遮ってピシャリと言い放った。
「え?」
その後私が何を言っても返事が返ってくることはなかった。お父様の怒りは想像をはるかに超えていて、私は完全に絶縁されてしまったのだ。
呆然としながら荷物をまとめていると、お母様がそっと部屋に入ってきた。お母様の目は真っ赤に腫れていたが、もう泣いてはいなかった。
「ソフィア、お父様は本気であなたと縁を切ったわ。私も止めることは出来ない。これをあげるから……どうにか、どうにか一人で生き抜きなさい」
震える手で渡された袋の中には硬貨が詰まっており、その上にお母様のネックレスが乗せられていた。
私がねだっても絶対に貸してくれなかったネックレスだ。それを見て、お父様もお母様も本気なのだと分かった。
「ありがとうございます。……今までお世話になりました」
私は蚊の鳴くような小さな声でお礼を言うことしかできなかった。
(どうしよう……なにも考えられない。これからどうしたら良いの?)
頭は真っ白なのに身体だけが勝手に動いていて、気がついたら国の外に出ていた。
(国の外、ハプレーナの外ってこんなにも何もないのね……。あぁ、どうして私がこんな目に……)
そもそもマリアと仲良くしていたことが、全ての始まりだった。
権力というものを舐めてたし、誰かが守ってくれるって思ってたのよね……。
まあ後悔しても過去には戻れないんだけどね。
「ソフィア・リーメルトを国外追放とする」
目の前に立っているおじさんが仰々しく宣言している。
国外追放なんだって。私。
私はそんなに悪いことをしたかしら? 親友の婚約者と少し仲良くしただけじゃない。大金を盗んだり、誰かを殺した訳でもないのに……。
(あーあ……なんか面倒くさいなあ。国外追放ってどうなるんだろう。隣国にでも行かされるのかしら? 西の方に遠い親戚がいるって聞いたから、そこ?)
横を向いてため息をつくと、おじさんの表情が怒りに燃えているのが目の端に映った。
「第二王子を誘惑した罪、反省していないようだな! ハプレーナ王国の恥さらしめ! 本来なら極刑に値するが、マリア様の御慈悲で国外追放となったことを忘れるな!」
おじさんの声に同調するように、周囲で見ている人達が賛同の声をあげている。
「そうだ!」
「さっさと出ていけ愚か者」
「マリア様と第二王子に感謝するんだな!」
怒っているおじさんは茹でダコのように真っ赤になっているし、周りの人も同じように怒っている。
そう……親友だったマリアの婚約者は第二王子だったのだ。私は王族を誘惑し、国家を揺るがしたらしい。
(まあ、あながち間違いではないけれど。……本当のことは何も知らないくせに、嫌になっちゃう)
マリアはおじさんの斜め後ろから私のことを見ていた。無表情だから怒っているかは分からないけれど、きっともう私に微笑みを向けることはないだろう。
(むしろその方が良いわ。あなたの素敵な笑顔を見ると……吐き気がするもの)
今回の件、どうせマリアが王子を庇ったのだろう。第二王子は彼女にとって将来の旦那様だし、王子の罪を認めたら王族の権威にも関わるから。
(私だけが悪女って訳ね。仕方ないわ、もう帰りましょう)
もう一度ため息をつくと、大きな声を出すために思い切り息を吸った。
「皆様、大変ご迷惑をおかけしました。皆様がどう思っているか分かりませんが、私の行為は軽率だったのでしょう。もう国外追放も甘んじて受け入れます。ですが、この国の第二王子たるお方が何の理由もなく私などに誘惑されるでしょうか? 彼には完璧な婚約者がいたというのに……。本当に不思議ですね? では失礼いたします」
皮肉交じりに大声で話すと、周囲のざわめきが更に大きくなった。
けれど私はそのざわめきを無視し、国外追放処分と書かれた書類をおじさんから奪い取ってその場を後にした。
立ち去る時にマリアの顔が少し驚いているのが見えた気がしたけれど、きっと気のせいだろう。
家に帰る途中、道行く人々が私を指さして何かを囁いているのが聞こえた。
「あれが噂の……」
「マリア様の方がずっと素敵なのに……」
「国外追放だって。いい気味よ」
(あーあ、処分が確定したのにそれ以上文句をつけないでほしいわ。こっちは今から両親からの叱責も待ち構えているというのに……こってり叱られるんだろうな)
なんて、私は甘く考えていた。よく考えれば事態がもっと深刻であると気づけたのかもしれない。でもこの時は、頭が考えることを放棄していたようだ。
「もうお前はリーメルト家の人間ではない。必要な荷物をまとめて国を出なさい」
お父様は私の顔すら見ず、お母様はめそめそと泣いていた。
てっきり馬車の用意や使用人の手配くらいはしてくれるのだと思っていた私は、お父様の発言を飲み込めなかった。
「えぇっと……分かりました。それで私はどこへ向かえば? 前に聞いた遠戚のところですか? それとも……」
「それは私たちが関与することではない。お前はもう他人だからな」
お父様は私の発言を遮ってピシャリと言い放った。
「え?」
その後私が何を言っても返事が返ってくることはなかった。お父様の怒りは想像をはるかに超えていて、私は完全に絶縁されてしまったのだ。
呆然としながら荷物をまとめていると、お母様がそっと部屋に入ってきた。お母様の目は真っ赤に腫れていたが、もう泣いてはいなかった。
「ソフィア、お父様は本気であなたと縁を切ったわ。私も止めることは出来ない。これをあげるから……どうにか、どうにか一人で生き抜きなさい」
震える手で渡された袋の中には硬貨が詰まっており、その上にお母様のネックレスが乗せられていた。
私がねだっても絶対に貸してくれなかったネックレスだ。それを見て、お父様もお母様も本気なのだと分かった。
「ありがとうございます。……今までお世話になりました」
私は蚊の鳴くような小さな声でお礼を言うことしかできなかった。
(どうしよう……なにも考えられない。これからどうしたら良いの?)
頭は真っ白なのに身体だけが勝手に動いていて、気がついたら国の外に出ていた。
(国の外、ハプレーナの外ってこんなにも何もないのね……。あぁ、どうして私がこんな目に……)
そもそもマリアと仲良くしていたことが、全ての始まりだった。
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