【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー

文字の大きさ
上 下
18 / 27
ファースト・シーズン

サライニクス・テスタロッツァ

しおりを挟む
 自室からシエナの携帯端末に通話を繋いだ。昼食休憩時間に入る30分前だった。

「…はい、シエナです…」

「…忙しい処を悪いね…」

「いいえ、何でしょう? 」

「…訓練成果の中間レポートを各部門、部所ごとに挙げさせてくれ…それらを君と参謀と参謀補佐とでまとめて、昼休みに私のPADに送って欲しい…好いかな? 」

「…分かりました、そのように計らいます…」

「…異常は無いね? 」

「ありません。何も感知していません」

「分かったよ。昼にラウンジで会おう…」

「了解」

 その後40分を経て、PADを携えラウンジに向かう。テーブルに着いて注文しても好かったが、バイキング・サイドに行ってプレートを取り、小皿盛り料理を二つにライスとグラス・ミルクを乗せて大テーブルにPADと共に置き、サイド・カウンターでコーヒーを淹れて着いた。

 ほぼ同時にラウンジの其処彼処でメイン・スタッフ達が立ち上がり、歩み寄って来て同じテーブルに着く。皆、バイキング・サイドで料理を見繕ったようだ。

「みんな、ご苦労さん。よくやってるね。お腹空いてるだろうから、よく食べて、休んで落ち着いてよ? 」

「…アドルさんも、お疲れ様です」

 と、シエナ・ミュラーが労う。

「俺は何も疲れてないよ。休んだり、呑んだり、ダラダラしてたり、遊んだりしてただけだからさ…この中間報告レポートを読んで、チェックするのが仕事らしい仕事かな? 皆はどうだった? 本格的な集中反復訓練はこれが初めてだったけど? 」

「かなり好い手応えでしたよ。艦体の感覚もだいぶ自分に馴染んできました。訓練に集中させて頂いて、ありがとうございました。これは私からのお礼です…呑んで下さい…」

 そう言ってエマ・ラトナーが、グラス・ビアを私の前に置く。

「ありがとう。デイ・タイムなんでね…この一杯だけ、ありがたく頂くよ…」

「…ターゲット・スキャナーとスコープの扱いにも慣れてきました…レナや、砲術のチーム・メンバーとの連携をもっと素早く熟せば、照準ロック迄の時間はまだ短縮出来ます。午後も続けてトライします…」

 そう言ってエドナ・ラティスも、グラスでオレンジ・ジュースを置いてくれる。

「ようやくエンジンコントロール・プロセスやら手順が身体で把握できましたので、午後からは機関部のメンバーで細かく割り振って、操作できるようにしていきます…」

 そう言ってリーア・ミスタンテは、料理の一皿を私の前に置いた。

「ありがとう、機関部長…でも料理のカンパは、もうこれで充分だからね…」

「…アドルさんのシミュレーション・セーブデータを観ましたが、level 36って凄いですね…思わず人間なの? って言っちゃいましたけど…」

「…君は幾つまで上げたんだ? 」

「…24迄でした…」

「…ああ言った宇宙航行機を操る…操縦シミュレーション・ゲーム等の経験は? 」

「…あまりありません…主に航空機とスピード・ポッドレーサーでしたので…」

「…最初だけ、私に一日の長があっただけだね…次に乗れば、君なら直ぐにlevel 40 迄行くよ…」

「…ありがとうございます…」

【アドル艦長、応答出来ますか? 】

 メイン・コンピューターから直接に呼び掛けられた。ブリッジに誰もいないのか?…。

「ああ、好いよ」

【運営推進委員会から大会参加全艦に向けての通達を受信しました】

「概要を読んでくれ」

【現在開催中の模擬戦闘ミッションは、2日間で終了するとの事です。尚、来週の出航後に新たなミッションが発表されるのかどうかについては、不明です】

「了解した。アドル・エルクより以上」

「…聞いての通りだよ。模擬戦闘チャレンジ・ミッションは今日で終わる…で、来週がどうなるのかは、まだ判らない…」

「方針に変更はありますか? 」

 と、ハル・ハートリーが訊く。

「後半日だからね…基本的に変更は無いよ。引き続き午後もこのまま、シエナ副長指揮の下で訓練を続行してくれ…プロセスの時間短縮とスムーズな操艦を心掛けてね? 」

「分かりました」

「それとカリーナ…ブリッジに誰もいない状況で外部からの通信があった場合、即時君の携帯端末に転送するようセットを頼む…」

「了解しました」

「無いとは思うけど、他艦を感知したら取り敢えずの一報を頼む…それ以外は君達に一任するよ…ちょっと高めの負荷をシステムに掛けても好い…」

「はい」

「誕生会の準備は? 」

「進んでいます」

「ミアには気付かれてない? 」

「そう、思いますが…」

「結構…リラックスして続けてくれ…」

「はい」

 以上のような会話を、昼食に取り組みながら続けた。

「…今夜の入港時刻はどうしますか? 」

 と、保安部長のフィオナ・コアーが訊いた。

「そうだな…23:00迄に入港してくれとは言われたけど明日も普通に仕事だし、皆初めてで気疲れしているだろうから1時間前倒しで入港して、明日に備えて休んで貰うか? 訓練は21:20で修了…成果レポートを挙げて貰ったら、最終チェックをして入港シークエンスに入る。好いかな? 」

「分かりました。そのように通達します」

「3種の必須アイテムは、各自で厳重に保管するように…他にはあるかな? 」

 発言は無かった。

「…よし。それじゃ、午後も宜しく…」

 昼食はその後15分で終わり、50分間の昼休み休憩を経て訓練は再開された。

 訓練が再開されて160分で、副長からの一報が入る。私はその時、艦長控室で想定し得るチャレンジ・ミッションの形態について書き出していた。

「艦長、他艦を感知しました」

「エンジン停止して僅かに変針…直ぐに行く」

 そう応えると控室からブリッジに入り、副長に代わってキャプテン・シートに座る。

「光学迷彩level 5、アンチ・センサー・ジェルlevel 3で展開」

「了解」

「感知した時の距離と方位」

「方位021マーク782 距離は第5戦闘距離の55倍でした。現在はロスト」

「ここに居るのを知っていたわけじゃない…ここはデプリ密度が低いな。エマ、アポジ・モーターで舵を切って、デプリ密度の高い宙域に向けて変針…」

「了解」

「感知してエンジン停止までの時間は? 」

「双方とも約5秒…」

「パワー・サインは録れた? 」

「録れました」

「と言うことは、向こうも録ったな…まあ、パワー・サインを録られるのはしかたない…録られてからが勝負だ…」

『サライニクス・テスタロッツァ』
…ブリッジ…

「艦長? 」

「ああ、ローズ副長…手練れの艦長だな…ここ迄で判ることは、向こうには戦うつもりが無いと言うことだ…戦うつもりがあるのなら、こちらに向けて舵を切って接近しながらエンジンを停止する筈だ…まあ後半日だし、気持ちは分からんでもない…ルイーズ、取り敢えず全発射管に対艦ミサイルを装填して、1番にはデコイ・プログラムを入力…」

「了解しました」

『ディファイアント』…ブリッジ…

「艦長? 」

 カウンセラーが、問い掛けるような表情で訊く。

「…皆、そのままで聞いてくれ…そして、意見を頼む…この状況を遣り過ごすのなら、数時間はこのままだ…訓練も出来ない。残り半日を有意義に過ごすのなら、この相手とやり合ってみるのも一つの手だろう…ゲームはまだ始まったばかりで、彼我のスペックに差は無い…旗色が悪くなるようなら、さっさと離脱して逃げれば好い…どうかな? 」

「やってみれば好いと思いますね。スピード・コントロールと艦の振り回しで勝負するなら、負けません。アドル艦長のご信頼に応えます…」

 エマ・ラトナーは正面を向いたままメインパイロット・シートに着いて、私を振り向かずに言ったが、その口調は自信に満ちていた。

「…エマが言い切ったからって訳じゃありませんが、脚を支えるスタミナはエンジニアリング・チームが責任を持って保証しますので、幾らでも使って下さい(笑)」

 と、リーア・ミスタンテ機関部長が笑顔で私を観る。

「…私とレナがこの艦に乗っている以上、他の艦の砲術長の腕は、そんなに気にしなくても好いと思いますね…第1戦闘距離の1.7倍までなら、何処でも狙撃してご覧にいれますので、お任せ下さい…」

 そう言ってエドナ・ラティスとレナ・ライスが、私に悪戯っぽく笑って魅せる。

 3人からの発言を受けて見遣ると、シエナ・ミュラー副長、ハル・ハートリー参謀、カウンセラー・ハンナ・ウェアーも、柔らかく微笑みながら頷く。

 私も微笑みながら頷いて、正面に向き直る。

「…よし、やろう! エンジン始動、面舵50°、30%増速。エンジンと主砲は、臨界パワー150%へ! 対艦ミサイル全弾装填! ハイパー・ヴァリアント、炸裂徹甲弾をセット! 」

『サライニクス・テスタロッツァ』

「! サングスター艦長、相手艦が動きました! 」

「ほう…やる気になったのかな? ローズ、センサーでの観測データをラボに廻して質量分析に掛けるよう、アグネスに言ってくれ…デコイじゃないとは思うが、まあ確認のためだ…」

「了解しました」

「マージョリー、距離は? 」

「第5戦闘距離の53倍です」

「…ふん、やってみるか…セレーナ、エンジン始動だ。イリヤ、セカンド・スピードでインターセプト・コース! お手並み拝見といこう…」

『ディファイアント』

「…方位022マーク781 …距離、第5戦闘距離の53倍でエンジンパワー・サイン! 相手艦です! 加速しつつ、こちらへのインターセプト・コースを採る模様! 」

「速度このまま! こちらもインターセプト・コースだ! カリーナ、データリンクはどうだ? 」

「…まだ遠くて繋がりません」

「まあ好いよ。だがこの艦長はかなりの遣り手だ。油断したら勿論、何かを見落としていてもやられる…それが証拠にパワーサインだけで、インターセプト・コースが採れているからな…シャトルで陽動を掛けられれば好いんだが…まあその状況は、向こうも同じだな…」

『サライニクス・テスタロッツァ』

「艦長、相手艦もこちらに対してインターセプト・コースです」

「うん、なかなか思い切りの好い艦長だな。手強い…マージョリー、全センサーでもう一度確認してくれ…他にパワーサインは無いな? 」

「…ありません…あの相手艦だけです…」

「分かった。コンピューター! 接触予想宙域を3D投影! 」

【コンプリート】

「…ふうん…結構、デプリの密度が高いな…まあ、選んでいるんだろうがな…」

『ディファイアント』

「カリーナ…確認するが、他艦は感知していないな? 」

「ありません。相手艦だけです」

「了解だ。コンピューター! 接触予想ポイントを中心に、半径で第5戦闘距離の範囲内を3D投影! 」

【コンプリート】

「…うん…まあまあだな…リーア、相対距離で第5戦闘距離の2倍にまで接近したら、エンジン停止だ…」

「了解」

「コンピューター! 艦内オール・コネクト・コミュニケーション! 」

【コネクト】

「ブリッジより全乗員に告げる。こちらは艦長だ。間も無く交戦に入るであろう相手艦は、本艦が初めて遭遇する強豪艦であろうと推測している。だが、この2日間の航宙も後半日で終わる。この半日を乗り切れれば本艦は入港出来る。そのために、私や司令部からの指示を落ち着いて、迅速に遂行して欲しい。無理な戦術や操艦を指示するつもりはないから、その点は安心してくれ。旗色が悪くなれば離脱して撤退するから心配しなくて好い。落ち着いて気楽にやろう。では、宜しく。アドル・エルクより以上…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天上への反逆

ボール・球・スフェーラ
SF
西暦2058年のある日、ゼウス率いる神々や天使達が人間への全面戦争を引き起こした しかし、技術が進歩し、戦争は拮抗状態となり、2年も経たずして神々は天使を世界に放ち、神々は天界へ姿を消した そして西暦2068年、謎の能力を持った天使対策2課の尾喫根葉子(おきつね ようこ)とその仲間たちが天から舞い降りる天使たちを倒す能力バトル!ここに開幕!

『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)

トーマス・ライカー
SF
 国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。  艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。  本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。  『特別解説…1…』  この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。 まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』  追記  以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。 ご了承下さい。 インパルス・パワードライブ パッシブセンサー アクティブセンサー 光学迷彩 アンチ・センサージェル ミラージュ・コロイド ディフレクター・シールド フォース・フィールド では、これより物語が始まります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

処理中です...