【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー

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ファースト・シーズン

訓練

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 エドナとレナを引き連れてブリッジに入る。2人とも笑顔で弾かれたように駆け出し、自分の席に着く。他のメイン・スタッフ、サブ・スタッフ達も既に着席しており、振り向いてエドナとレナを観ると少し驚いたようだったが、そのまま眼の前のモニターとタッチパネルに眼を戻した。

 私はドリンク・ディスペンサーに濃い目のコーヒーを出させると、ソーサーごと持ってキャプテン・シートに座り、一口飲んで右のアーム・レストの上に置いた。

「…お疲れ様でした、アドル艦長…エドナもレナも見違える程に血色が好いですね…」

「…ありがとう、シエナ副長。1人に付きたった10分の施術だったけどね…この1杯を飲み終わったら、セカンド・エクサザイズ・トレーニング・デッキに降りるよ…19人の選抜と投入は? 」

「…既に終わっています…もう、シミュレーション・ポッド・カプセルの前で待っていると思いますよ…」

「…分かったよ。飲み終わったら、直ぐに行く。訓練は君に任せる…無いとは思うけど、他艦を感知したらエンジン停止して、アポジ・モーターで僅かに変針だ…」

「…分かっています。艦長…シミュレーション訓練の監督はお任せします…」

「了解したよ。それじゃあな…」

 そう言って立ち上がった私は、飲み終えたカップとソーサーをドリンク・ディスペンサーの上棚に置いてブリッジを後にし、セカンド・エクサザイズ・トレーニング・デッキに向かった。

 セカンド・エクササイズ・トレーニング・デッキには、30基のシュミレーション・ポッド・カプセルが設置されている。私がデッキに足を踏み入れると、既に19人のクルーが整列して待っていた。

サブ・パイロットの2名。

 ソフィー・ヴァヴァサーとハンナ・ハーパー。

補給支援スタッフの3名。

 カリ・マチェットとシャナン・プリーストリーとハイディ・シファー。

 副生活環境支援部長のヘザー・フィネッセー。

生活環境支援スタッフの2名。

サディ・カルノーとエラ・ホール。

医療部スタッフの3名。

 イリナ・スタムとサラ・ペイリンとラニ・リー。

サポート・クルーの3名。

 コディ・ホーンとララ・ハリスとマルト・ケラー。

保安部から3名。

 シーラ・メロとアーシア・アルジャントとディア・ミルザ。

機関部から2名。

キム・キャトラルとエレイン・ヌーン。

そして、私を入れて20名だ。

整列している19名を前にして立つ。

「…待たせて悪かったね。早速だが始めよう…シミュレーション・トレーニングは2時間をワンセットとする。急がなくても慌てなくても焦らなくても好いから、無理の無い範囲でレベルアップを図って欲しい…この2時間でのトレーニングデータとレベルデータはセーブして、セーブデータはコピーして副長とエマに送付するように…じゃ、始めよう…」

 そう言い終えると、皆シュミレーション・ポッド・カプセルに入っていった。私は最後に残ったカプセルのハッチを開ける。シミュレーション・シートの上にオーバー・ヘッド・ヴァイザーが置いてあるので取り上げて起動し、頭に装着してシートに座り、ハッチを閉める。同時にシステムが起動してモニターとキャノピーにはシャトル発進デッキの情景が映し出される。

(…ほう、なかなかに好い造りだな…)

 システムは既にヴァイザーともリンクしている。私はタッチパネルの下からキーボードを引き出した。

(…エンジン始動…システム、オールグリーン…進路クリアー…発進OK…GO! )

 カタパルトで撃ち出されて虚空に跳び出す。加速度で体がシートに押さえ付けられる。再現性もレベルが高い。

 航行制御と姿勢制御と機体制御は2本のコントロール・スティックと足下のペダル2つと、左右両側に3つずつあるコントロール・バーとサブ・スティックで行う。

 操縦感覚が自分に適正であるかどうかは、パイロットの個人差に因る処もあるから仕方の無い面でもあるが、私には緩いと感じた。ウチのパイロット・チームだったら「何だこれ? 」と思うかも知れない。レベル1のコントロール・ミッションをこなしながらキーボードをスピード・モードで操り、機体の各種制御を私の操作速度と反応速度に合わせて調整する。調整後には好い手応えでレベルを上げ、コントロール・ミッションをこなしていく。2時間のワンセットが終わる3分前迄で、レベル36のミッションを終了して切り上げる。最後に各種制御設定を元のノーマル・モードに戻してヴァイザーを外し、パワーを切ってハッチを開けた。

「…お疲れ様でした、アドル艦長…」

 外に出るとエマ・ラトナーが、私にそう声を掛けながら熱いお絞りをくれる。

「…ああ、ありがとう…次のシミュレーション・ディレクターは君かい? 」

 そう応えながら受け取って、顔と手を拭う。

「はい」

 他の皆もワンセットを終えたようで、次々とハッチを開けて出て来た。

「…宜しく頼む…セーブ・データはコピーして、君と副長に送付するよう指示してある…僕のも含めてね…参考にしてくれ…制御設定は終わってからノーマル・モードに戻したよ…乗ったら自分のレベルと適性に合わせて初めに設定を変えたら好い…ワンセットは取り敢えず2時間としたよ…気分が悪くなるようなら無理せずに切り上げて出れば好い…」

「…分かりました、ありがとうございます…」

「…それじゃ、よろしく頼む…皆もご苦労さん…2.30分休んでから、配置に就いてくれ。それじゃ! 」

 そう皆にも声を掛けて手を振ってから、セカンド・エクサザイズ・トレーニング・デッキを後にした。

 エマから、最初のシミュレーション・トレーニングを終えての感想を聞いたのは、暫く後の事だ。

 彼女は私が使ったポッド・カプセルに入って2時間を過ごし、レベル24でタイム・アウトを迎えた。

 ヴァイザーを外してシステムを切る前に、私のセーブ・データを閲覧した彼女は、思わずこう洩らしたそうだ。

「…レベル36…?…何よ、これ?…アドルさんて、人間なの? 」

 その後私は、単艦での操艦と行動訓練の総てを副長以下、スタッフ達に任せて自分の個室で過ごしたり、ラウンジバーで一杯呑んだり、艦長控室でゲーム・マニュアルファイルや軽巡宙艦に関するファイルデータを読み返したり確認したりしていたが、流石に飽きたので再び自室に戻った。

 単艦での訓練プラン・マニュアルは、延べで20日程の時間を掛けて全スタッフとの議論の上で構築したので、今更どこにも口を出す必要は無い。僅かでも好いから反復する中で、時間短縮をしてくれれば好い。

 自室に戻った私は乗艦時に持ち込んだスイム・スーツを取り出すと、それをバスタオルに包んで自室を後にし、ファースト・エクササイズ・トレーニング・デッキに降りた。

 本格的に入るのは、これが初めてだ。男性の更衣室は狭いように思える。勿論、女性用更衣室内の容積を確認したわけじゃない…総てを脱ぎ去ってロッカーに入れ、スイム・スーツを着る。これを着るのはこれで3度目だ…あのデザイナーの彼が造ってくれたこれは、驚く程私の体型にピッタリで、水に馴染むとよりピッタリと締まる。

 エクササイズ・トレーニング・デッキの中は、かなり温かい…パンツ1枚でも寒いとは感じないだろう…湿度もかなり高いようだ…バスタオルを肩に羽織って、スイミング・エリアに足を踏み入れる。

 通常設定では全幅20m、全長60m、水深1.5mの温水プールだが、最大設定では全幅50m、全長150m、水深3m迄換装できる…今は全員が様々な訓練に取り組んでいるから、勿論ここには誰もいない。私はプール・サイドに並べて置いてあるデッキ・チェアの背凭れにバスタオルを掛けると、ストレッチ系の準備運動に入った。

 首・肩・手首・腰・足首を廻す…各部筋肉と腱の屈伸運動も余念なく行う…ジャンプしながら、膝の蹴り上げ運動…軽い反復横跳びまで行った。

 プールサイド迄歩み寄って温水を掬う…30℃はあるようだ…申し分無いな。

 ゆっくりと温水に入り、先ずは歩き始める…好いね…プールの中でも屈伸運動を行う…イヤー・ウィスパーを詰めて、全身を沈める…段々と身体が温水の温かさと抵抗に馴染んでくる…背泳ぎではないが大きく息を吸い、背中で浮かんで天井を観る…改めて高いな…気持ちも気分も好い…立ち上がって、本当にゆっくりとクロールで泳ぎ始める…本当にゆっくりだ…伸ばした手が反対側のプール・サイドに触れるまで、3分以上も掛かっただろうか?…立ち上がり、濡れた髪を後ろに流して息を吐く…泳ぐのは、あのナイト・プールの時以来だな…そう思いながらプール・サイドに寄り掛かかる…誰もいないエクササイズ・トレーニング・デッキは寂しいものだ…暫くそのままで休んでから、ゆっくりとクロールで一往復…平泳ぎで一往復…背泳ぎでも一往復してプールから上がり、ドリンク・ディスペンサーに冷たくて甘くないソーダ水を出させて、プールサイドのデッキチェアーに座り、バスタオルを肩に掛けて脚を伸ばす。

 訓練の進捗は確かに気になるが、副長とスタッフ達に任せれば好い。想いは振り払ってソーダ水を飲み干し、立ち上がる。

 そのままジャグジー・バスに歩み寄って湯に入る。直径で20m程の円形ジャグジー・バスだ…30人で入っても余裕だな。20分程湯に浸かって充分に温まってから出た…。

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