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ファースト・シーズン

…ナイト・タイム…

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バーラウンジからは、シエナ副長と2人で連れ立って出た。副長の個室の中に入る迄、シエナの腰や肩に手を廻すなどは勿論、手さえ繋がずに歩いて入った。中に入り、ドアが閉まって照明が点灯すると、テーブルの上とシンクの中を観たシエナが私に笑顔を向ける。

「片付けて下さって、どうもありがとうございました。食器が乾いたら私が厨房へと返送します」

「このくらい何でもないよ。それでどうやって返送するの?  」

そう訊きながら、ボトルをテーブルの上で立てる。

「キッチンの右側の壁の中に、コンベア・シュートがあるんです。中に置けば、厨房まで運んでくれます」

「へえ、便利なものだね。僕も厨房からデリバリーして貰ったら、使ってみるよ」

そう言いながら右手をシエナの腰に廻して引き寄せ、左手をシエナの右頬に添えてこちらを向いて貰うと、彼女の唇に自分の唇を合わせて最初は軽くだったが、徐々に強く吸い合うように促していき、舌を絡め合わせ始めたらシエナの身体を強く抱き締めて、お互いの舌を強く吸い合い始める。彼女とこんなに激しいキスを交わすのは、これが初めてだ。シエナの身体から力が抜ける。足を踏ん張り、腰を据えて彼女を抱き締めて支え続けながら強く吸い合い、舌を絡め合わせるキスを続ける。漸く口を離してお互いの左頬を合わせると、彼女は息も絶え絶えで眼を閉じたまま私の身体にしがみ付いていた。

「…アドル…さん…激し…過ぎますよ…」

「…立たせたままでごめんな、シエナ…ソファーに座ろう…」

そう言いながら彼女を抱いて支えるように、ソファーまで移動して座った。ジャケットの上着を脱いで背凭れに掛ける。艦長の襟章が付いているから、雑には扱えない。シャツのボタンをふたつ外して首元を弛める。大きく息を吐きながら左腕をシエナの枕にした。

「…昔の…ハードボイルド探偵小説の作家が…主人公に言わせた台詞だったかな?  『最初のキスには魔力がある。2度目にはずっとしたくなる。3度目にはもう感激が無い。それからは女の服を脱がせるだけだ』ってのがあったんだけど…たった3回で感激が無くなるなんて、俺に言わせりゃ冗談じゃないね…キスについての考え方が間違ってるよ…会話に絡めてキスする場所と、そのやり方?  それらのヴァリエーションにコンビネーションを掛合せれば、幾つ迄増えるか想像も付かないね…2割試し終わるまでには、2人目の子供か生まれているよ…」

「…アドルさん…」

「ああ、ごめん…気にしないでくれ。独り言だ…さあ、服を脱いで…襟章が付いている上着は、雑に扱わない方が良い…打ち合わせと言う体にするなら、長くても2時間でここを出ないと、視聴者に怪しまれて、何を言われるか分からないからね…シャワーは訓練に入る前に浴びたから、大丈夫だろ? 」

「…ええ、まあ…」

左腕を抜いて彼女を立たせ、上着を脱がせる。脱がせた上着を左腕に掛けたまま、眼の前に顕れたシエナ・ミュラーの頸・うなじ・肩・肩甲骨周辺・背中の正中線に沿って舌を這わせる。肌が白くてキメが細かい。沁みどころかくすみや黒子も無い。

「…あ、…はっ…そんな…」

彼女の上着をデスクの椅子の背凭れに掛けて、両肩を抱いて寝室に入る。制服の巻きスカートを脱がせて、ベッドサイド・テーブルの椅子に掛け、ストッキングも脱がせる。また抱き締めて2分程舌を絡め合わせた後でブラジャーを外すと、ベッドサイド・ミラーの上に掛ける。

「…さあ、ベッドにうつ伏せで寝て?  マッサージするから…」

「…え?  マッサージ…ですか?  」

「そうだよ、クルーの誰にもまだ言ってないけど、こう観えてマッサージは得意なんだ。前戯の形態の一つでもあるし、ナンパでは最終兵器だな…さあ、うつ伏せになって。頭から始めるよ…」

パンティ1枚だけになって髪を降ろしたシエナ・ミュラーが、枕を胸に当ててうつ伏せになり、両腕を左右に拡げて力を抜いた。

俺は膝立ちで彼女の背を跨ぎ、頭からマッサージを始めた。毛流と血流、血管の展開にも沿って丹念に、入念に頭皮をマッサージする。大概の慢性的な頭痛はこれでかなり改善する。毛髪の生え際と、顔の表情筋にも沿ってマッサージする。眉間から額は廻るように。頬骨から顎、首の両側と顎との接点にはリンパ節がある。ここが熱を持つと風邪を引きやすい。リンパは重力と加速度でしか流れないから、こうしてマッサージで流してやると体調が改善する。首から肩。肩から大胸筋。首に戻って肩甲骨周辺。肩甲骨周辺の筋肉には乳酸が溜まりやすい。思い切って肩甲骨を筋肉から剥がしてやるくらいのつもりでマッサージするのが好い。肩甲骨の周辺の血行が好くなって赤くなってきた。少し休んでその辺りを丹念に舐めてやる。この頃からシエナの喘ぎ声が大きくなってくる。腰と背中の結節点を指圧する。女性はこれがかなり気持ち好いらしい。大殿筋と脇腹を交互にマッサージする。また首に戻り、両肩から両腕へのマッサージも入念に行う。終わったら、両太腿のリンパ節を丹念にマッサージして流してやる。膝の周りのツボを数ヶ所にふくらはぎも充分にケアする。足の裏と掌はツボの密集エリアだ。足の甲や手の甲にもツボはある。手と足のマッサージは、それだけでも時間をかけるべきだ。踝から踵は、力を込めて手を掛けてやるのが好い。足の裏、足の甲、掌、手の甲の指圧とマッサージに時間をかける。両の内腿は力を抜いてマッサージしてリンパを流す。終わったら両足を交互に上げさせて、膝の裏を舐めてやった。この頃からシエナはほぼ絶叫の連続だった。

仰向けになって貰って、肩から上腕、大胸筋から腹筋から腰周りをマッサージする。乳房にはあまり触らないのだが、シエナはさっきから胸を高く突き上げて絶叫している。両肘の裏を舐めた時、それぞれで絶頂に達したようだった。大胸筋から乳房の周り。脇腹から腹筋。太腿全体と内腿を重点に。この流れを3回繰り返す間にシエナは、7回程は絶頂を極めたようだった。最後に顔の表情筋を丹念にマッサージしてやって終えた。

疲れた…1人の女にここまでマッサージをしたのは久し振りだ…ベッドから降りて床に座り込む。汗びっしょりだ…10分程かけて呼吸を整える…喉が渇いたので寝室から出てキッチンに入り、断らなかったが冷蔵庫からオレンジ・ジュースを貰って飲んだ。

寝室を除くと彼女は全く動かずに寝ていたので、シャワーを借りて汗を流した。戻って観ても全く動かずにぐっすりと眠っているので、室内気温プラス5℃を命じて彼女には毛布を掛けた。下着を着けて服を着直す。クロノ・メーターで確認したらシエナの個室に入ってから80分が経過している。出るなら今が頃合いだな。今出れば特には何も言われないだろう。モーニングタイム・アラームをセットしてあげて、寝室から出てドアを閉める。デスクのメモを1枚貰い、『また今度な♡』と書き付けて『マッカラン』のボトルに貼り付けてから、彼女の個室を後にした。

(…おい、何やってるんだよ、アドル・エルク…お前、その気じゃなかったのかよ? )

「…ああ、充分にその気だったんだけどな…でもまあ…別に今夜でなくとも大丈夫だろ? 」

「はい? あの、アドル艦長…何でしょうか? 」

保安部員のリサ・ダービンと、ちょうど通路で擦れ違おうとした時だった。彼女は俺に挨拶をしたのだが、その時の俺は彼女に気付かず、自分の心からの問い掛けに思わず口を開いて応えてしまった言葉を、彼女に聴かれて訊き返されてしまった。

「…ああ、済まない、ミス・ダービン…何でもないんだ。ちょっと思い出してね。ありがとう。お疲れ様。おやすみ」

「お疲れ様でした。おやすみなさい。明日も宜しくお願いします」

「こちらこそ、よろしく。ミス・ダービン」

「ありがとうございます。アドル艦長…」

その遣り取りだけで彼女と別れた俺は、直ぐに自室に入って服を脱ぐとクローゼットに吊るし掛け、パジャマに着換えた。

疲れた…やっぱりサービスし過ぎたな…この疲れは…普通にするセックスの3倍だな…。

デスクに着いて『グレン・モーリンジ』の18年ものをグラスにワン・フィンガー注ぎ、プレミアム・シガレットを1本出して咥え、点けて8分程かけてその両方をゆっくりと充分に堪能した。

片付けると顔を洗って歯を磨き、寝室に入るとモーニング・アラームをセットして寝た。多分30秒も掛からずに意識を失ったと思う。

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