【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー

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ファースト・シーズン

ランデブー・プラン

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 マエストロ・サルヴァトーレ・ラウレンティス料理長特製のスペシャル・ランチセットは、焼き上がったローストビーフのブロックを薄くスライスした7枚にグレイビーソースをかけたもので、薬味としてホースラディッシュとマスタードが適量にかけられていた。

 付け合せとしては、ソテーされた自家製ソーセージ、ポテト、人参、ほうれん草、トリュッフが大皿に寄せられて供されていて、他にはライスとヨークシャー・プディングとサラダとコンソメ・オニオンスープと白のスパークリングワインでセットとされていた。

 私は細身のワイングラスを手に取って…。

「それじゃ改めて、乾杯!  」

「乾杯!  」

「すごく美味しそうだね」

「そうですね。あの、アドル艦長…初日から戦闘に突入しましたけど、今の気持ちは如何ですか? 興奮が冷めやらない感じとか、昂揚感が続いているとか、眠気があるとかありませんか? 」

「カウンセラー・ハンナ・ウェアー…私のPTSDを懸念しているのなら、そんな心配は要らないよ。そんなにストレスが溜まるような戦いでもなかったし…それにあともう1回くらい、戦闘があるだろう…」

「えっ、今日ですか?! 」

「いや多分、明日だろうね…」

「どう言う事なのでしょう? 」

「食べながら話そう? 美味しいよ」

「はい…」

「本艦はこれから補給を受ける…」

「はい…」

「今やってくれていると思うけど、補給艦と連絡を執ってランデブー・ポイントとランデブー・プランを策定してそれに沿って操艦して行く…うん!  このロースト・ビーフは本当に絶品だね!  こんなに旨いのは食べた事が無いよ!  」

「はい…私もそう思います」

「補給艦とのランデブー・コースに乗る迄は、単艦での訓練を行いながらでも好いだろう…ああ、このグレイビー・ソースも薬味も最高だね…!  」

「はい…本当に美味しいですね」

「ここから先は僕の想像なんだけど、補給艦や工作作業艦の航跡を追尾している艦がいる筈だ。それも数隻から十数隻と言う単位だろうね」

「そんなに多くですか?  」

「そうだね。補給艦や工作作業艦の行き着く先は、補給や修理を必要としている艦だ。くっ付いて行けば労せずにして獲物を見付けられるって訳さ…」

「しかし、運営推進本部の艦を捲き込む事は…?  」

「そう…補給艦や工作作業艦を中心として半径第3戦闘距離は、絶対戦闘禁止宙域に指定されている。武器を起動させるだけで彼我の双方とも即時に参加資格が剥奪される。しかし、補給や修理が終わればいずれ艦は発進して離れる。第5戦闘距離ぐらいにまで離れた頃合いで、寄って集って袋叩きにしようって言うさもしい連中さ…うん、付け合わせのソーセージも野菜も茸も最高に旨いね。焼き加減も味付けも最高だ…おまけにこのヨークシャー・プディングの味わいの素晴らしさは…食べ終わったら終わりなのが勿体ないね、本当に…」

「それで、アドルさんはどうされるつもりなんですか? 」

「複数の艦に追尾されている、と言う前提で対処する。ランデブー・プランが決定した処でメイン・スタッフに集まって貰って説明するけど、補給艦が停止してランデブー・ポイントが確定したら、最終ランデブー・コースを航行中に光学迷彩を掛けたA3探査機を5機放出し、アポジモーター起動して所定の方位に向けて発進させる。これは戦闘行為ではなく、単なる探査行動だから問題は無い。そして補給を受けている間に探査機からデータログをダウンロードして、何隻の追尾艦が何処に隠れているのかを探り出す。それで補給を受けている間に脱出作戦を考えて決定する」

「上手く…いくと好いですね?  」

ハンナ・ウェアーも食べながら訊く。

「現状でこれ以上の策は無いと思うよ。対艦ミサイルも放出したい処だけど、それは戦闘行為と見做されるからね。大丈夫だよ。最大で10隻に取り囲まれて待ち伏せされても、隠れている場所さえ判っていれば脱出する自信はある。僕が選んだ君達は優秀だからね。だから今はしっかりと食べて、鋭気を養っておこう?  」

「分かりました」

「それと、乗艦している間、僕の事は艦長と呼んでくれ?  」

「分かりました。すみません。失礼しました」

「好いんだよ、ハンナ」

 それから20分ほどで2人とも食べ終わった。食後のコーヒーも絶品だ。

「このマンデリンも旨い。マエストロとコーヒーの話をしたのは1度だけだったけど、この1杯の素晴らしさは…10回淹れても、この味は出せないな…」

「私も本当に美味しいと思います。この後はどうされますか?  」

「少しゆっくりしてから控室に入るよ。君は最後の30分、参謀と交代して座るだろ?  今夜の夕食は副長と摂るんだけど、明日の夕食は君の部屋で一緒に摂ろう?  好いかな?  」

「はい、分かりました。お待ちしています」

「メニューは任せるよ?  」

「はい」

 コーヒーを飲み干すと、2人とも空いた食器を持って立ち上がり返却口に届けて、垣間見える厨房のスタッフ達に礼を言う。連れ立ってバーラウンジから出て、ターボ・リフトで個室のあるデッキへと向かう。ハンナの部屋の前での別れ際、彼女の腰を引寄せて軽くキスを交わした。お互いに独身なんだから、このくらいは別に撮られても好い。

 自室に入ると荷解きに取り掛かる。あと1時間くらいだから全部は出来ないだろうが、差し当たって必要な物だけでも出して整頓してみよう。各種の着替えと酒のボトルと煙草と灰皿、ギターケースを開けて中を点検する。楽譜のファイルも出してパラパラと観てみる。取り敢えず持って来た3冊のハードカバー。洗面や入浴で使う各種の日用品。それらを出して並べて整頓したら、一先ずは終わりだ。グラスにワンフィンガーだけモルトを注ぎ、部屋のエア・コンディションレベルを3つ上げてデスクに着くと、プレミアム・シガーを一本咥えて点ける。

 喫いながらチビチビと呑む。デスク上のPAD端末を引寄せると起動させ、GFネットワーク内で経験値を付与できるジャンル種別について検索する。すると機動力関連のカテゴリーの中に、足回りの操作性や即応性に関してのサブ・ルーチン項目を見付けた。そうか…じゃあ次回は、ここにも付与するとしよう。

 喫い終って飲み終わる。灰皿とグラスを洗って片付ける。歯を磨いて顔を洗う。今更寝る訳にもいかないから控室に入る事にする。3冊の内の1冊を手に取ると自室を出てターボリフトに乗り、ブリッジに向かう。

 入るとハル・ハートリー参謀が立ち上がったが、左手を挙げてそのままと制し、控室に入る。デスクに着いて本を置き、何気無く水槽を見遣る。ああ、何か容れようと思っていたけど、何が好いかなあ…。

 GF艦内専用携帯端末をデスクに置いて副長に繋ぐ。

「はい?  」

「昼食休憩時間が終ったら、メイン・スタッフは私の控室に集合。協議する」

「了解しました」

 それだけで終えた。デスクに着いたまま、まんじりともせずに過ごす。チャイムが鳴ったので眼を開いて顔を上げる。どうも転寝していたようだ。応答して入るように促す。ドアが開き、副長を初めとして続々と入室する。

「ああ、適当に飲み物も出して好いから座って下さい。先ずは副長から、ランデブー・プランについて報告を?  」

「はい、補給艦37N89D16と連絡を執り、協議してランデブー・ポイントを設定しました。それを前提としたアプローチ・インターセプトコース、最終ランデブーコースに於いても、パイロット・チームに伝達しました。ランデブー・ポイントに到着する迄は、2時間弱です」

「了解。ご苦労さん。次に補給支援部長、補給品目リストの送信は?  」

「はい、既に完了しました」

「ご苦労さん。では説明に入る。これは私の中ではほぼ確実な予想だ。補給艦を追尾している艦が複数いる。これはほぼ間違いない。彼等の目的は補給を終えて離脱した本艦を寄って集って袋叩きにする事だ。それに対抗するために、リーア・ミスタンテ機関部長?  」

「はい」

「補給艦に対しての最終ランデブー・アプローチに入ったら、A3探査機を5機、光学迷彩を掛けた上で放出。5つの方位に向け、アポジモーターを起動して発進させる。これは戦闘行為ではなく、単なる探査行動だから問題は無い。目的は補給艦を追尾している艦が何隻いて何処に隠れているのかを探り出すためだ。補給艦と本艦が停止したら彼等も停止するだろうから、その間に探査機からデータログをダウンロード。補給中に検討・協議して脱出作戦の骨子を決める。補給作業が中盤に入ったら、エマ・ラトナーメインパイロットには光学迷彩を掛けた非武装シャトルで出て貰い、周辺をパトロールして偵察して貰う。これも戦闘行為には当たらない。安全確認の為と言えば好い。君達の全能力を最大限に発揮して駆使して貰い、迅速に操作・操艦して貰えれば例え15隻に待ち伏せされていても必ず脱出できる。大丈夫だよ。心配には及ばない。何隻いるにしても統率の執れた艦隊ではないから、付け入る隙や付け込める隙は幾らでもあるだろうし、あまり観えないようなら作る事も出来るだろう。まあ突破する為の基本戦術は私が考えるから、任せて下さい。質問は?  」

 しわぶきひとつ聴こえない。やがてシエナが立ち上がって言った。

「アドル艦長に任せて従います。それだけです」

「分かった。ありがとう。では、総員第2警戒配置。ランデブー・コースの為のインターセプト・コースへ。速度はファースト・スピードで発進だ。解散!  」

「了解!  」
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