4 / 27
ファースト・シーズン
昼食・訓練プログラムへ
しおりを挟む
「経験値は取り敢えずダウンロードしておきます」
と、カリーナ・ソリンスキー。
「頼む。運営推進本部から補給についての返答が来ると思うから、悪いがセンサー・チームは交代で受信を担当してくれ。好いかな? 」
「分かりました。交代でここにいます」
「悪いが頼む。何かあったら呼んでくれ。それじゃ」
そう応えるとブリッジから出て自室に向かう。行き交うクルーと挨拶を交わしながら歩く。皆、ダメージは受けていないように観える。自分の個室に入ったが私物は当然、運び込まれた時のままで荷解きはしていない。
「コンピューター、エア・コンディショニング、レベル・スリーでスタート」
荷物の中から飲み掛けのグレン・フィデック20年もののボトルとウィスキーグラスを何とか取り出してデスクに置き、灰皿とライターと煙草も取り出してデスクに置く。
グラスにツーフィンガーでモルトを注いでから座り、1本を取り出して咥えると点ける。
ゲームフィールド内専用の携帯端末、ゲームフィールド・コミュニケーター(G F C)を取り出すとデスクに置いてハンナ・ウェアーに繋ぐ。
「どうも、お疲れさん。初日にいきなり戦闘をしてしまったけど、ストレスで参ってしまったようなクルーはいたかな? 」
「そこまでの状態になったクルーは、観受けられませんでした。勿論ストレスレベルはかなり上昇しましたが、後に曳いているようなクルーも観受けられませんでした」
「分かった、ありがとう。休憩中に悪かったね。休んでくれ。それじゃあまた」
「あの、お昼をご一緒させて頂いても宜しいでしょうか? 」
「好いよ。それじゃ、後でラウンジでね? 」
「はい」
通話を切り、次に副長に繋ぐ。
「やあ、今は大丈夫かい? 」
「大丈夫です。自室にいます」
「いきなり戦闘に巻き込まれたけど、どう思った? どう感じた? 」
「驚きも不安も感じましたが、怖いとは感じませんでした。艦長の指揮には驚きましたが、勉強になりました。もっとよく艦長の指揮ぶりを観たいと思いました」
「そうか。ありがとう。午後からは訓練に入るけれども、指揮は君に任せる。プログラムプランの通りに熟してくれれば好いよ。ただ時間短縮は心掛けてくれ。好いかな? 」
「分かりました。努めます」
「夕食は君の部屋で一緒に摂ろう。メニューは任せるよ。これも好いかな? 」
「分かりました。お待ちしています」
「じゃあ、宜しく」
「はい」
副長との通話も切り上げ、次にドクターと繋ぐ。
「失礼します、ドクター。最初の4日間は他艦と出遭わないだろうと言いましたが、初日に戦闘をしてしまいました。かなり艦を振り回しましたが、大丈夫でしたか? 」
「大丈夫だったよ。いや、お気遣いをありがとう、アドル艦長。しかし、初戦で2隻を相手にして無傷で勝利を収めるとは、艦長の指揮ぶりには驚いたよ。無傷だからケガ人も出なくて好かった」
「お褒めに与かり恐縮です。午後からは訓練プログラムに入りますが、指揮は副長に任せます。何か指示がありましたら、宜しくお願いします。運営推進本部に対して補給を申請しておりますので、受領する迄の間は他艦に遭遇しても離脱します」
「了解したよ。わざわざありがとう」
「どう致しまして。それではまた」
ドクターとの通話も終えた。話しながら呑んだり喫ったりしていたが、通話を終えるとそれらも終わった。
ネクタイを外してスーツを脱ぐ。休憩明けからはジャケットにしよう。スーツをハンガーに掛けてドレッサー・クローゼットの中に吊るす。
下着姿になって寝室に入り、アラーム・タイマーを2時間後にセットしてベッドに入る。眠くないつもりだったのだが、2分も経たない内に意識を失った。
アラーム・リンク6度目で覚醒した。思ったより深く眠っていたようだ。シャワーを浴びようか迷ったが、入念に顔を洗う事にした。荷解きが出来ていないので、部屋に備え付けられているドリンク・ディスペンサーにコーヒーを出させる。味はそんなに悪くない。シャツとパンツとジャケットを引っ張り出すのに、少々手間取った。コーヒーを飲みながら着換えを済ませる。艦長の襟章をスーツの上着から外して、ジャケットの襟に着ける。
デスクに着いて煙草を点ける。コーヒーを飲み干し、喫い終って揉み消して軽く歯を磨いて出た。
ブリッジに上がると、もう全員が来ていた。早いな。
「報告?! 」
訊きながらキャプテン・シートに座る。
「休憩時間終了10分前です。全艦異常ありません。運営推進本部から連絡があり、補給艦37N89D16との合流が指示されました。具体的な詳細は補給艦と協議せよ、との事です」
「そうか。副長、出来るだけデプリ密度の高い宙域での会合・ランデブー・プランを提示して、補給艦と協議してくれ? 補給支援部長は補給品項目を精査して確定し、補給艦に向けて送信」
「分かりました」
「頼む。よし、メイン・スタッフは全員、艦長控室に集合。協議する」
そう言って立ち上がると、私の控室に入ってデスクに着く。メイン・スタッフが全員入室する迄に1分程。
「飲み物は好きに出して、適当に座ってくれ。好いかな? 皆も承知していると思うが、いきなりチャレンジミッションに参加させられた。結果の判定はミッション・クリアと言う事で、800万の賞金授与と120%の経験値付与が決定している。経験値は既にダウンロードしている。初めに賞金についてだが、これについては私の決定事項を伝える。ハル・ハートリー参謀? 」
「はい」
「君の責任に於いて口座を開設し、賞金をプールして欲しい。そして以後、口座の管理は君に一任する。好いかな? 」
「分かりました。そのように行います」
「ありがとう。取り敢えず少なくともファースト・シーズンの間には、どのように賞金が入って来たとしてもこの口座にプールし続ける。使うつもりは無い。発表されたミッションをクリアする為に効果的・効率的と思われるオプション・パーツ、パワーアップ・パーツがあった場合には、その都度この会合を招集して協議する。何か提案は? 」
誰も口を開かなかった。
「よし。では次に経験値についての協議に移る。付与された120%の経験値をどのように割り振るかを決定したい。対象となる部門について具体的に言うと、攻撃部門では砲撃パワーの増強と、ミサイルの爆発力の増強。ミサイル積載本数の増大だ。防御力部門で言えばシールド・パワーの増強。そして機動力部門で言えばエンジンパワーの増強だ。具体的には5部門の付与先が挙げられるが、これらにどのように割り振るか、或いは幾つかをピックアップしてそこだけに割り振るのか。意見を頼む」
「砲撃力強化の中には、ハイパー・ヴァリアントも含まれますか? 」
エドナ・ラティスが訊いた。
「それは勿論、含まれる」
「まあ、まだ始まったばかりですし、これからどのように展開していくのかも分かりませんし、これからもチャレンジミッションはあるでしょうから、取り敢えず等分にアップして行ったら好いんじゃないでしょうか? 」
エマ・ラトナーだ。立ったまま腕を組んでいる。
「アンタが公平に分配しましょうなんて言うとはね。エンジンパワー一択だと思ってたけど? 」
エドナ・ラティスが座ってピーチジュースを飲みつつ、見上げながら言う。
「エンジンはリーアの担当だから、アタシが言ってもね。機動性や操作性の部門があるなら言うけど」
「そうか。つまり足回り性能の向上だな。あるかも知れないな。副長、後で検索して観てくれ? 」
「分かりました」
「正確に5部門で分配するなら、24%ずつだな。2%ぐらいずつ特定の部門にシフトしてわざと偏らせると言う手もある」
「砲撃力とエンジンパワーで30%ずつ。他の3部門で20%ずつの付与と言う事で、提案します」
ハル・ハートリーだ。紅茶を飲みながら言った。
「エマ、エンジンパワー30%アップとなると、振り回しがキツくならないか? 」
「そうですね。今でもまだ慣れていませんし…」
「パイロット・チーム3人で担当して貰うにしても、キツさに変わりは無いだろうしな…」
「砲撃力から5%をシールドパワーへ。エンジンパワーから5%をミサイルの爆発力に廻しましょう。今回は初回と言う事もあって、これで宜しいのでは? 」
リーア・ミスタンテがミルクティーのカップを置いて言う。
「砲撃力・シールドパワー・エンジンパワー・ミサイルの爆発力でそれぞれ25%ずつ。ミサイル積載本数の増強で20%。これで120%か。まあ、今回はこれで好いかな? どうだ? 」
誰も何も応えない。笑顔で私を観ている。
「よし! 今回はこれで決定しよう。カリーナ、そのように経験値付与を頼む」
「分かりました。直ぐに加えます」
「以上だ。もう昼飯時に近いから、少し前倒して今から昼食休憩時間に入ろう。30分毎の交代で半舷休息。120分だ。終わったら、プログラムプランに従って訓練に入る。訓練に入ったら、副長の指示に従ってくれ。悪いが副長は、補給艦との間にランデブープランを確定させてから休んでくれ。補給支援部長は補給品目のリストを送信してくれ。質問は? 」
誰も口を開かなかった。
「無ければ解散。ああ、シエナ。最初の30分は、ここにいるから好いよ。休んでくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「どう致しまして」
打ち合わせが終わって、全員が控室から出て行く。私はドリンク・ディスペンサーにコーヒーを出させて、キャプテン・シートに座った。
シエナとハルやエレーナもブリッジから出て行ったので、今副長のシートに座っているのは、ハンナ・ウェアーだ。
お互いに顔を観合わせて、微笑み合って凝視め合う。彼女とはこれまでに3回キスした。ハグしたり、抱き合ったりは数回。だが同じベッドで寝た事は、まだ無い。
左手を伸ばして、ハンナの右手を握りたい。だけどまだ始まったばかりだから、やめておこう。そのうちカメラを気にせず、手を握り合えるようになれるだろうか。
「ラウンジで食べる? 」
「そうですね。初勝利を祝って、ちょっと乾杯しましょう」
「OK」
顔を正面に向けると、キャプテン・シート前の固定端末を起動して、状況・状態を一通り観て把握した。
観終わって端末をシャットダウンさせた頃合いで、副長が戻って来る。
「もう30分かい? 」
「ええ、交代しましょう」
「補給艦とは? 」
「今から連絡を執ります」
「頼む」
ハンナと連れ立ってブリッジから出て行く。バーラウンジに入ると、先に来ていたクルー達が拍手と歓声で迎えてくれる。右手を挙げて応えながら、手近なテーブルに対面で座る。
「アドル艦長、お疲れ様でした。そして初勝利、おめでとうございます。バーラウンジを代表してこの1杯を進呈させて頂き、お祝い申し上げます。勿論この1杯は店の奢りです(笑)」
そう言いながらチーフ・リントハートが同じカクテルを2杯、私とハンナの前に置いて恭しく拝礼した。
「ありがとう、チーフ。ほう、こりゃ珍しい。『バノック・バーン』だ。お目に掛かるのは、これで2度目だよ。やはり香りが違うね。改めてありがとう、チーフ。漸く実感が湧いて来たよ。頂きます」
「頂きます。『バノック・バーン』ですか? 」
「うん、取り敢えず頂こう。初勝利を祝して、乾杯! 」
「乾杯! 初めて飲みましたが、美味しいですね! 」
「うん。『ブラッディー・メアリー』のベースとして使われているウォッカをスコッチ・ウィスキーに換えたものなんだね。昔にあった『バノック・バーンの戦い』に因んで創られたって話なんだけど、ここで蘊蓄を語るのも無粋ってものだから止めておくよ」
サポートバーテンダー兼ウェイトレスを務める、ラリーサ・ソリナ女史が注文を取りに来たので、2人してランチセットを頼もうとしたのだが、マエストロ・ラウレンティス料理長特製のスペシャルランチセットをご用意致しますので、暫くお待ち下さいと言われた。
「スペシャル・ランチセットだってさ」
「楽しみですね」
「なあ、ハンナ…午前中に戦ったあの2隻は、正直に言ってやりにくい相手じゃなかった。弱い訳じゃないよ。同じ軽巡だからね。弱いなんて言ったら失礼だろうしな。でも…負ける気はしなかった。それで、初めは間合いを読み違えもしたけど、何とかイメージともあまり違わない範囲内で勝てたと思う…んだけど、どう思う? ああ、マニュアルをちゃんと読んでいるのかな? とは思ったけどね」
「戦いに於けるアドルさんの才能は、ご自身でも気付いていないレベルと範囲で示されたと思います。マニュアルをいくら読み込んでいても、ロケット・アンカーをあのように使うと言う発想は、出ないでしょう。これからのアドルさんが新しい発想をどのように示されるのか、興味は尽きません」
ハンナがそう言った処で、待望のスペシャル・ランチセットが届けられた。
と、カリーナ・ソリンスキー。
「頼む。運営推進本部から補給についての返答が来ると思うから、悪いがセンサー・チームは交代で受信を担当してくれ。好いかな? 」
「分かりました。交代でここにいます」
「悪いが頼む。何かあったら呼んでくれ。それじゃ」
そう応えるとブリッジから出て自室に向かう。行き交うクルーと挨拶を交わしながら歩く。皆、ダメージは受けていないように観える。自分の個室に入ったが私物は当然、運び込まれた時のままで荷解きはしていない。
「コンピューター、エア・コンディショニング、レベル・スリーでスタート」
荷物の中から飲み掛けのグレン・フィデック20年もののボトルとウィスキーグラスを何とか取り出してデスクに置き、灰皿とライターと煙草も取り出してデスクに置く。
グラスにツーフィンガーでモルトを注いでから座り、1本を取り出して咥えると点ける。
ゲームフィールド内専用の携帯端末、ゲームフィールド・コミュニケーター(G F C)を取り出すとデスクに置いてハンナ・ウェアーに繋ぐ。
「どうも、お疲れさん。初日にいきなり戦闘をしてしまったけど、ストレスで参ってしまったようなクルーはいたかな? 」
「そこまでの状態になったクルーは、観受けられませんでした。勿論ストレスレベルはかなり上昇しましたが、後に曳いているようなクルーも観受けられませんでした」
「分かった、ありがとう。休憩中に悪かったね。休んでくれ。それじゃあまた」
「あの、お昼をご一緒させて頂いても宜しいでしょうか? 」
「好いよ。それじゃ、後でラウンジでね? 」
「はい」
通話を切り、次に副長に繋ぐ。
「やあ、今は大丈夫かい? 」
「大丈夫です。自室にいます」
「いきなり戦闘に巻き込まれたけど、どう思った? どう感じた? 」
「驚きも不安も感じましたが、怖いとは感じませんでした。艦長の指揮には驚きましたが、勉強になりました。もっとよく艦長の指揮ぶりを観たいと思いました」
「そうか。ありがとう。午後からは訓練に入るけれども、指揮は君に任せる。プログラムプランの通りに熟してくれれば好いよ。ただ時間短縮は心掛けてくれ。好いかな? 」
「分かりました。努めます」
「夕食は君の部屋で一緒に摂ろう。メニューは任せるよ。これも好いかな? 」
「分かりました。お待ちしています」
「じゃあ、宜しく」
「はい」
副長との通話も切り上げ、次にドクターと繋ぐ。
「失礼します、ドクター。最初の4日間は他艦と出遭わないだろうと言いましたが、初日に戦闘をしてしまいました。かなり艦を振り回しましたが、大丈夫でしたか? 」
「大丈夫だったよ。いや、お気遣いをありがとう、アドル艦長。しかし、初戦で2隻を相手にして無傷で勝利を収めるとは、艦長の指揮ぶりには驚いたよ。無傷だからケガ人も出なくて好かった」
「お褒めに与かり恐縮です。午後からは訓練プログラムに入りますが、指揮は副長に任せます。何か指示がありましたら、宜しくお願いします。運営推進本部に対して補給を申請しておりますので、受領する迄の間は他艦に遭遇しても離脱します」
「了解したよ。わざわざありがとう」
「どう致しまして。それではまた」
ドクターとの通話も終えた。話しながら呑んだり喫ったりしていたが、通話を終えるとそれらも終わった。
ネクタイを外してスーツを脱ぐ。休憩明けからはジャケットにしよう。スーツをハンガーに掛けてドレッサー・クローゼットの中に吊るす。
下着姿になって寝室に入り、アラーム・タイマーを2時間後にセットしてベッドに入る。眠くないつもりだったのだが、2分も経たない内に意識を失った。
アラーム・リンク6度目で覚醒した。思ったより深く眠っていたようだ。シャワーを浴びようか迷ったが、入念に顔を洗う事にした。荷解きが出来ていないので、部屋に備え付けられているドリンク・ディスペンサーにコーヒーを出させる。味はそんなに悪くない。シャツとパンツとジャケットを引っ張り出すのに、少々手間取った。コーヒーを飲みながら着換えを済ませる。艦長の襟章をスーツの上着から外して、ジャケットの襟に着ける。
デスクに着いて煙草を点ける。コーヒーを飲み干し、喫い終って揉み消して軽く歯を磨いて出た。
ブリッジに上がると、もう全員が来ていた。早いな。
「報告?! 」
訊きながらキャプテン・シートに座る。
「休憩時間終了10分前です。全艦異常ありません。運営推進本部から連絡があり、補給艦37N89D16との合流が指示されました。具体的な詳細は補給艦と協議せよ、との事です」
「そうか。副長、出来るだけデプリ密度の高い宙域での会合・ランデブー・プランを提示して、補給艦と協議してくれ? 補給支援部長は補給品項目を精査して確定し、補給艦に向けて送信」
「分かりました」
「頼む。よし、メイン・スタッフは全員、艦長控室に集合。協議する」
そう言って立ち上がると、私の控室に入ってデスクに着く。メイン・スタッフが全員入室する迄に1分程。
「飲み物は好きに出して、適当に座ってくれ。好いかな? 皆も承知していると思うが、いきなりチャレンジミッションに参加させられた。結果の判定はミッション・クリアと言う事で、800万の賞金授与と120%の経験値付与が決定している。経験値は既にダウンロードしている。初めに賞金についてだが、これについては私の決定事項を伝える。ハル・ハートリー参謀? 」
「はい」
「君の責任に於いて口座を開設し、賞金をプールして欲しい。そして以後、口座の管理は君に一任する。好いかな? 」
「分かりました。そのように行います」
「ありがとう。取り敢えず少なくともファースト・シーズンの間には、どのように賞金が入って来たとしてもこの口座にプールし続ける。使うつもりは無い。発表されたミッションをクリアする為に効果的・効率的と思われるオプション・パーツ、パワーアップ・パーツがあった場合には、その都度この会合を招集して協議する。何か提案は? 」
誰も口を開かなかった。
「よし。では次に経験値についての協議に移る。付与された120%の経験値をどのように割り振るかを決定したい。対象となる部門について具体的に言うと、攻撃部門では砲撃パワーの増強と、ミサイルの爆発力の増強。ミサイル積載本数の増大だ。防御力部門で言えばシールド・パワーの増強。そして機動力部門で言えばエンジンパワーの増強だ。具体的には5部門の付与先が挙げられるが、これらにどのように割り振るか、或いは幾つかをピックアップしてそこだけに割り振るのか。意見を頼む」
「砲撃力強化の中には、ハイパー・ヴァリアントも含まれますか? 」
エドナ・ラティスが訊いた。
「それは勿論、含まれる」
「まあ、まだ始まったばかりですし、これからどのように展開していくのかも分かりませんし、これからもチャレンジミッションはあるでしょうから、取り敢えず等分にアップして行ったら好いんじゃないでしょうか? 」
エマ・ラトナーだ。立ったまま腕を組んでいる。
「アンタが公平に分配しましょうなんて言うとはね。エンジンパワー一択だと思ってたけど? 」
エドナ・ラティスが座ってピーチジュースを飲みつつ、見上げながら言う。
「エンジンはリーアの担当だから、アタシが言ってもね。機動性や操作性の部門があるなら言うけど」
「そうか。つまり足回り性能の向上だな。あるかも知れないな。副長、後で検索して観てくれ? 」
「分かりました」
「正確に5部門で分配するなら、24%ずつだな。2%ぐらいずつ特定の部門にシフトしてわざと偏らせると言う手もある」
「砲撃力とエンジンパワーで30%ずつ。他の3部門で20%ずつの付与と言う事で、提案します」
ハル・ハートリーだ。紅茶を飲みながら言った。
「エマ、エンジンパワー30%アップとなると、振り回しがキツくならないか? 」
「そうですね。今でもまだ慣れていませんし…」
「パイロット・チーム3人で担当して貰うにしても、キツさに変わりは無いだろうしな…」
「砲撃力から5%をシールドパワーへ。エンジンパワーから5%をミサイルの爆発力に廻しましょう。今回は初回と言う事もあって、これで宜しいのでは? 」
リーア・ミスタンテがミルクティーのカップを置いて言う。
「砲撃力・シールドパワー・エンジンパワー・ミサイルの爆発力でそれぞれ25%ずつ。ミサイル積載本数の増強で20%。これで120%か。まあ、今回はこれで好いかな? どうだ? 」
誰も何も応えない。笑顔で私を観ている。
「よし! 今回はこれで決定しよう。カリーナ、そのように経験値付与を頼む」
「分かりました。直ぐに加えます」
「以上だ。もう昼飯時に近いから、少し前倒して今から昼食休憩時間に入ろう。30分毎の交代で半舷休息。120分だ。終わったら、プログラムプランに従って訓練に入る。訓練に入ったら、副長の指示に従ってくれ。悪いが副長は、補給艦との間にランデブープランを確定させてから休んでくれ。補給支援部長は補給品目のリストを送信してくれ。質問は? 」
誰も口を開かなかった。
「無ければ解散。ああ、シエナ。最初の30分は、ここにいるから好いよ。休んでくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
「どう致しまして」
打ち合わせが終わって、全員が控室から出て行く。私はドリンク・ディスペンサーにコーヒーを出させて、キャプテン・シートに座った。
シエナとハルやエレーナもブリッジから出て行ったので、今副長のシートに座っているのは、ハンナ・ウェアーだ。
お互いに顔を観合わせて、微笑み合って凝視め合う。彼女とはこれまでに3回キスした。ハグしたり、抱き合ったりは数回。だが同じベッドで寝た事は、まだ無い。
左手を伸ばして、ハンナの右手を握りたい。だけどまだ始まったばかりだから、やめておこう。そのうちカメラを気にせず、手を握り合えるようになれるだろうか。
「ラウンジで食べる? 」
「そうですね。初勝利を祝って、ちょっと乾杯しましょう」
「OK」
顔を正面に向けると、キャプテン・シート前の固定端末を起動して、状況・状態を一通り観て把握した。
観終わって端末をシャットダウンさせた頃合いで、副長が戻って来る。
「もう30分かい? 」
「ええ、交代しましょう」
「補給艦とは? 」
「今から連絡を執ります」
「頼む」
ハンナと連れ立ってブリッジから出て行く。バーラウンジに入ると、先に来ていたクルー達が拍手と歓声で迎えてくれる。右手を挙げて応えながら、手近なテーブルに対面で座る。
「アドル艦長、お疲れ様でした。そして初勝利、おめでとうございます。バーラウンジを代表してこの1杯を進呈させて頂き、お祝い申し上げます。勿論この1杯は店の奢りです(笑)」
そう言いながらチーフ・リントハートが同じカクテルを2杯、私とハンナの前に置いて恭しく拝礼した。
「ありがとう、チーフ。ほう、こりゃ珍しい。『バノック・バーン』だ。お目に掛かるのは、これで2度目だよ。やはり香りが違うね。改めてありがとう、チーフ。漸く実感が湧いて来たよ。頂きます」
「頂きます。『バノック・バーン』ですか? 」
「うん、取り敢えず頂こう。初勝利を祝して、乾杯! 」
「乾杯! 初めて飲みましたが、美味しいですね! 」
「うん。『ブラッディー・メアリー』のベースとして使われているウォッカをスコッチ・ウィスキーに換えたものなんだね。昔にあった『バノック・バーンの戦い』に因んで創られたって話なんだけど、ここで蘊蓄を語るのも無粋ってものだから止めておくよ」
サポートバーテンダー兼ウェイトレスを務める、ラリーサ・ソリナ女史が注文を取りに来たので、2人してランチセットを頼もうとしたのだが、マエストロ・ラウレンティス料理長特製のスペシャルランチセットをご用意致しますので、暫くお待ち下さいと言われた。
「スペシャル・ランチセットだってさ」
「楽しみですね」
「なあ、ハンナ…午前中に戦ったあの2隻は、正直に言ってやりにくい相手じゃなかった。弱い訳じゃないよ。同じ軽巡だからね。弱いなんて言ったら失礼だろうしな。でも…負ける気はしなかった。それで、初めは間合いを読み違えもしたけど、何とかイメージともあまり違わない範囲内で勝てたと思う…んだけど、どう思う? ああ、マニュアルをちゃんと読んでいるのかな? とは思ったけどね」
「戦いに於けるアドルさんの才能は、ご自身でも気付いていないレベルと範囲で示されたと思います。マニュアルをいくら読み込んでいても、ロケット・アンカーをあのように使うと言う発想は、出ないでしょう。これからのアドルさんが新しい発想をどのように示されるのか、興味は尽きません」
ハンナがそう言った処で、待望のスペシャル・ランチセットが届けられた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
『星屑の狭間で』(対話・交流・対戦編)
トーマス・ライカー
SF
国際総合商社サラリーマンのアドル・エルクは、ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』の一部として、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』に於ける、軽巡宙艦艦長役としての出演者募集に応募して、凄まじい倍率を突破して当選した。
艦長役としての出演者男女20名のひとりとして選ばれた彼はそれ以降、様々な艦長と出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦う事にもなっていく。
本作では、アドル・エルク氏を含む様々な艦長がどのように出会い、知り合い、対話し交流もしながら、時として戦い合いもしながら、その関係と関係性がどのように変遷していくのかを追って描く、スピンオフ・オムニバス・シリーズです。
『特別解説…1…』
この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。
まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』
追記
以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。
ご了承下さい。
インパルス・パワードライブ
パッシブセンサー
アクティブセンサー
光学迷彩
アンチ・センサージェル
ミラージュ・コロイド
ディフレクター・シールド
フォース・フィールド
では、これより物語が始まります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる