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ファースト・シーズン
…初出航…
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…2/28(土)、AM9:45…
ついにこの日が来た。やっとこの時が来た。やっとここまで来たな。
やったぜ! ついにここまで来たぜ!
当選通知を受けたのは、今から90日前だった…俺は何かの架空請求かと思い、次に自分の目を疑い、最後に喜びを爆発させた。
歓喜の雄叫びをワンルームの中で解き放った俺は、防音レベルを8にしていて良かったと心底から思った。
俺がこのゲームを気に入って応募したのは、ウォー・ゲームではなくて基本的にバトル・ゲームと言う触れ込みだったからだ。
ウォー・ゲームでは参加者が所属する国やら団体やら勢力と言うものが、最初から設定に組み込まれている。
その所属先の中での振る舞いにも気を付けなければならないのが面倒臭いので、ウォー・ゲームは敬遠していた。
このゲームの運営推進本部は勿論、配信会社と配信番組は予告に於いても、当選した20人の艦長については、一切公表しなかった。
お陰で俺は誰にも知られず、騒がれずに準備を進める事ができた。
だがリアル・ライヴ・バラエティの初回が配信されれば、会社にも知られて事情を訊かれる事になるだろうが、労務規定に違反するような事は何もやっていないから、何を訊かれてもどうって事はない。
キャプテン・シートでにんまりとほくそ笑みながら、脚を組み替える。
と、右手で顔を撫でて真面目な表情に戻した。
「…アドル艦長、艦内オールセクションのプレ・フライト・ダブルチェックを完了しました。『ディファイアント』発進準備完了です…」
副長のシエナ・ミュラーが歩み寄りながら言う。俺よりふたつ年下の34才だが、かなりの童顔だ。
言わなければ、27才でも通る。
髪はラベンダー・パープルのフェミニン・セミディ。
眼の虹彩の色はライト・グリーンで、かなり珍しい。
初顔合わせの時と同じ、ライト・ピンクのルージュを挽いている。艶かしい。
「…よーし、行こう。推進本部に発進準備完了、出航許可を乞うと送信。出航許諾コードが来るから、メインゲート・コントロールに、そのまま送信…」
「了解…送信完了…運営推進本部から許諾コードが付与されました。そのままメインゲート・コントロールへと送信します…回線が繋がりました! 映像と音声でこちらに呼び掛けています! 」
メイン・センサー・オペレーターの、カリーナ・ソリンスキー。26才だが、この娘も童顔だ。20才で通る。
髪はオリーブ・ベージュのロング・ボブで、すごく細い。振り向く度にフワッと拡がる。そして肌が素晴らしく白い。
「…回線を同期。メインビューワへ…」
メインビューワが点灯し、ウチの課長を少し柔和にしたような男性が映し出された。
「…こちらはメインゲート・コントロール。貴艦の艦籍番号と艦種と艦名、艦長の姓名とアクセス承認コードを口頭にて申告されたい…」
「…062363、軽巡宙艦『ディファイアント』、私が艦長のアドル・エルクです。アクセス承認コード・αC2ΘX9…」
ついに撮影されている中で『ディファイアント』と告げた…『Defiant』(公然と反抗する)と言う意味の言葉を艦名にしたんだが、自分でもこの名はすごく気に入っている。
「…確認しました。出航申請を承認し、許可します。日曜日の午後11時迄に入港するように。健闘を祈ります。以上…」
それだけで、映像通話は途切れた。
「…艦長! メインゲートが開き始めます! 」
スターベース・メインゲートが開いていく…ヴァーチャル・リアリティなのだが、重々しく観えている。
カリーナ・ソリンスキーが、そう告げる。
「…副長、発進シークエンス、開始」
「…了解、補助パワーをサブエンジンとリンク! 」
「…了解、補助パワー、サブエンジンとリンクしてパワー伝達! 」
リーア・ミスタンテ機関部長。32才。髪はホワイト・ブルーに染め上げられた、ナチュラル・ロウカールミディだ。
「…サブエンジン始動! 」
「…サブエンジン始動。定格起動。臨界パワー30%から上昇…」
「…艦内全システムにパワー伝達して供給開始…」
「…パワー供給レベル、レッドからオレンジへ…」
「…生命維持システム、医療装備、システム起動…」
「…臨界パワー50%…」
「…メインコンピューター起動、全センサーシステム、測定・分析システム起動…」
「…供給レベル、オレンジからイエローへ…」
「…全兵装システム起動。ディフレクターグリッド起動。シールドジェネレーター起動。環境管理システム起動…」
「外部接続コンジット、離断用意」
「了解」
「メインエンジン始動準備」
「了解。メインエンジン・スターターホイール起動」
「メインエンジン・スターターシステム確認」
「確認好し。異常無し」
「サブエンジン臨界パワー80%」
「パワー供給レベル、イエローからグリーンへ…」
「外部接続コンジット、レベル5から3迄を離断」
「スターターホイール回転加速」
「了解、加速50%」
「タラップ収納、ハッチ閉鎖。艦内非常隔壁全閉鎖」
「サブエンジン臨界パワー90%」
「パワー供給レベル、グリーンからブルーへ…」
「外部接続コンジット、レベル2を離断」
「スターターホイール回転加速80%」
「サブエンジン臨界パワー100%」
「パワー供給レベル、ブルーからスカイブルーへ…安定供給領域に到達」
「スターターホイール回転加速120%」
「外部接続コンジット、レベル1を離断」
「メインエンジン、始動準備好し! 」
「スターターホイール、最大出力でメインエンジンにパワー伝達! 」
「パワー伝達! 始動!! …… メインエンジン始動成功! 定格起動、臨界パワー20%。徐々に上昇」
「外部接続全コンジットの離断を確認。サブエンジン、臨界パワー120%、噴射出力40%、推力30%、メインエンジン臨界パワー40%、噴射出力30%、推力20%、ガントリー・ロック解除! 」
艦体が僅かに揺れる。この『ディファイアント』は、総てが撮影セットだ。揺れまで再現するとはな。
「磁力接着解除。面舵1°、離岸します! 『ディファイアント』発進! 」
エマ・ラトナーが宣した。
メイン・パイロットのエマ・ラトナー。26才。髪はカーマイン・レッドのカジュアル・ショートマニッシュ。
ブリッジ正面のメインビューワの中で、周囲の景色が後方に流れ始める。
「全センサー・システムを起動、パッシブ・スイープを開始。赤外線監視モニターと磁気センサーも起動」
ゲーム内で艦船が使用するセンサーシステムには、パッシブセンサーとアクティブセンサーがある。
前者は、ゲームフィールド内総てのエネルギー反応を、艦船の稼働エンジンが発するエネルギー反応も含めてそのまま感知する。
後者は艦が積極強制的にスキャン探査搬送波を発して、周囲をスキャン・スイープし、反射搬送波からのデータを読み取る。
これらについての具体的な技術原理は『ゲーム内技術原理設定』として、ブラックボックスとなっている。
「出航完了まで40秒! 」
右隣に座る、ハル・ハートリー参謀が宣した。33才。髪は暗褐色のフラッフィボブ。子供2人のシングル・マザー。彼女は12日前に協議離婚した。
初出航で、やろうと決めていたひとつ目だ。
「コンピューター! ライブラリー・データベースにアクセス」
【アクセス】
「連続配信ドラマ、『宇宙探査艦ランドール7』のメインテーマをフルスコアで流せ! 」
【ボリュームは? 】
「7」
軽快な面もあり重厚な面もある、希望と楽観と緊張と躍動と期待を感じさせる、壮大な旅立ちのテーマが響き渡る。
「このドラマ、長く続きましたね。第8シーズンまででしたか。好きなんですか? 」
訊いたのは、副長の左隣に座るカウンセラー、ハンナ・ウェアー。27才。髪はオレンジ・ブロンドのナチュラル・ロングストレート。女優だが、注目されている若手の心理学者でもある。そして勿論、俺好みの美人だ。
「うん、好きだね。総てダウンロードしてあるよ」
「フォース・シーズンに出演しました。ゲストでしたが」
副長が応える。
「憶えてるよ。格好良い役だったね。切なくて、好い話だった」
「実は私、副長としてのオファーを頂いていたんです。でも、役のイメージが定着するのは良くない、と言う助言を貰って、辞退しました。今考えれば、受けていれば良かったと思います」
「それは惜しかったね…でも今は立派に副長だから、好いじゃないか」
実は知っている話だったんだが、おくびにも出さずに応えた。
「ありがとうございます」
「その助言をしたのは、私でした。すみません」
カウンセラーが少し申し訳なさそうに言う。
「そうだったんだ…女優としては自然な捉え方だと思うよ。気にしてないから、気にしなくていい」
この話も知っていたんだが、素知らぬ風を装った。
「ありがとうございます」
「メインゲートから出ます! 」
メインパイロットのエマ・ラトナー。
「センサー! オールレンジでパッシブスイープ! 感知したら直ちにエンジン停止! 」
このゲーム・フィールドでのセンサーは、パッシブ・センサー・スキャンとして外部の様々なエネルギー反応も含めて、他艦のエンジン・パワーサインも感知できる。
次にアクティブ・センサー・スキャンとして、艦から探査搬送波を放射して対象物をスキャンし、反射搬送波を受信して対象物の様々な状態を読み取れる。
『ディファイアント』がメインゲートから虚空に滑り出す。艦の全体が出てからゲートは小さくなり、閉じて消えた。
塗り直させたシルバー・ホワイトの艦体を、できるなら外から観てみたいと思った。
「『ディファイアント』出航完了! 」
「よし、ゲームフィールドデータをアップデート。現在位置を確認」
「了解…ゲームフィールドは38のクアドラント、ひとつのクアドラントは50のグリッド、ひとつのグリッドは80のベクター、ひとつのベクターは120のセクター、ひとつのセクターの広さは、太陽系の10倍程度です」
了解だ…やはり予想通りの広さだな。これ程の広さの中で、出航ポイントをランダムに設定されたのなら、まず他艦とは出遭わない。今週と来週の4日間、上手くすれば単艦での訓練プログラムに集中できるだろう…センサー対物スキャン、比較的にデプリ密度の高い宙域を把握して、最寄りの宙域に針路を採ってくれ」
「了解…コースセット、357マーク208、ファーストスピードで発進! 」
よし、ここでやろうと決めていたふたつ目だ。
「コンピューター! 艦内オール・コネクト・コミュケーション」
【コネクト】
「続けて再びライブラリー・データベースにアクセス」
【アクセス】
「グループ名『リアン・ビッシュ』、楽曲名『ARIA』、ボリューム7で再生スタンバイ」
【スタンバイ】
「続けて再生プロセスをコミュケーションアレイとリンク、全ゲームフィールドに向けて、通常音声発信用意」
【コンプリート】
「ブリッジから全乗員へ、こちらは艦長だ。これより『ディファイアント』としての名乗りを挙げる。どこで誰が聴いているか、判らんがね…スタート」
切々として物悲しいが力強さも感じさせる『アリア』が、『リアン・ビッシュ』4人での素晴らしいハーモニー・コーラスとして艦の内外に響き渡る。
『リアン・ビッシュ』は4人ともクルーとして俺が選抜して、『ディファイアント』に乗り組んでいる。だからこの楽曲を選んだ、と言う事でもある。
今は4人とも所定の席に着いて自分達の楽曲を聴いているのだが、眼を瞠り口を両手で押さえて、その眼に涙を溜めている。
4人の内の2人(サラ・ペイリン22才とイリナ・スタム22才)が、医療部付き支援スタッフとして席に着き、声を殺して泣いているのを医療部長のアーレン・ダール博士が見遣った。
(アドル艦長って見た目は、普通+イケメンポイント5って処なんだけど、何でこんなにクルーからモテるんだ? こう言う粋な事がサラっと出来るって以外にも、必ず何かがあるはずだな)
『ARIA』は切々と歌い上げられ、深い余韻を挽いてフェイドアウトした。
「よし、目的地までの所要時間は? 」
「約20分です。あ? 艦長、センサーに何か…」
「エンジン停止! 光学迷彩展開! アポジモーターで取舵2°! 」
それだけ指示して、薮睨みでメインビューワーを見遣る。
「艦長? 」
「艦なんだな? 」
「はい。パワーサインとしては、軽巡です」
「そりゃ、そうだろう。重巡だったらもうめちゃくちゃに砲撃されているか、ミサイル・シャワーを広角で撃ち込まれている」
「どうしましょうか? 」
と、エマ・ラトナー。
「皆、そのままで聴いてくれ。判っている事を言う。このゲームフィールドの広さで、こんなにも早く他艦を感知したと言う事は、少なくとも本艦の出航ポイントは、ランダム設定でなかった。推進本部の意図は、本艦を試すのか鍛えるのかのどちらかだろう。沈めるつもりでやっているのだとしたら、本艦を舐めていると言う事だ。艦長より全乗員へ。これより本艦は、予定を前倒しして実戦訓練に入る! コンピューター、ロストする前の彼我の位置、コース、速度を加味して3D投影! 」
【コンプリート】
ブリッジ中央部の空間に3Dチャートが投影される。数秒眺めて息を吐くと、軽く首を振る。
「何にしても、まだ距離が遠い。この距離ならアポジモーターを使われても、パワーサインを感知できない。と、なれば…艦首ミサイル発射管6番に、アクティブ・パワースキャンをプログラムしたデコイを装填して発射スタンバイ。誘導コースはこれを入力してくれ」
そう言ってキャプテンシート前のタッチパネルで誘導コースを入力し、左舷のミサイル・オペレーター、リサ・カントに送った。
「次にエマ・ラトナー。デコイを発射したら、方位268マーク109に大きい岩塊が観えるな? それの右側面に照準を付けて、ロケットアンカー1番2番を発射して撃ち込み、直ちにアンカーを巻き上げてくれ。本艦はこの方法でエンジンを使わずに変針・操艦し、岩塊デプリを廻り込んで、相手艦に気付かせずに接近する。そして頃合いを測り、デコイのアクティブ・パワースキャンで相手艦の位置を確認。直後にデコイを起爆させ、同時にエンジン始動して全速発進。デコイ爆発のエネルギー反応が相手艦のセンサーレンジを撹乱している間に追跡コースを採って相手艦の後方から接近。爆発余波によるセンサーレンジの撹乱が治まるまでの間に、射程距離内に侵入して先制攻撃を掛ける。エドナ・ラティス砲術長、主砲全力斉射8連をセット。ターゲットスキャナーの絞り込みを頼む。よし。デコイ発射30秒前! デコイプログラム確認! 総員第1戦闘配置! 右舷艦首ロケットアンカー照準! 」
ゲームフィールド内は岩塊デプリが多いので、レーダーサイトでは敵艦を判別できない。
艦船がエンジンが稼働させれば、発するエネルギー反応(パワーサイン)をパッシブセンサーが感知して位置を特定できる。
自艦の近傍でより大きい爆発を起こせば、そのエネルギー反応が敵艦のセンサーレンジを撹乱して、自艦のエンジンが発するエネルギー反応を紛れさせて、判別できなくさせられる。
ついにこの日が来た。やっとこの時が来た。やっとここまで来たな。
やったぜ! ついにここまで来たぜ!
当選通知を受けたのは、今から90日前だった…俺は何かの架空請求かと思い、次に自分の目を疑い、最後に喜びを爆発させた。
歓喜の雄叫びをワンルームの中で解き放った俺は、防音レベルを8にしていて良かったと心底から思った。
俺がこのゲームを気に入って応募したのは、ウォー・ゲームではなくて基本的にバトル・ゲームと言う触れ込みだったからだ。
ウォー・ゲームでは参加者が所属する国やら団体やら勢力と言うものが、最初から設定に組み込まれている。
その所属先の中での振る舞いにも気を付けなければならないのが面倒臭いので、ウォー・ゲームは敬遠していた。
このゲームの運営推進本部は勿論、配信会社と配信番組は予告に於いても、当選した20人の艦長については、一切公表しなかった。
お陰で俺は誰にも知られず、騒がれずに準備を進める事ができた。
だがリアル・ライヴ・バラエティの初回が配信されれば、会社にも知られて事情を訊かれる事になるだろうが、労務規定に違反するような事は何もやっていないから、何を訊かれてもどうって事はない。
キャプテン・シートでにんまりとほくそ笑みながら、脚を組み替える。
と、右手で顔を撫でて真面目な表情に戻した。
「…アドル艦長、艦内オールセクションのプレ・フライト・ダブルチェックを完了しました。『ディファイアント』発進準備完了です…」
副長のシエナ・ミュラーが歩み寄りながら言う。俺よりふたつ年下の34才だが、かなりの童顔だ。
言わなければ、27才でも通る。
髪はラベンダー・パープルのフェミニン・セミディ。
眼の虹彩の色はライト・グリーンで、かなり珍しい。
初顔合わせの時と同じ、ライト・ピンクのルージュを挽いている。艶かしい。
「…よーし、行こう。推進本部に発進準備完了、出航許可を乞うと送信。出航許諾コードが来るから、メインゲート・コントロールに、そのまま送信…」
「了解…送信完了…運営推進本部から許諾コードが付与されました。そのままメインゲート・コントロールへと送信します…回線が繋がりました! 映像と音声でこちらに呼び掛けています! 」
メイン・センサー・オペレーターの、カリーナ・ソリンスキー。26才だが、この娘も童顔だ。20才で通る。
髪はオリーブ・ベージュのロング・ボブで、すごく細い。振り向く度にフワッと拡がる。そして肌が素晴らしく白い。
「…回線を同期。メインビューワへ…」
メインビューワが点灯し、ウチの課長を少し柔和にしたような男性が映し出された。
「…こちらはメインゲート・コントロール。貴艦の艦籍番号と艦種と艦名、艦長の姓名とアクセス承認コードを口頭にて申告されたい…」
「…062363、軽巡宙艦『ディファイアント』、私が艦長のアドル・エルクです。アクセス承認コード・αC2ΘX9…」
ついに撮影されている中で『ディファイアント』と告げた…『Defiant』(公然と反抗する)と言う意味の言葉を艦名にしたんだが、自分でもこの名はすごく気に入っている。
「…確認しました。出航申請を承認し、許可します。日曜日の午後11時迄に入港するように。健闘を祈ります。以上…」
それだけで、映像通話は途切れた。
「…艦長! メインゲートが開き始めます! 」
スターベース・メインゲートが開いていく…ヴァーチャル・リアリティなのだが、重々しく観えている。
カリーナ・ソリンスキーが、そう告げる。
「…副長、発進シークエンス、開始」
「…了解、補助パワーをサブエンジンとリンク! 」
「…了解、補助パワー、サブエンジンとリンクしてパワー伝達! 」
リーア・ミスタンテ機関部長。32才。髪はホワイト・ブルーに染め上げられた、ナチュラル・ロウカールミディだ。
「…サブエンジン始動! 」
「…サブエンジン始動。定格起動。臨界パワー30%から上昇…」
「…艦内全システムにパワー伝達して供給開始…」
「…パワー供給レベル、レッドからオレンジへ…」
「…生命維持システム、医療装備、システム起動…」
「…臨界パワー50%…」
「…メインコンピューター起動、全センサーシステム、測定・分析システム起動…」
「…供給レベル、オレンジからイエローへ…」
「…全兵装システム起動。ディフレクターグリッド起動。シールドジェネレーター起動。環境管理システム起動…」
「外部接続コンジット、離断用意」
「了解」
「メインエンジン始動準備」
「了解。メインエンジン・スターターホイール起動」
「メインエンジン・スターターシステム確認」
「確認好し。異常無し」
「サブエンジン臨界パワー80%」
「パワー供給レベル、イエローからグリーンへ…」
「外部接続コンジット、レベル5から3迄を離断」
「スターターホイール回転加速」
「了解、加速50%」
「タラップ収納、ハッチ閉鎖。艦内非常隔壁全閉鎖」
「サブエンジン臨界パワー90%」
「パワー供給レベル、グリーンからブルーへ…」
「外部接続コンジット、レベル2を離断」
「スターターホイール回転加速80%」
「サブエンジン臨界パワー100%」
「パワー供給レベル、ブルーからスカイブルーへ…安定供給領域に到達」
「スターターホイール回転加速120%」
「外部接続コンジット、レベル1を離断」
「メインエンジン、始動準備好し! 」
「スターターホイール、最大出力でメインエンジンにパワー伝達! 」
「パワー伝達! 始動!! …… メインエンジン始動成功! 定格起動、臨界パワー20%。徐々に上昇」
「外部接続全コンジットの離断を確認。サブエンジン、臨界パワー120%、噴射出力40%、推力30%、メインエンジン臨界パワー40%、噴射出力30%、推力20%、ガントリー・ロック解除! 」
艦体が僅かに揺れる。この『ディファイアント』は、総てが撮影セットだ。揺れまで再現するとはな。
「磁力接着解除。面舵1°、離岸します! 『ディファイアント』発進! 」
エマ・ラトナーが宣した。
メイン・パイロットのエマ・ラトナー。26才。髪はカーマイン・レッドのカジュアル・ショートマニッシュ。
ブリッジ正面のメインビューワの中で、周囲の景色が後方に流れ始める。
「全センサー・システムを起動、パッシブ・スイープを開始。赤外線監視モニターと磁気センサーも起動」
ゲーム内で艦船が使用するセンサーシステムには、パッシブセンサーとアクティブセンサーがある。
前者は、ゲームフィールド内総てのエネルギー反応を、艦船の稼働エンジンが発するエネルギー反応も含めてそのまま感知する。
後者は艦が積極強制的にスキャン探査搬送波を発して、周囲をスキャン・スイープし、反射搬送波からのデータを読み取る。
これらについての具体的な技術原理は『ゲーム内技術原理設定』として、ブラックボックスとなっている。
「出航完了まで40秒! 」
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初出航で、やろうと決めていたひとつ目だ。
「コンピューター! ライブラリー・データベースにアクセス」
【アクセス】
「連続配信ドラマ、『宇宙探査艦ランドール7』のメインテーマをフルスコアで流せ! 」
【ボリュームは? 】
「7」
軽快な面もあり重厚な面もある、希望と楽観と緊張と躍動と期待を感じさせる、壮大な旅立ちのテーマが響き渡る。
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訊いたのは、副長の左隣に座るカウンセラー、ハンナ・ウェアー。27才。髪はオレンジ・ブロンドのナチュラル・ロングストレート。女優だが、注目されている若手の心理学者でもある。そして勿論、俺好みの美人だ。
「うん、好きだね。総てダウンロードしてあるよ」
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「それは惜しかったね…でも今は立派に副長だから、好いじゃないか」
実は知っている話だったんだが、おくびにも出さずに応えた。
「ありがとうございます」
「その助言をしたのは、私でした。すみません」
カウンセラーが少し申し訳なさそうに言う。
「そうだったんだ…女優としては自然な捉え方だと思うよ。気にしてないから、気にしなくていい」
この話も知っていたんだが、素知らぬ風を装った。
「ありがとうございます」
「メインゲートから出ます! 」
メインパイロットのエマ・ラトナー。
「センサー! オールレンジでパッシブスイープ! 感知したら直ちにエンジン停止! 」
このゲーム・フィールドでのセンサーは、パッシブ・センサー・スキャンとして外部の様々なエネルギー反応も含めて、他艦のエンジン・パワーサインも感知できる。
次にアクティブ・センサー・スキャンとして、艦から探査搬送波を放射して対象物をスキャンし、反射搬送波を受信して対象物の様々な状態を読み取れる。
『ディファイアント』がメインゲートから虚空に滑り出す。艦の全体が出てからゲートは小さくなり、閉じて消えた。
塗り直させたシルバー・ホワイトの艦体を、できるなら外から観てみたいと思った。
「『ディファイアント』出航完了! 」
「よし、ゲームフィールドデータをアップデート。現在位置を確認」
「了解…ゲームフィールドは38のクアドラント、ひとつのクアドラントは50のグリッド、ひとつのグリッドは80のベクター、ひとつのベクターは120のセクター、ひとつのセクターの広さは、太陽系の10倍程度です」
了解だ…やはり予想通りの広さだな。これ程の広さの中で、出航ポイントをランダムに設定されたのなら、まず他艦とは出遭わない。今週と来週の4日間、上手くすれば単艦での訓練プログラムに集中できるだろう…センサー対物スキャン、比較的にデプリ密度の高い宙域を把握して、最寄りの宙域に針路を採ってくれ」
「了解…コースセット、357マーク208、ファーストスピードで発進! 」
よし、ここでやろうと決めていたふたつ目だ。
「コンピューター! 艦内オール・コネクト・コミュケーション」
【コネクト】
「続けて再びライブラリー・データベースにアクセス」
【アクセス】
「グループ名『リアン・ビッシュ』、楽曲名『ARIA』、ボリューム7で再生スタンバイ」
【スタンバイ】
「続けて再生プロセスをコミュケーションアレイとリンク、全ゲームフィールドに向けて、通常音声発信用意」
【コンプリート】
「ブリッジから全乗員へ、こちらは艦長だ。これより『ディファイアント』としての名乗りを挙げる。どこで誰が聴いているか、判らんがね…スタート」
切々として物悲しいが力強さも感じさせる『アリア』が、『リアン・ビッシュ』4人での素晴らしいハーモニー・コーラスとして艦の内外に響き渡る。
『リアン・ビッシュ』は4人ともクルーとして俺が選抜して、『ディファイアント』に乗り組んでいる。だからこの楽曲を選んだ、と言う事でもある。
今は4人とも所定の席に着いて自分達の楽曲を聴いているのだが、眼を瞠り口を両手で押さえて、その眼に涙を溜めている。
4人の内の2人(サラ・ペイリン22才とイリナ・スタム22才)が、医療部付き支援スタッフとして席に着き、声を殺して泣いているのを医療部長のアーレン・ダール博士が見遣った。
(アドル艦長って見た目は、普通+イケメンポイント5って処なんだけど、何でこんなにクルーからモテるんだ? こう言う粋な事がサラっと出来るって以外にも、必ず何かがあるはずだな)
『ARIA』は切々と歌い上げられ、深い余韻を挽いてフェイドアウトした。
「よし、目的地までの所要時間は? 」
「約20分です。あ? 艦長、センサーに何か…」
「エンジン停止! 光学迷彩展開! アポジモーターで取舵2°! 」
それだけ指示して、薮睨みでメインビューワーを見遣る。
「艦長? 」
「艦なんだな? 」
「はい。パワーサインとしては、軽巡です」
「そりゃ、そうだろう。重巡だったらもうめちゃくちゃに砲撃されているか、ミサイル・シャワーを広角で撃ち込まれている」
「どうしましょうか? 」
と、エマ・ラトナー。
「皆、そのままで聴いてくれ。判っている事を言う。このゲームフィールドの広さで、こんなにも早く他艦を感知したと言う事は、少なくとも本艦の出航ポイントは、ランダム設定でなかった。推進本部の意図は、本艦を試すのか鍛えるのかのどちらかだろう。沈めるつもりでやっているのだとしたら、本艦を舐めていると言う事だ。艦長より全乗員へ。これより本艦は、予定を前倒しして実戦訓練に入る! コンピューター、ロストする前の彼我の位置、コース、速度を加味して3D投影! 」
【コンプリート】
ブリッジ中央部の空間に3Dチャートが投影される。数秒眺めて息を吐くと、軽く首を振る。
「何にしても、まだ距離が遠い。この距離ならアポジモーターを使われても、パワーサインを感知できない。と、なれば…艦首ミサイル発射管6番に、アクティブ・パワースキャンをプログラムしたデコイを装填して発射スタンバイ。誘導コースはこれを入力してくれ」
そう言ってキャプテンシート前のタッチパネルで誘導コースを入力し、左舷のミサイル・オペレーター、リサ・カントに送った。
「次にエマ・ラトナー。デコイを発射したら、方位268マーク109に大きい岩塊が観えるな? それの右側面に照準を付けて、ロケットアンカー1番2番を発射して撃ち込み、直ちにアンカーを巻き上げてくれ。本艦はこの方法でエンジンを使わずに変針・操艦し、岩塊デプリを廻り込んで、相手艦に気付かせずに接近する。そして頃合いを測り、デコイのアクティブ・パワースキャンで相手艦の位置を確認。直後にデコイを起爆させ、同時にエンジン始動して全速発進。デコイ爆発のエネルギー反応が相手艦のセンサーレンジを撹乱している間に追跡コースを採って相手艦の後方から接近。爆発余波によるセンサーレンジの撹乱が治まるまでの間に、射程距離内に侵入して先制攻撃を掛ける。エドナ・ラティス砲術長、主砲全力斉射8連をセット。ターゲットスキャナーの絞り込みを頼む。よし。デコイ発射30秒前! デコイプログラム確認! 総員第1戦闘配置! 右舷艦首ロケットアンカー照準! 」
ゲームフィールド内は岩塊デプリが多いので、レーダーサイトでは敵艦を判別できない。
艦船がエンジンが稼働させれば、発するエネルギー反応(パワーサイン)をパッシブセンサーが感知して位置を特定できる。
自艦の近傍でより大きい爆発を起こせば、そのエネルギー反応が敵艦のセンサーレンジを撹乱して、自艦のエンジンが発するエネルギー反応を紛れさせて、判別できなくさせられる。
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地球はマントル対流が加速した事で発電ダイナモのような様相を呈し始め、循還流磁場磁束帯(地球磁場D層)が地殻付近にまで浮上し、全地球的に地殻変動が活発化し、全地球的に火山活動も活発化し、最終的に地球はマグマオーシャンに満たされ、焔の球となった。
人類はそうなる以前に太陽系内惑星領域から外惑星領域に掛けて拡散して居住していた。
宇宙での人口環境の中での生活に疲れた人類は、地球型の第二の故郷となる惑星を求め始めた。
超光速航法を開発して獲得した人類は外宇宙に進出を始める。
やがて奇妙な連星の惑星系の宙域に到達した人類は、冒険の渦中に入る。
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
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INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
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祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
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※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
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